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5話 ヘルガの過去

 ブレイズとともに旅に出ることになった少女、ヘルガは孤児だった。幼い頃に親に捨てられ孤児院で生きてきた。


 孤児院での生活は貧しかった。そのためよく食糧を探すために、子供たちだけで森に入ることがあった。ヘルガたちにとってはいつものことだった。しかしその時はいつもと違うことがあった。


 森に入った子供たちの前に、腹を空かせた狼が現れたのだ。逃げ惑う子供たち。一人、また一人と狼の餌食になっていった。そして順番はヘルガに回って来た。


 狼はヘルガに噛みつこうと、飛びかかった。そのときヘルガは無我夢中で狼と戦った。すると信じられないことに、ヘルガは狼を殴り殺していた。


 ヘルガは狼に襲われることをきっかけに、戦闘の才が覚醒したのだ。この事件を切っ掛けにヘルガは自身の才能に気付き、怪物を狩るようになった。


 幼いながらに怪物狩りを始めたヘルガは、何度か仲間を得ることがあった。しかしどれも長続きはしなかった。


 ヘルガは絶望的に空気が読めなく、また我の強さのため仲間とすぐに喧嘩になり、パーティを解消することになった。


 そのためヘルガは一人で怪物退治をしていた。それでもヘルガは持ち前の強さで、一人でも成果を上げていった。そしてヘルガはノルグの街の筆頭冒険者となった。


 しかし筆頭冒険者となっても、ヘルガの毎日は退屈だった。ノルグの街の周辺の怪物の強さは、ヘルガの実力に遠く及ばず、命の危険やスリルとは無縁だった。


 退屈を極めたヘルガは新人育成をしようと考えた。新人の内に唾を付けておけば、仲間にしやすいと考えたのだ。また筆頭冒険者として新人教育は義務だと思ったためでもある。


 しかしほとんどの新人はヘルガを女だからと舐め、ろくにアドバイスを聞かずにそのまま死んでいった。


 そんな毎日を過ごす中、ギルドにまたしても新人がやって来た。その新人は身長二メートルはあろうかという巨躯で、さらに歴戦の冒険者の風格を纏っていた。


 その新人は受付を済ませると、すぐにクエストの張られた掲示板を見ていた。そしてヘルガがマークしていた依頼を手に取った。ヘルガはその依頼は新人には危険過ぎると思い、急いで奪い取ることにした。


 新人は強情だったが、槍を見せると素直に依頼を渡してきた。


(今回の新人は聞き分けがいいわね)


