22話 聖都オルデア
『岩のアーロン』との戦いの後、数日が経っていた。ブレイズとヘルガ、ミモザの三人はついにミモザの目的地に到着していた。
そこは女神ラルヴィアを讃えるために作られた街、聖都オルデアだった。
「ようやく到着しましたね!」
聖都オルデアに着いてミモザは喜んでいた。これで巡礼の旅が一区切りついたのだ。オルデアは厳かで神聖な空気に満ちており、その雰囲気にブレイズとヘルガは圧倒されていた。
オルデアは豊穣の女神ラルヴィアを讃える街らしく、緑に溢れており、至るところに女神の像があった。
「少し郊外に出れば畑などが広がっていて、のどかな田園風景も楽しめますよ!」
ブレイズとヘルガはミモザの案内で街を少し見て回った。そしてミモザの目的地である大聖堂へと向かった。
街中を歩いていると、ラルヴィア教の信徒がミモザに対して頭を下げたり、話しかけたりしていた。
「ミモザ様、おはようございます!」
「ミモザ様! 巡礼の旅から戻られたのですね!」
ミモザはそれらに対して、優しく丁寧に対応した。ミモザはラルヴィア教の中でもなかなか名の知れた司祭だったのだ。
「ブレイズさん、ヘルガさん、お待たせしました。それでは大聖堂へ向かいましょう」
信徒への対応が終わったミモザは、再び大聖堂に向けて歩き出した。そして三人は少し歩くと、大聖堂に到着した。
「すごい大きいのねー」
大聖堂を初めて見たヘルガは、その大きさに感心していた。ブレイズも大聖堂の大きさに驚いていた。
この旅の道中で見たどの教会よりも大きく、また装飾が凝っていた。白くシンメトリーな作りの大聖堂は荘厳な雰囲気を纏っていた。
そして三人は大聖堂の大きな扉を開けて、中に入った。
「わぁ、綺麗……」
中に入ったヘルガは思わず声を漏らした。それほどまでに大聖堂の中が美しかったのだ。色とりどりのステンドグラスがあり、それを通った光が大聖堂の中を照らしていた。
また大聖堂の中はたくさんの信徒がいた。祈りを捧げに来た者、説教を受けに来た者などで溢れていた。
「それでは報酬を持って来ますので、少し待っててください」
「あぁ、わかった」
大聖堂に入ったミモザはブレイズとヘルガに渡すための報酬を取りに行った。ミモザが戻ってくるまでの間、二人は大聖堂の中を見て回ることにした。
大聖堂はかなり広く、中には様々な芸術品が飾られていた。女神ラルヴィアの像はもちろんのこと、女神ラルヴィアの伝説を描いた絵画なども飾られていた。
中を見て回っていると、ヘルガの視線が一人の女性を捕らえた。
「ねぇ、ブレイズ。あの女の人、どっかで見たことない?」
「どの女だ?」
ヘルガは信徒に混ざっている一人の女性を指差した。その女性を見たブレイズは驚いた。そして二人はその女性に近づいた。
ブレイズとヘルガが近づくと、件の女性も二人に気付いたようで、驚いた表情をしていた。
「おい、何でお前がここにいるんだ?」
ブレイズに話しかけられた女性、それは以前に村で略奪をしていた盗賊団の女頭領であるカミラだった。よく見ると、カミラの周りにいる男たちも盗賊団のメンバーだった。
どういうことか、カミラたちはラルヴィア教の信徒を表す白い装束を着ていた。しかも全員、盗賊をしていたころより小綺麗になっていた。
「あんたらこそ、何でここにいるんだ!?」
「俺たちは司祭のミモザを送り届けるために来たんだ」
「そうだったのか。あたしらは盗賊から足を洗って、今はここで働かせてもらってるんだ」
「お前らが教会で働くだと? 本当か?」
カミラたちは盗賊稼業から足を洗い、現在はここで働いていると言った。ブレイズはそれが本当かどうか疑った。
「疑いたくなるのは、正直わかるよ。でも本当なんだ! あたしらは改心したんだ!」
カミラはブレイズとヘルガの疑いを晴らすため、ここに至った経緯を話し出した。
※
カミラたち盗賊団はある村から略奪していた。そのときにブレイズとヘルガ、ミモザと戦い敗北した。
ミモザの慈悲のおかげでカミラは命までは取られなかった。生かされたカミラたちは村から離れ、近くの街に移動した。
そこでカミラたちはミモザから分け与えられた路銀で、言われた通りまずは腹を満たすことにした。
街の酒場で腹ごしらえを済ませたカミラたちは、この先どうするかを話し合った。
「カミラさん、この後どうしましょう?」
持っていた路銀は酒場での飲み食いでほとんど使ってしまい、カミラたちはほぼ無一文だった。
武器などはブレイズに没収されてしまったため、ギルドで依頼をこなして稼ぐということも出来なかった。もちろん他の人から金を奪うことも出来そうになかった。
八方塞がりのカミラたちは、ミモザの言葉を思い出した。
「仕事が欲しければ、教会を訪ねなさい」
現状、資金も武器もない状態で出来ることなどほとんどないため、カミラたちはしょうがなく街の教会に向かうことにした。
