3話 山賊と仮面
村を出発して数日、ブレイズは街道の十字路で商人のキャラバンに出会った。ブレイズはそのキャラバンから食糧などを買った。ブレイズは商品を受け取るときに、商人と世間話をした。
「このキャラバンはどこに向かうんだ?」
「ここから三日ほど行ったところにある、ノルグという街に向かっています」
キャラバンが目指している街はちょうどブレイズも目指しているところと一緒だった。
「俺もちょうどその街を目指しているんだ」
「そうでしたか、良かったら乗っていきますか? 荷馬車に空きがありますので」
「いいのか? 助かる!」
キャラバンの厚意でブレイズは街まで乗せてもらえることになった。いい加減歩くのも疲れてきていたため、この提案はありがたいものだった。
こうしてブレイズを乗せたキャラバンはノルグという街に向かって出発した。
「そう言えばお客さん、知ってますか? 最近話題の人について」
「誰のことだ?」
「何でも、侯爵の怒りに触れた人がいるらしくて、それは多額の懸賞金が掛けられている人がいるらしいんですよ」
「そ、そうなのか。初めて聞いたな」
ブレイズは動揺した。しかしこの商人たちはその人物が目の前にいるブレイズだとは気付いていない様子だった。それはブレイズが目深にフードを被り、顔を隠しているからだった。
「侯爵の怒りを買うなんて、一体何をしたんですかねぇ」
「はは、何をしたんだろうなー」
ブレイズはすっとぼけて返事をした。ブレイズは気まずさを感じながら荷馬車に揺られていった。
そしてある程度時間が経った頃、突如荷馬車が動きを止めた。そして御者の悲鳴が辺りに響き渡った。ブレイズは荷馬車から顔を出し、外の様子を確認した。するとキャラバンが大勢の男たちに囲まれていた。
「山賊か……」
ブレイズは一瞬で状況を察した。山賊がキャラバンの積み荷を狙って襲ってきたのだ。商人たちは怯えてパニックになっていた。
ブレイズは乗せてもらった恩を返そうと思い、荷馬車から降り、一人で山賊に対峙した。荷馬車から突然現れた大男に山賊たちは射殺すような視線を向けた。
「あぁ? 何だてめえ? このキャラバンの護衛か?」
「まあそんなところだ」
「死にたくなかった、大人しくしてな」
山賊のリーダーらしき男はブレイズに忠告をしてきた。それに対しブレイズは大太刀を鞘から抜くことで、自分の意思を示した。
「この人数と一人でやる気か? 野郎共、やっちまえ!」
男の号令を聞いた山賊たちは一斉にブレイズに襲いかかった。ブレイズは落ち着いていた。怪物と日々戦っていたブレイズにとって人間など、いくらいようとも敵ではないのだ。
ブレイズは最初に近づいて来た山賊を頭から唐竹割りにした。縦に真っ二つに切断された仲間を見た山賊は、怯んで突撃する足を止めた。
「どうした? 来ないのか?」
「怯むなてめら! 敵は一人だ! やっちまえ!」
リーダーらしき男に発破を掛けられた山賊たちだったが、その足は重く、ブレイズに近づくことを拒否していた。
「来ないならこっちから行くぜ!」
ブレイズは向こうから来ないと分かると、自分から山賊たちに近づいていった。ブレイズは大太刀を横一文字に振るった。山賊はその攻撃を剣で防ごうとした。しかし大太刀の切れ味は尋常ではなく、防いだ剣ごと山賊を横凪ぎに一刀両断した。
ブレイズの実力に気付いた山賊の一部は逃げ出した。残った山賊は一斉にブレイズに斬りかかったが、その攻撃をブレイズは難なく躱した。
しかし攻撃を躱す内に目深に被っていたフードが外れてしまった。そしてブレイズの素顔を見た山賊のリーダーとキャラバンの商人は驚いた。
目の前の人物が件の賞金首の『ガーディルのブレイズ』だと気付いたからだ。
「こりゃラッキーだ! こいつを殺せばしばらく遊んで暮らせるぞ!」
「殺してみな」
山賊たちはブレイズに襲いかかるが、それをブレイズは一刀のもとに切り伏せた。そして山賊はリーダーを残して全滅した。
「クソっ、仲間を殺しやがって! 一人でもやってやる! 俺は金持ちになるんだぁ!」