 ヘルガは今回の新人は良い子だと思った。


 そして翌日、同じ新人がワイバーンの討伐という高難度のクエストを受けようとしていた。それを見たヘルガは新人に死んで欲しくないと思い、助言をした。


「そんな難しい依頼、新人のあなたには荷が重いんじゃない? 無理は禁物よ」


 しかし新人はヘルガの助言を無視しようとした。新人に死んで欲しくないヘルガは、無理矢理クエストに同行することにした。


 そこでヘルガは新人、レイの強さを知った。ヘルガと同じくらいの強さを持つレイに、驚きを隠せなかった。そして自分の退屈な日常に終わりが来ることを悟った。


 ヘルガはレイとどうしてもパーティを組みたかったが、レイは流浪の身らしく、この街に長居する気はないようだった。


 それでも街にいる間は一緒に依頼を受けてくれるらしかった。久しぶりの仲間が出来たことにヘルガは嬉しくなった。


 そこから二人は一緒に何度かクエストをこなした。ヘルガは今までの退屈な日常が嘘のように楽しかった。


 しかしあるとき、クエストを終えてギルドに帰ると、男たちがレイに襲いかかった。レイは一太刀を浴び体勢を崩した。それを見たヘルガは勝手に体が動いていた。


 せっかく出来た仲間が、有象無象に殺されるのを見ているのは嫌だったのだ。そうしてヘルガはレイを死なせないために一緒に戦うことを選んだ。


 そして敵を皆殺しにした二人は、急いで街から逃げ出した。持ち物などはほとんど置いてきてしまったが、ヘルガに未練はなかった。なぜなら最高の仲間が手に入ったからだ。


 ヘルガは街から逃げながら、何か楽しい事が始まる予感がしていた。その胸の高鳴りとともにヘルガはブレイズの旅に加わった。



          ※



 ノルグの街から逃げ出して数日、ブレイズとヘルガは街道を通らず、人目を避けるために森の中を進んでいた。そして夜になり、野営をしていた。


 火の番をするため交代交代に眠っており、今はブレイズの番だった。そんなブレイズは無性にムラムラしていた。


 街を逃げ出してから数日間、ヘルガと常に一緒にいるため、自分で抜くタイミングがなかったのだ。そのため性欲を解消出来ないでいた。


 ヘルガに手を出すのは流石に倫理観がマズいと告げていた。そもそも王宮を追放されたのも、自分の性欲が原因なのだ。少し自制を覚えねばとブレイズは感じていた。


 そのためブレイズはムラムラを抱えながら夜を堪え忍んだ。


 そして夜が明けるとヘルガが起床した。ヘルガはブレイズが性欲に苦しんでいるとは露も知らず、熟睡していた。


 二人は少ない荷物をまとめると人里を目指して歩みを進めた。


 そして歩くこと半日、二人は小さな村に辿り着いた。村に着いたブレイズは、適当な村人に話しかけた


「ちょっといいか。どこか泊まれるところはないか? それから何か仕事はないか?」


「おやおや旅人さんですか、泊まるところなら一軒空き家があるのでそこに泊まるといいでしょう。仕事については村長に聞くといいでしょう」


「ありがとう、助かった」


 ブレイズは礼を言うと、そのまま村長の家を目指した。そして家の扉をノックすると、村長が暖かく迎えてくれた。


 村長に会ったブレイズは早速仕事について尋ねた。


「村長、何か仕事か困り事はないか? 見ての通り腕っ節には自身がある。大抵のことならこなせると思うぞ」


 ブレイズは村長に自慢の大太刀と鍛え上げた肉体を見せ、どんな依頼でもこなせると豪語した。ヘルガも真似して力こぶを作って見せた。


「でしたら、最近村の畑を猪が荒らしてくるのです。それの駆除をお願い出来ますか?」


「猪の駆除だな、それなら楽勝だぜ」


「お気を付けください。村の若いのが挑んだのですが、皆返り討ちに遭いました」


 依頼を受けたブレイズとヘルガは村長の家を後にし、空き家に足を運んだ。そして空き家に入ると、そこにあったベッドに飛び込んだ。


 最高のベッドではなかったが、野営続きの体には極上のものに感じた。横になったブレイズにヘルガは一つの疑問を投げかけた。


「いつもこんな風に依頼を受けながら、旅をしているの?」


「ああ、そうだ。不満か?」


「ううん、街にいるときより全然楽しいわ! それに誰かの役に立ってるって実感があるわ!」


「そうか、良かった」


 ブレイズとヘルガは談笑をしながら、猪が現れる夜まで時間を潰した。


 そして夜になり、二人は畑に向かった。畑には小さい猪が数匹いた。二人はそれを手に持った武器で駆除していった。


「何だ、こんなもんか」


 ブレイズはあまりに楽な依頼に拍子抜けしていた。そして最後の一匹を駆除した。最後の一匹は断末魔を上げ、死んでいった。


 ブレイズとヘルガは駆除を終えたと思い、空き家に帰ろうとした。すると森の方から、枝を踏む足音が聞こえた。


 二人が森の方を注視すると、そこには岩のように大きな猪がいた。


「親玉か、いいね! そうでなくっちゃな!」


 大猪は仲間を殺されたことに怒っており、鳴き声を上げ二人を威嚇した。そして大猪は地面を蹴って突進してきた。


 二人は突進を躱し、それぞれ攻撃をした。ブレイズは大太刀で斬り上げ、ヘルガは槍で大猪を突いた。しかし大猪の毛皮は分厚く、大太刀も槍も浅くしか傷を付けることが出来なかった。


「表面しか切れないか……、これは時間がかかるな」


 傷を付けられた大猪はさらに怒り、二人目掛けて突進を繰り返した。大猪は図体の割に素早く、二人を翻弄した。


「ちょこまか逃げやがって!」


 ブレイズは大猪の正面に立つと、大猪の突進を真正面から受け止めた。


「ぐぅっ!」


 ブレイズは踏ん張って突進の衝撃に耐え、大猪の動きを止めた。


「今だ、ヘルガ!」


「わかったわ!」


 ヘルガはブレイズが大猪を抑えている隙に、渾身の力を振り絞って大猪に槍を突き立てた。急所を突かれた大猪は大きな断末魔を上げ、そのまま絶命した。


「やったわね!」


 大猪を倒したヘルガは嬉しそうにブレイズに駆け寄った。ブレイズは一息つくと、大猪を引きずって畑から村へと運んだ。


 大猪が運ばれてくると、村人たちは驚いて腰を抜かす者までいた。そして村人を代表して村長がブレイズとヘルガにお礼を言った。


「ありがとうございます。これで村は平和になります」


「いいってことよ」


「少ないですが、これをどうぞ」


 そう言うと村長は報酬の硬貨が入った袋を渡してきた。報酬は少なかったが、辺境の村ではこんなものだろうと、ブレイズは納得した。


 ブレイズとヘルガは報酬を受け取ると、空き家へと戻っていき、そこですぐに眠りについた。戦いの疲れは思ったよりもあったのだ。


 二人は村人の役に立ったという満足感を胸に、ぐっすりと眠った。


 そして夜が明けると、ブレイズとヘルガはすぐに村を立つ準備をした。なぜなら、うかうかしていると追手に追いつかれて命が危険だからだ。それに戦いが起こっては村人に迷惑がかかるからだ。


 二人は準備を終えると村長の家に行き、すぐに村を立つことを伝えた。


「もう少しゆっくりしていかれたらどうです? 村の者も歓迎しております」


「悪いな、ちょっと急ぎの用事があるんだ」


「そうですか、ではお気を付けて」


 二人が挨拶を終え村長の家を出ると、何人かの村人が待っていた。村人は昨日倒した猪の肉を燻製にして、二人に持たせてくれた。


「感謝する」


「ありがとう!」


 二人は村人にお礼を言うと、足早に村を後にした。その背中を村人は手を振って見送った。


「ねぇ、次はどこに向かうの?」


「次の目的地は交易都市のハーラだ」


「海の近くの街よね? 楽しみだわ!」


 こうして二人は次の目的地を目指して歩みを進めた。


読んでいただきありがとうございます。

次回更新は6月9日の0時です。

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