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第一章 ②
走り疲れて少し歩くとバス停が見えた。
毎日と言っていい程通り過ぎるバス停だ。
木製の看板は腐朽していて、塗られたペンキは随分と剥げている。
バス停の名前は誰かが見えるように上からなぞったんだろう。
名前だけが雨を弾いて、そこだけ浮き出ているように見える。
「ここなら少しは雨をしのげるかな…」
僕は、息を整えながらそのバス停へゆっくりと歩み寄った。
バス停には決して頑丈とは言えない、木製の小さな待合室がある。
2時間に1本あるかないかのバスの待合室には、いつもは誰もいないことが多いが、今日は雨のせいか待ち人がいるようだ。
いつもいない待ち人に僕は少し戸惑ったが、雨足が弱まる様子もないし、なにより走り疲れた身体を休ませたかった。
少しだけならいいだろうと、待合室へ入ることにした。