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第一章 ⑬
母は泣き虫だと思う。
僕はそんな泣き虫な母が嫌いだった。
泣き虫は弱い人間。
そう思っていたからかもしれない。
ある日突然、知らない男の人が家にやって来て、いつの間にかいなくなる。
その度に、母は泣いていた。
そして、僕に
「ごめんね…」
と言っていた。
僕には、そんな母の涙の訳も「ごめんね」の理由も分からなかった。
その時の僕はただ、首を横に振ることしかできなかった。
そんな泣き虫な母と過ごしたせいか、僕は「女性」という人間と接することが苦手となっていた。
女性が泣くことが、悲しい顔をしてこちらを見る瞳が怖かった。
僕にはどうすることもできないと知ったから。
そう感じ始めてから「女性」という人間を避けてきたような気がする。
女友達と呼べる者も作ろうと思えなかった。
そんな僕の19年間。
そんな僕の前に突然現れた謎の女性。
僕はなぜか怖くなかった。
悲しみに包まれた彼女の瞳が。
そして初めて知りたいと思った。
涙の訳を。