第五話:居候
三歳になった。
三歳になってようやく親、メイドさんの名前を知れた。
俺 :ルナティス・ヴェスペリア
父親:アスロ・ヴェスペリア
母親:セレア・ヴェスペリア
メイド:レイラ
そして、アスロはこの領地、トランス領の管理を任されているようだ。
…
我が家に変化が起きた。
弟、妹ができた訳では無い。
居候として、現在五歳の少年を養うことになった。
何があったか整理しよう。
…
まず、三歳になって何週間か経った後、アスロは仕事をしに行った。
その仕事は、森の魔物を討伐するものであるらしい。
魔物討伐は、これまで剣士の父親と、北剣流の男性、短略詠唱魔術師の三人が主戦力でやってきたようだ。
だが、男性と女性との間に子供ができ、女性の方は引退してしまったらしい。
二週間前、正体不明の魔物が現れたようで、それの対処のために、引退した女性も参加したらしい。
そして当日、正体不明の魔物は倒せたようだ。
しかし、戦闘中、女性を庇って男性が死亡し、女性は体が鈍っていたせいで死亡したらしい。
ちなみに、女性の方はアスロにほぼ無理やり参戦させたらしい。
子供が居るのに参戦させるなんて、人として以上に親として最低なのでは?
夫婦の子供である、五歳のローディスさんを居候として養うことになった。
…
ローディスさんを迎える前日、アスロにこのようなことを言われた。
「ルナ、ローディス君には、家族が死んでしまって、
かなり心が傷ついてるんだ。
だから、ローディス君に何か嫌なことを言われて
も、ローディス君には何も言わないでくれ。
その代わり、父さんには何を言っても構わないから
さ」
「わかりました、父様」
流石に俺もローディス君に余程のことを言われない限りは喧嘩しないだろう。
アスロがクズだとか最低という話をしてきたら、俺も同調しよう。
全くの同意見だからな。
…
受け入れ当日
遠くに荷物を背負った金髪の少年が見えた。
あの子だろう。
少年は家の前まで着くと、こちらに頭を下げた。
「ローディスです、これからどうぞよろしくお願いし
ます。」
「アスロ・ヴェスペリアだ。
まぁ取り敢えず中に入ろうか」
「…はい」
全員家に入り、軽く自己紹介を済ませると、ローディスはこんな事を言った。
「アスロさん、僕も家事を手伝ってもいいでしょうか?」
「構わないが、どうして?」
「ただ養われるだけなのでは居心地が悪いので。
ただその代わり、僕にも多少剣術や魔術を教えてく
れませんか?
勿論、ルナティス君を優先して構いませんので」
「………分かった。
ルナは普段、午前に魔術、午後に剣術を習ってるか
ら、ローディス君は午前に俺から剣術、午後はリリ
アさんから魔術を教えてもらってくれ」
「ありがとうございます」
ローディスさんしっかりしすぎでは?
