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第一章 ⑧
少し沈黙が続いたが、沈黙に耐えきれず僕は当たり障りない内容を話すことにした。
「急に降りだしましたね。」
「え…?」
「雨。」
「あ…はい。」
「傘…壊れてるんですか…?」
「え…?」
「いや、差さなかったのかなって…」
「あ…いえ…忘れてて…」
彼女はとんだおっちょこちょいなんだろうか、雨が降るであろうと予測して持ってきたはずの傘の存在を忘れることなどあるのだろうか。
ましてや折り畳み傘などではない。
カバンに入れて忘れていた、という理由も当てはまらない。
彼女への疑問がまた増えたが、ひとまず、それが彼女の傘だという疑問は解決した。