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第一章 ⑤
彼女は、僕の声に少し驚いた様子でこちらへ顔を向けた。
そこで僕は初めて気づいた。
彼女が泣いていることに。
少しつり上がった切れ長の目。
薄い茶色がかったまんまるな瞳。
泣いているせいかその瞳は潤んでいた。
「雨が……止まなくて…」
雨に書き消されそうなほど小さくか細い声だったのだが、なぜだろう。
彼女の声は僕の耳にはっきりと聞こえた。
まるで雨のBGMなんて鳴っていないかのような空間にいるようだった。
いや、声が雨を掻き分けて僕の耳に直接やって来た、と言った方がしっくりくるかな。
その声と言葉が僕の中で木霊していた。