ヤケになった山賊のリーダーは無謀にもブレイズに突撃した。それをブレイズは大太刀で斬り、首を刎ねた。
山賊を全滅させたブレイズは大太刀の血を拭い、鞘に収めた。そして商人たちに目を向けた。素性がバレた以上、この商人たちも自分を狙って来ると考えたためだ。
しかし商人たちは賢い選択をした。
「我々は何も見ていませんよ、あなたの素顔は見なかった」
商人たちは山賊から助けてもらった恩があるため、ブレイズの素顔を見ていないことにしてくれた。
ブレイズはその方がありがたかった。無用な殺しはしたくなかったからだ。ブレイズは山賊たちの死体を片付けると、また荷馬車に乗り込んだ。
そしてキャラバンは再び街に向けて出発した。
※
キャラバンと一緒に旅をして三日、キャラバンは山賊というアクシデントがあったものの、予定通りノルグという街に到着した。
「世話になったな、ありがとう」
「こちらこそ、あなたがいなければ山賊に殺されていました。ありがとうございました」
荷馬車に乗せてもらったお礼を言い、ブレイズはキャラバンを後にしようとした。しかしそれを商人が引き留めた。
「お待ちください、これを」
商人はブレイズを引き留めると、仮面を差し出してきた。
「仮面? くれるのか?」
「あなたの噂は国中に広まっています。穏便に過ごしたいなら顔を隠すのがいいでしょう。これをお使いください」
商人から仮面を受け取ったブレイズは、それをすぐに付けた。そしてフードを目深に被った。
「それならあなただと気付く人は少なくなるでしょう」
「気遣い感謝する」
「いえいえ、それでは幸運を」
別れの挨拶をしたブレイズは今度こそキャラバンを後にした。そして街に入ったブレイズは早速路銀を稼ぐために、ギルドへ向かった。
ブレイズがギルドへ入ると、中の冒険者たちが一斉にブレイズに視線を向けてきた。仮面を付けた大男が入ってきたのだ。奇異の目を向けられるのは当然だった。
ブレイズはその視線を気にしないようにして、受付へ向かった。ギルドの利用は登録が必要なのだ。既にブレイズの名前で登録はしてあるが、ここにいることがバレるのを嫌って、ブレイズはレイという偽名で新規登録した。
受付嬢に新人の冒険者だと言うと、怪訝な顔をされた。ブレイズはいかにも歴戦の戦士という雰囲気を纏っているため、新人の訳がないと思われたからだ。
しかし受付嬢は特に追及することなく、登録を終わらせた。登録を終えたブレイズは依頼が張られた掲示板に向かい、依頼を吟味した。なるべく早くまとまった路銀を稼ぐ必要があるため、割のいい依頼を探した。
そしてブレイズは良さげな依頼を発見した。それを手に取り受付に向かおうとすると、いきなり女に話しかけられた。女は黒髪をツインテールに結んだ少女だった。
「ちょっと! あなた新人なんでしょ、その依頼は先輩に譲りなさい!」
「はあ?」
いきなりのことにブレイズは素っ頓狂な声を上げてしまった。そして頭のおかしい女だと判断し、その女を無視した。しかし女はしつこく絡んできた。
「無視しないでよ、その依頼はあたしも受けようと思ってたの! あたしが最初に目を付けたの! だからあたしに譲りなさい!」
面倒に感じたブレイズは無視を続けた。すると女は背負っていた槍をブレイズに向けてきた。
「その依頼はあたしのよ。大人しく渡しなさい」
女は冷たい目線でブレイズを睨んで脅してきた。ブレイズは背負っている大太刀に手を伸ばしかけた。力で分からせてやってもよかったのだが、それでは騒ぎになってしまうし、何より正体がバレる可能性がある。
面倒事は避けたかったブレイズは、この場を穏便に収めることにした。
「わかったよ、ほら」
そう言うとブレイズは大人しく依頼書を女に譲った。
「ありがとうね!」
依頼書を渡されたことで、女は一転して笑顔になった。そして女は受付へと向かっていった。ブレイズはため息を吐き、改めて依頼を探した。そして適当な依頼を受けて路銀を稼ぐことにした。
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次回更新は6月7日の0時の予定です。