7話 交易都市ハーラ
クリスタの家を出発して数日が経った。ブレイズとヘルガは街道を歩いていた。するとようやく交易都市のハーラが見えてきた。
周りを見渡すと街道も広くなってきて、人通りも多くなっていた。多くは商品を積んだ馬車だった。これからハーラで商売をするためにやって来たのだろう。
ハーラは大きな港がある港湾都市でもあった。そのため街に近づくと、海沿い特有の磯の匂いがした。
そして二人は街の関所を通り、ハーラの街へと入った。ハーラは人と物に溢れており、とても活気のある街だった。
街の道には石畳が敷かれており、歩きやすく、また綺麗な街並みを演出していた。そして道沿いには露店が並んでおり、食品から小物など、様々なものが売っていた。
「すごいわね、ブレイズ! こんなに大きな街初めて来たわ!」
ノルグの街の周辺でしか過ごしてこなかったヘルガは、初めての大きな活気のある街に興奮していた。
「ねぇブレイズ、あの店を見たいわ!」
そう言ってヘルガは露店を指差した。
「後でな。まずは宿を取るぞ」
「はーい、わかったわ」
ブレイズは露店を巡る前に、まずは宿を取ることにした。何日も歩いて疲れが溜まっていたため、宿の部屋で休憩したかったのだ。
ブレイズとヘルガは中程度のランクの宿屋へと入っていった。そこは内装が綺麗な宿屋だった。宿屋に入ったブレイズは受付で宿を取ろうとした。
「二部屋借りたいんだが、空いてるか?」
「申し訳ございません。現在部屋は満室となっておりまして……」
「そうなのか。わかった」
この宿屋はすでに満室だった。そのためブレイズとヘルガは別の宿屋へと向かった。しかしそこもすでに満室だった。
ハーラは交通の要所であるため、常に旅人や商人で溢れており、どの宿屋もすでに満室だった。空いている宿屋は高級なところしかなく、現在の路銀では泊まれるような場所ではなかった。
ブレイズとヘルガは街中を歩き回り、宿屋を巡った。そしてようやく空いている宿屋を見つけた。そこは街の外れにある安い宿屋だった。
上等な宿ではなかったが、雨風をしのげてベッドがあるだけマシだった。ブレイズとヘルガはそれぞれの部屋に入り、少ない荷物を置いた。そして二人は宿屋を出て、街中に繰り出した。
二人がまず武器屋へと向かうことにした。大太刀と槍のメンテナンスをしてもらうためだ。この街に来る途中も怪物や動物と戦いながら来ていてたため、そろそろ武器の修繕が必要だと感じていたのだ。
ブレイズとヘルガは街で武器屋について聞き込み、一番評判の良い武器屋へとやって来た。中に入ると、そこには数々の武器が並んでいて、壮観だった。
「いらっしゃい、今日は何をお求めで?」
「武器の修繕をしてもらいたい」
「それならお安いご用だ。武器を預かってもいいかい?」
「ああ、頼む」
そう言うとブレイズとヘルガはそれぞれ大太刀と槍を店主に渡した。武器を受け取った店主は大太刀を鞘から抜いて眺めた。
じっくりと大太刀を観察した店主は、とても興奮した様子だった。
「お客さん、これかなりの業物じゃないか! いやー、こんな良い武器を扱えるなんて、この商売をやってて良かったよ!」
店主はブレイズの大太刀がかなりの業物であることを看破した。
「こんな良い武器を持ってるなんて、お客さん、ただ者じゃないね。何者だい?」
「悪いな、自分の事は話したくないんだ」
「そうかい、まあいいさ。秘密は誰にでもあるもんだ」
店主はこんな業物を使っているブレイズのことを知りたがった。しかし正体を明かすことの出来ないブレイズは言葉を濁した。
しかし店主はブレイズの事情を汲んで、それ以上聞くことはしなかった。これ以上聞いて、大事な客を逃したくなかったからでもある。
「対して損傷している様子もないし、これなら明日にでも渡せるよ」
「助かる」
ブレイズとヘルガの武器は直すところが少なかったため、明日には修繕が終わるようだった。それを聞いた二人は代金を支払い、店を後にした。
武器を預けた二人はクエストを受けることが出来ないため、今日一日は街を巡ってゆっくりと過ごすことにした。
「まずは飯でも食いに行くか」
「うん! そうしましょう!」
二人はまず空腹を満たすために、ハーラで安く美味しいと評判の店に行った。そこは近海で採れた魚の料理がオススメらしかった。
席に着いたブレイズはオススメの料理を二人分頼んだ。そしてそこに運ばれてきたのは、大きな白身魚を酒蒸しにしたものと、魚のフライだった。それにパンや芋も付いてきた。
ブレイズはフードを目深に被ると仮面を外して、なるべく顔が見えないように料理を食べ始めた。ヘルガもブレイズに続いて料理に手を付けた。
料理はどちらも二人分とは思えないほどボリュームがあり、味も美味しかったため、とても満足するものだった。
「ここの料理、美味しいわね!」
「そうだな」
ブレイズは美味しそうに料理を食べるヘルガを見て微笑んだ。そして二人はハーラの街の料理を堪能した。
食事を終えた二人は、露店が並ぶ地区に足を運んだ。そこで買い物をするつもりなのだ。ヘルガは楽しそうに露店を見て回った。
そしてある露店の前でヘルガは足を止めた。そこは宝石があしらわれたアクセサリーが売っていた。ヘルガはアクセサリーを吟味すると、黄色の宝石が付いているブレスレットを買った。
「見て、ブレイズ! 似合うかしら?」
「ああ、似合ってるぞ」
ブレイズに似合っていると言われたヘルガは、ブレスレットを買って良かったと思った。一方でブレイズは珍しい果実から作られた酒が売られていたので、それを買っていた。この酒はブレイズの晩酌用だった。
こうして二人は、少ない路銀でハーラの街を巡って楽しんだ。街を一通り回った二人は、日が落ちてきたので宿屋へと戻り、眠りに就いた。
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