20話 氷霜の魔女
伯爵領の街を出発して数日が経っていた。ブレイズとヘルガ、ミモザはそろそろ物資の補給をしたかった。
「この近くに教会のある村があります。そこに向かいましょう。大きな村なので物資もあるはずです」
ミモザの提案で三人は近くにある村と教会を目指すことになった。
しばらく歩き、村が近づいてきた。
「ねぇ、何か寒くない?」
ヘルガは肌寒さを感じていた。そしてそれはヘルガだけではなかった。ミモザも寒さを感じていた。
「確かに少し寒いですね。まだ寒くなる時期でもないですし、標高が高いわけでもないのですが。不思議ですね」
ここまでの道はほぼ平坦で山が近くにあるわけでもなかった。また冬はまだまだ遠く、むしろ暑いぐらいの気候のはずだった。
三人はこの寒さに疑問を持ちながらも、村を目指して歩き続けた。
寒さは村に近づくにつれて酷くなっていた。三人は荷物から上着を出してそれを羽織った。
そして三人は村に辿り着いた。
「何だよ、これ。どうなってるんだ?」
村の様子を見たブレイズは思わず声が出ていた。そこは一面霜に覆われており、白く凍えていた。まるで冬が訪れたかのような尋常ではない景色に三人は驚いていた。
三人は景色に驚きながら村の中を歩いた。村も畑も、全てが白い霜に覆われていた。畑を見たミモザは事態の深刻さを理解した。
「畑にも霜が降りていますね。これでは作物もダメになっているでしょう。このままでは村人たちが飢えてしまいます……」
畑の作物は霜で凍えてほとんどがダメになっていた。また家畜もこの寒さに凍えているようだった。この寒さが続けば家畜も死んでしまうだろう。
「教会に向かいましょう。そこで事情を聞いてみます」
「そうだな、そうしよう」
ミモザの提案で三人は教会へと向かった。三人は教会の前に着いた。教会は小さいが立派な作りで、整備が行き届いているようだった。
教会の中に入ると、そこには村人が身を寄せ合っており、必死に祈りを捧げていた。三人が教会に入ってきたことに村の神父は気付くと、話しかけてきた。
「旅の方ですか。今村は厄災に遭っています。すぐにこの村を去るのがよろしいかと」
「この教会の神父様ですか? 私は巡礼をしている司祭のミモザと申します。事情をお聞かせください」
「これは失礼しました。司祭様でしたか」
神父はミモザが司祭だとわかると、村の異常について話し始めた。
「この寒さは、近くに住む魔女が原因なんです。魔女は半年ほど前に村に突然やって来ました。そして貢ぎ物を要求するようになりました。最初は村人たちも無視していたのですが、そのときも村を凍えさせたのです。そのため村は渋々貢ぎ物をするようになったのです」
神父の話でこの寒さの原因が魔女だということがわかった。またこの事態が初めてではないこともわかった。そして神父は話を続けた。
「しかし今年は不作で、貢ぎ物をする余裕がなくなりました。すると魔女がまた村を凍えさせ始めたのです」
「魔女をどうにかしようとは思わなかったのか?」
ブレイズは魔女をどうにかして追い出そうとしなかったのかを聞いた。
「村の者が数人で魔女の元へ向かいました。しかし彼らが帰ってくることはなく、寒さもより厳しくなったのです」
「なるほどな」
どうやら魔女はこちらの話を聞く気がないようだった。そして話を聞いたミモザは、その魔女について知っているようだった。
「きっと話に出てくる魔女は、お尋ね者の『氷霜の魔女』でしょう」
「『氷霜の魔女』?」
「はい。その魔女は村を転々としながら、訪れた村から搾取し、村を凍えさせているらしいのです。おおよそ前の村から搾取が出来なくなったので、こちらの村に移ってきたのでしょう」
ミモザの語った特徴と現在の状況は一致しており、『氷霜の魔女』の仕業であることは確定だった。
「ヘルガとミモザはここで村人の様子を見ててくれ。俺が魔女をどうにかしてくる」
「よろしくお願いします」
事情を聞いたブレイズは魔女と話を付けるため、一人で魔女の家へと向かった。
