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4話 正体

 翌日、ブレイズが再びギルドに赴くと、昨日の頭のおかしい女にまた絡まれた。


「昨日は依頼譲ってくれてありがとうね! おかげでたくさん稼げたわ!」


「それはよかったな」


 ブレイズは素っ気なく返事をした。そしてブレイズは掲示板に貼られている依頼を吟味した。それに頭のおかしい女が口を出してきた。


「新人ならこの依頼がいいんじゃないかしら?」


 そう言って女が指差したのは薬草採集の依頼だった。初心者でも出来る簡単な依頼のため報酬はかなり安かった。


(舐めてんのか、この女?)


 ブレイズは女の提案に舐められていると感じた。内心沸々と怒りが上がってきていたが、何とか我慢した。


 そしてブレイズは高難度の依頼の欄に張られている、ワイバーンの討伐の依頼書を手に取った。それを見た女はまた口を出してきた。


「そんな難しい依頼、新人のあなたには荷が重いんじゃない? 無理は禁物よ」


 女は優しさから忠告しているのだろうが、ブレイズからすれば鬱陶しいことこの上なかった。ブレイズは女の忠告を無視して依頼を受付へ持って行こうとした。


 すると女がブレイズの前に立ち塞がった。


「もう! 男って皆無理しようとするわよね! 危ないから今回はあたしが一緒に付いていってあげるわ!」


「何言ってんだ、お前?」


 女のあまりにも突飛な申し入れに思わずブレイズはツッコミを入れてしまった。


「将来有望そうな新人が死ぬのを見たくないだけよ。さ、一緒に行きましょ!」


「いや、俺一人で十分なんだが……」


 ブレイズが断りを入れようとすると、女は鋭い目を向け、さらにブレイズに槍を向けてきた。


「先輩の言うことは大人しく聞いた方がいいわよ」


 騒ぎを起こして目を付けられたくないブレイズは、渋々女の提案に従うことにした。


「わかったよ……。邪魔だけはするなよ」


 そうしてブレイズは頭のおかしい女と共にワイバーンの討伐に向かうこととなった。



          ※



 ワイバーン討伐に向かうため、二人はギルドを出発し、街を出た。歩いている間、女はずっと話しっぱなしだった。


「あなた名前は何て言うの? あたしはヘルガ! よろしくね!」


「俺はレイだ」


 ブレイズは偽名を名乗った。


「よろしくね、レイ!」


 そしてヘルガはワイバーン討伐に向かう道中、ずっとどれだけ自分が凄いかを話してきた。


「あたしはこの街のギルドで一番の実力者なの! 何たって十五歳の時ときには一人で人狼を倒したのよ! それから十六歳のときにはドラゴンまで倒したのよ!」


「そうか、それは凄いな」


 ブレイズは適当に相槌を返した。


「そう! 凄いでしょ! でも同じギルドの人たちは何故かあたしとパーティを組んでくれないのよね。どうしてかしら?」


(たぶんウザったいからだと思うぞ)


 ブレイズは理由がわかったが、あえて口には出さなかった。余計なことを言ってまた槍を向けられては面倒だからだ。


 そしてブレイズがヘルガの自慢話に飽き飽きしてきた頃、二人はワイバーンの巣の近くに到着した。ワイバーンの巣は街道のすぐ近くにあった。これほど近くにあれば、人間を襲うようになるのも時間の問題だろう。


