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第一章 ⑫ *
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「ただいま。」
僕は学校に行く気持ちになれず、家路についた。
若者一人が住むには古く広すぎるこの家は、祖父母の家だ。
祖父母とも、僕が高校生の時に亡くなった。
僕は二人がとても好きだった。
小さいころからこの家に何度も預けられた。
その度に、祖父母は温かく迎え入れてくれた。
祖父母には娘が二人いる。
長女が僕の母だ。
祖母から聞いた話だと、僕の母は小さい頃からおてんば娘で、18の時に僕がお腹にいることが分かったが、厳格な祖父から結婚を反対され家出同然でこの家を出ていったらしい。
それから4年後に突然僕を連れて
「少しだけ預かってほしい。」
と言って僕を置いていったらしい。
少しだけと言った母は半年後に僕を迎えに来るのだが、その時も祖父とケンカをして泣いていたらしい。
僕は、その時の涙を覚えている。
その時が、僕が覚えている中で初めて見る母の涙だったからかもしれない。