「とりあえず、あの女司祭の言ってた通り、教会に行ってみるか……」
「でもカミラさん、行ったところで追い出されるのがオチですぜ」
「それでもだ。他に行けるところはないんだ。ダメ元で行くしかない」
「へい、わかりました……」
部下はカミラの決定に不満があったが、他に行く当てもないのでカミラの意見に従った。
カミラたちは街の教会の扉を開けた。すると神父がカミラたちを出迎えた。
「ようこそいらっしゃいました。どのようなご用件でいらしたのですか?」
「あー、ミモザっていう人の勧めで来たんだが、仕事を紹介してもらえないか?」
「ミモザ様の紹介でいらっしゃったのですね! それではこちらへどうぞ」
カミラがミモザの紹介で来たと言うと、神父はカミラたちを迎え入れた。カミラたちは教会の応接室に通された。
「仕事の紹介でしたね。今は畑仕事ぐらいしかありませんが、お願いできますか?」
ラルヴィア教の教会には大きくはないが畑が併設されていることが多い。そこでの畑仕事をカミラたちは頼まれた。
「あぁ、大丈夫だ。それからあたしたち無一文で泊まるところがないんだが、ここに泊めてもらえないか?」
「はい、泊まって頂いて大丈夫ですよ。それから質素ですがお食事も用意させて頂きます」
「本当か!? ありがたい!」
寝食が出来て、仕事まで貰えるとわかりカミラたちは喜んだ。それからカミラたちは街の教会で仕事をこなすようになった。
元々腕っ節もあり、体力もあるカミラたちは精力的に働いた。そしてそれに見合った報酬も手に入れた。
カミラたちは畑仕事の他にも、害獣の駆除や護衛の仕事をするようになった。
まともな仕事と温かい食事、そして安心して眠ることの出来る寝床。それらが手に入ったことでカミラたちは幸福を感じていた。
教会で過ごすようになってしばらく経つと、生活に余裕が出来始め、この道を勧めてくれたミモザとラルヴィア教に感謝するようになっていた。
最初は鬱陶しかったお祈りの時間も、今では真面目にするようになるほどだった。そしてカミラたちは話し合い、正式にラルヴィア教に入信することにした。
「なぁ神父様、あたしらラルヴィア教に入信したいんだけど、いいか?」
「それは喜ばしいことです! なら近くにある聖都オルデアで洗礼を受けてくるのがよろしいでしょう」
「聖都で、洗礼を?」
「はい、そうです」
洗礼自体はこの教会でも出来るのだが、神父はせっかく入信するのなら、一度は聖都を見ておいた方がいいと考えたのだ。
こうしてカミラたちは神父から路銀を貰い、聖都に向かうことにしたのだ。カミラたちは聖都への道中でも善行を積んだ。
困っている人に手を貸し、怪物を倒し、時には路銀を分け与えることもした。そしてカミラたちは聖都オルデアに到着した。
カミラたちはオルデアの大聖堂で洗礼を受けた。豊穣の女神ラルヴィアの恵みで出来た小麦で体をはたかれ、そして聖水で身を清めた。
これによりカミラたちは正式にラルヴィア教に入信した。
そして洗礼が終わったカミラたちは、オルデアでも善行を積もうと、大聖堂で仕事がないかを探していたのだった。
※
話を聞いたブレイズとヘルガは半信半疑だった。盗賊がそんな簡単に改心するのかと思ったのだ。
するとそこに報酬を持ったミモザが戻って来た。ミモザはカミラたちを見ると、喜んで駆け寄ってきた。
「カミラさんたちですね! お話は大聖堂の方から聞きましたよ! こんなに立派になられて、感動です!」
ミモザは大聖堂の神父などからカミラたちの善行について聞いたらしい。
「ミモザ様! あのときはありがとうございました! 改心の機会を与えてくださったことで、あたしらは変われました!」
カミラたちは更生の機会をくれたミモザに感謝していた。その様子を見たブレイズとヘルガは、あのとき生かしたことが間違いではなかったと理解した。
そしてミモザはカミラたちとの交流を終えると、ブレイズとヘルガに報酬が入った小袋を渡した。袋はずっしりと重く、報酬がかなりの量であることを伺わせた。
「お二人とはここでお別れですね。短い間でしたが、一緒に旅が出来て良かったです! おふたりのこれからに、実りと幸福があらんことを」
ミモザは別れ際に二人に祈りの言葉を掛けた。その言葉を貰ったブレイズとヘルガは大聖堂を後にした。
大聖堂の外に出たヘルガは元盗賊団のカミラたちの変わりように、ミモザの凄さを実感していた。
「まさか本当に改心するなんて。ミモザって凄いのね!」
「そうだな」
そして二人はオルデアで少し高級な宿に泊まり、旅の疲れを癒やした。
翌日、ブレイズとヘルガは王都を目指して再び歩き出した。
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次回更新は6月26日の0時です。