 巣に近づくとそこには二匹のワイバーンがいた。ワイバーンは一対の翼を持ち、鋭い爪と牙で空を支配する怪物だ。


「よし、行くわよ。足を引っ張るんじゃないわよ!」


「こっちの台詞だ!」


 武器を抜いたブレイズとヘルガは、ワイバーンに向かって突撃した。二人の接近に気付いたワイバーンは空へと飛び上がり、臨戦態勢になった。


「ちょうど二匹居るわね。一匹は頼むわよ!」


 そう言うとヘルガは空高く跳躍し、空を飛ぶワイバーンの一匹に槍を突き立てた。そしてそのままヘルガはワイバーンを地面に突き落とした。


 地面に体を叩きつけられてワイバーンはすぐに立ち上がり、ヘルガに向かって噛みつこうとした。ヘルガはそれを躱すと、ワイバーンの翼を槍で突き、いくつもの穴を開けた。


「これで飛べないでしょ!」


 翼に穴を開けられ飛べなくなったワイバーンは、怒りからヘルガに向かって火を吐いた。ヘルガはブレスを躱し、一気にワイバーンに近づいた。


 そして懐に潜り込むと、槍でワイバーンの体を貫いた。ちょうど心臓を貫かれたワイバーンはそのまま絶命し、地面に倒れた。


 一匹目のワイバーンを倒したヘルガは、すぐにブレイズに加勢しようとした。しかしヘルガが目を向けるとそこには、首を切断されたワイバーンの死体があった。


 ブレイズはヘルガが倒すより早く、ワイバーンを倒していた。


「あんた凄い強いじゃない!」


 ヘルガはブレイズの強さに驚いていた。実力はある方だとは思っていたが、ここまで強いとは思っていなかったのだ。


「やるじゃない! あたしぐらい強いんじゃないの?」


 ヘルガはブレイズの背中をバンバンと叩き、ブレイズを褒めた。そして二人は討伐の証のワイバーンの首を持つと、街へと戻っていった。


 その道中、ヘルガはブレイズを仲間にならないかとしつこく勧誘した。


「ねえ、あたしとパーティ組みましょうよ! 実力が近いあたしたちなら、きっといいパーティになるわ!」


「悪いな、この街に長居する気はないんだ。だからパーティは別の奴と組んでくれ」


「そう、残念ね……。じゃあ、この街にいる間は一緒に依頼を受けましょうよ!」


 パーティへの誘いをブレイズは断った。しかしヘルガはそれならと、街にいる間は一緒に依頼を受けようと提案してきた。断ってまた槍を向けられるのも面倒だと思ったブレイズはその提案を了承した。


「やった! 久しぶりに仲間が出来たわ! 短い間だけどよろしくね、レイ!」



          ※



 街に滞在して数日、今日もブレイズはヘルガと一緒に依頼を受けていた。今日の依頼はグールの群れの討伐だった。


 グール、死体を喰らう醜い人型の怪物だ。一匹一匹は弱いが群れると面倒な怪物だった。そのグールを二人は討伐しに郊外に出向いていた。


「ふう、これで全部か」


「結構いたわね」


 グールは最初、威勢良く二人に襲いかかって来たが、歴戦のモンスタースレイヤーであるブレイズにとっては群れたところで問題ではなかった。それに加え、自称この町一番の冒険者であるヘルガまでいたのだ。グールの討伐は一瞬で終わった。


「うえ、返り血がたくさん付いたわね。近くの川に流しに行きましょ」


「そうしよう」


 依頼が終わった二人は汗と返り血を流すために近くの川に向かった。川に着いた二人は装備を脱ぎ、タオルで体を拭き始めた。


「ねえ、何でレイは仮面を付けてるの?」


「ちょっと事情があってな」


 ヘルガは頑なに仮面を取らないブレイズを不思議に思った。


「傷でもあるの?」


「いや、そういう訳じゃないんだが……」


「ふーん」


 するとヘルガはブレイズの一瞬の隙を突いて仮面を外した。緊張を解いていたブレイズはヘルガに反応することが出来なかった。


 そしてブレイズはヘルガに素顔を晒してしまった。


(マズいな……)