いくら親がいなくて自分が頑張るしかないといえ、ここまで出来るとは、前世の俺は泣くね。
という感じで、彼は我が家の一員に加わった。
…
俺は基本的にローディスさんを兄様と呼んでいる。
ほぼ家族だし俺より年上なので、そう呼ぶことにした。
俺はリリアさんから新たに混合魔術を習った。
混合魔術とは、複数の魔術を組み合わせた、特別な効果のみ魔術のことだそうだ。
混合魔術はとても簡単にできた。
理由は、前世の科学知識を応用することができたからだ。
前世では生成吸収であったため、大体の科学知識は覚えている。
科学知識を基にした魔術への理解力と、想像力をもってすれば、難易度的には魔術の複数発動と相対して変わらなかった。
混合魔術は、俺は拘束用泥沼、目眩まし用深霧、移動用突風の三つを好んでいる。
剣士相手の時はこれぐらいは覚えておかないと瞬で殺されそうだからな。
…
研究成果を発表する。
剣士のほとんどが使う(アスロ談)魔力強化は、体そのものに魔力を纏わせているのだ。
イメージは、筋肉の間々に魔力を流し込み固める。
そうすることで、魔力による筋肉の一時発達や、魔力によるダメージ軽減が起こる。
俺も挑戦したが、感覚が難しかったため、まだ続きそうだ。
─ ローディス視点 ─
俺は俺が嫌いだ。
両親が喧嘩した時は、俺は関わらないようにそっと離れていた。
俺は優秀だと驕り、両親を困らせた。
齢2歳の弟を目の前でイジメっ子たちに殺された。
ただ呆然と見ていることしか出来なかった。
優秀だろうと意味がない。
大切な者を守れない力に、何の意味があるというのか。
弟の、あの、泣いて俺を見ていたあの目が、一年経った今も忘れられない。
俺の無力さを、怯えぶりを、心の弱さを、憎んだ。
俺が、殺したのだ。
両親が死んだ。
アスロ・ヴェスペリアという人に半ば無理矢理連れて行かれた。
その時母さんは笑顔で言ってくれた。
「大丈夫、必ず戻ってくるからね」
帰ってきたのは、両親の骨と遺品だった。
父は鈍った母を庇い、魔物に切り殺された。
母はその甲斐なく、魔物に噛み殺された。
俺は父の二振りの短剣と笛を、母の杖とペンダントを貰った。
泣いた。
落ち着いた頃、両親を無理矢理連れ行ったアスロのところへ向かった。
「俺の、父さんと母さんを、返せ!!!」
憎くて仕方がなかった。
あの二人をあんなのにしたコイツを、
許せるわけがなかった。
「ごめんな」
ごめんで許されるか!
更に怒りが湧いた。
だが、一瞬できた冷静さに、理性が戻された。
(コイツは、ここの管理者だ。
警備も仕事。
コイツはただ、仕事を果たそうと、
華族の日銭を稼ごうとしただけなのだ)
分かってしまえば、この男に何を言えようか。
憎くても、憎くても、今一番悪いのは、俺なんだ。
大人の事情に、分かったつもりで入り込んでる。
「………八つ当たりして…すみません」
家に帰ると、俺は一人きりだった。
…
翌日の昼、首を吊った。
短剣で首を刺さなかったのは、父の形見を汚したくなかったのか、誰かに見つけてほしかったのか、よく分からない。
意識を落とした。
…
偶然、俺の家まで来てくれたアスロに助けられた。
「………何で、助けてくれたんですか?」
なんでなんだろう。
あんな八つ当たりをしたのに、無力で無能の俺を助けてくれたのが、気になった。
「なんでって、そりゃ…お前があいつらの子供だからだ。
俺は君の両親を、無理矢理連れてって、殺した。
だったら忘れ形見の君を生かさなきゃ、俺は君の両
親に顔向けできないから」
そんな理由で?
俺を、生かしたのか?
「俺は、無力で、無能です。
何も出来ないのに、どうして何かを成し遂げられる
家族が、死んだんですか」
「子供は、何も出来ない。
子供は、親の姿を見て、友達と接して、成長してい
くものだ。
君には無限の未来がある。
だから、俺の家で、学ばないか?
俺にも三歳位の息子がいてさぁ、……………………………」
俺は、ヴェスペリア家で暮らすこととなった。
そして、魔術と剣術を学ぶようにもなった。
力が欲しい。
誰かを守れる力が。
…
ヴェスペリアの長男、ルナティス君にはよく兄様と呼ばれている。
可愛い。
俺が守れてれば、あの子も今頃こんなふうに育ってたんだろうな。
─ ルナティス視点 ─
ローディスさん含めた家族仲は良好。
研究成果を出す。
魔力強化は、常時発動できるようにまでは鍛えられた。
そして、雷撃魔法は、直線的な電気、全方向広範囲への電撃、上空からの雷撃の三種を完成できた。
後は威力、範囲の向上だ。
…
そして、ローディスさんに、魔術を教えてほしいと言われたので、魔術じゃないが、魔力操作の方法を教えた。
役に立っていればいいのだが………。
このまま家族仲が続けばいいのだが。
ローディスは五歳ですが、こ両親が死んだショックで、心の自我が死んで、あの冷静さを得ました。