 素顔を見られたブレイズはすぐに臨戦態勢を取った。しかしヘルガの反応はブレイズの予想とは違うものだった。


「何よ、綺麗な顔じゃない」


 ヘルガは素直な感想を言うだけで、ブレイズを襲おうとはしていなかった。


「お前、俺を知らないのか?」


「何? 有名人なの?」


「いや、知らないならいい」


 ヘルガはブレイズの噂のことを知らなかったようだった。そのため殺さなくても済んだ。ブレイズは臨戦態勢を解き、落ちた仮面を拾い再び顔に付けた。


 そして体を拭き終わった二人は街へと戻っていった。



          ※



 二人がグール討伐から戻り、ギルドに入ると、大勢の男たちがブレイズを待っていた。


「待ってたぜ、『ガーディルのブレイズ』!」


「クソっ! もうバレたのかっ!」


 ブレイズは大太刀を抜き、男たちと対峙した。


「ちょっと、どういうこと? レイに手出ししないで!」


 状況を理解していないヘルガは、ブレイズを庇おうと男たちの前に立ち塞がった。


「ヘルガ、退いてろ」


 ブレイズはヘルガを下がらせた。そして男たちに斬りかかった。突如始まった殺し合いにギルド内は混沌と化した。


 男たちはブレイズに攻撃するが、ブレイズはそれらを全てヒラリと躱し、大太刀で男たちを切り伏せた。しかし一瞬の隙を突かれ、ブレイズは背後から斬られてしまった。


「ぐあっ!」


 背後からの一撃にブレイズは体勢を崩してしまった。それを男たちが見逃すはずもなくブレイズの命が奪われようとした。


 そのとき剣を振りかぶった男たちが突如として吹き飛ばされた。ヘルガがブレイズに加勢したのだ。


「ヘルガ、何で……?」


「仲間が殺されそうになってるんだから、助けるのは当然でしょ!」


 そう言うとヘルガは槍を振るい、男たちをブレイズから遠ざけた。


「助かった!」


「後でちゃんと説明してよね!」


 立ち上がったブレイズはヘルガに背中を預け、再び戦い始めた。そして隙のなくなったブレイズはあっという間に男たちを倒しきった。


 ギルド内は血溜まりがいくつもでき、死屍累々となっていた。ギルド内の冒険者たちはブレイズとヘルガに畏怖の目を向けた。


 それに気付いたブレイズは嘆息した。


(もうこの街にはいられないな……)


 ブレイズは血を拭うと、ギルドを後にした。ヘルガもブレイズに付いてギルドを出て行った。


 街を急いで出た二人は森の中で野営していた。そしてブレイズの怪我の手当てをしていた。たいした怪我ではなかったため、酒で消毒し、包帯を巻くだけで済んだ。


 手当てを終えたブレイズは改めてヘルガにお礼を言った。


「さっきはありがとな。お前がいなかったら、たぶん殺されてた」


「お礼はいらないわ! 仲間を助けるのは当然のことでしょ! それより、なんでレイは襲われたの?」


「あぁ、それは……」


 ブレイズはヘルガに自分が襲われた理由を包み隠さず説明した。酒でやらかしたこと、それで侯爵の怒りを買って命を狙われていること、そして現在逃亡中であること。


「そんな理由があったのね……」


 ブレイズの説明を聞いたヘルガは神妙な顔をした。


「そうだ、だから俺とこれ以上一緒にいない方が良い。お前まで命を狙われるかもしれないからな」


「嫌! あたしはブレイズと一緒にいるわ!」


 ヘルガの宣言にブレイズは呆れた。


「説明聞いてたか? お前も狙われるかもしれないんだぞ!」


「大丈夫よ、あたしは強いもの! それにギルドであれだけ暴れたら、あたしも街にはいられないわ」


 ヘルガはブレイズを助けるために、ギルドで大量の殺しをしてしまった。そのためヘルガもあの街にはいられなくなったのだ。


「だからあたしもブレイズに付いていくわ!」


「わかったよ……」


 これ以上説得しても意味がないと悟ったブレイズは、ヘルガが付いてくることを渋々了承した。


「危険な旅になるからな、それは覚悟しておけよ」


「わかったわ!」


 ヘルガは付いていってもいいとわかると、嬉しそうに返事をした。ブレイズは意図せずして仲間が増えたことに、ため息をついた。


読んでいただきありがとうございます。

次回更新は6月8日の0時です。

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