※
神父に魔女の家の場所を聞いたブレイズは、そこへと向かった。魔女の家は村を見下ろせる丘の上にあるらしい。
ブレイズは防寒具を着込み、魔女の家に近づいた。すると魔女の家に近づくほどに寒さが厳しくなっていった。ブレイズは白い息を吐きながら、一歩ずつ歩いて行く。
魔女の家の道中には、魔女に直談判しに行ったと思われる村人の死体があった。死体は凍っており、周りの寒さがうかがい知れた。
いくつかの死体を通り過ぎると、ブレイズは魔女の家に到着した。魔女の家の周りは寒さが少し和らいでいた。
ブレイズは大きく息を吸って、声を張り上げた。
「『氷霜の魔女』! 俺は村の使いで来た! 姿を見せろ!」
辺りを揺らすほどの大声を出して、ブレイズは魔女を呼んだ。すると魔女は扉を開けて出てきた。
「なんだい、うるさいねぇ……」
魔女は霜のように白い髪をした中年の女だった。魔女は面倒そうな顔をして、ブレイズを睨みつけた。
「何のようだい? 貢ぎ物を持って来たのかい?」
「そのことで話がある。村は不作で納められるものはない。それにこのまま寒さが続けば、村の者たちが死んでしまう」
「ふん、そんなのあたしの知った事じゃないね。貢ぎ物がないなら、他のところから奪ってでも持って来るんだね!」
魔女の自分勝手な言い分にブレイズの怒りは溜まっていった。
「どうしても譲歩する気はないんだな?」
「ないね! あんたも早く失せな! じゃないと他の連中みたいに凍え死ぬことになるよ!」
ブレイズは魔女に対して怒りが爆発した。ブレイズは大太刀を抜くと、ドスの利いた声で魔女に語りかけた。
「殺されたくなければ、今すぐ村に掛けた魔法を解くんだ」
「は、脅しかい? そんなもの無駄だよ」
「そうか、なら覚悟するんだな」
魔女は杖を構え、ブレイズと対峙した。魔女は杖を振るうと氷柱を作り出し、それをブレイズに向かって撃ちだした。
ブレイズは飛んでくる氷柱を大太刀で打ち落としながら魔女に近づいた。
「ふん、少しはやるみたいだね。でもこれならどう!」
魔女は氷柱だけでは効果がないと理解し、別の魔法を使った。魔女が杖を振るうと、そこから冷気を纏った風が吹き荒れた。
ブレイズは咄嗟に大きく横に避けた。ブレイズのその判断は正しかった。風が吹いたところはたちまち凍ってしまっていた。
(これが村を凍えさせている魔法の正体か。当たるのは危険だな……)
冷気を纏った風は当たったもの全てを凍てつかせていた。ブレイズはその風に当たらないように立ち回った。
「大口叩いておいて、この程度かい!」
ブレイズが避けるのに専念していると、魔女は攻勢を強めた。冷気の風だけでなく、さらに氷柱でブレイズを攻め立てた。
ブレイズはそれらの攻撃に対して冷静に立ち回っていた。そして魔法の隙を見て肉迫しようとした。しかし魔女は目の前に氷の壁を作ることで、ブレイズの接近を阻んだ。
思うように近づけないブレイズだったが、焦ってはいなかった。ブレイズは魔女の手の内を把握してきており、また持久力での勝負に自身があったからだ。
「小賢しいね! さっさと凍っちまいな!」
魔女はブレイズに魔法が当たらないことに危機感を覚えていた。魔女はブレイズとの戦いで、規模の大きな魔法を連発しており、魔力切れの心配があったのだ。
そして戦闘は終局を迎えた。魔女は疲弊して魔法の威力が弱くなっていた。その隙をブレイズは見逃さなかった。
ブレイズは作り出された氷の壁を大太刀で切断しながら魔女に近づいた。そして魔女の首に大太刀を突きつけ、生殺与奪権を握った。
「死にたくなかったら降参しろ」
ブレイズの強さを目の当たりにした魔女は、諦めて杖を手放した。
「村に掛けた魔法を解くんだ」
「わ、わかった」
魔女はブレイズの言うままに、村に掛けていた魔法を解いた。そしてブレイズは魔女を縄で縛ると、村まで連行した。
※
ブレイズが魔女を連れて村に戻ると、魔法は解けて、霜は消え去っていた。まだまだ凍えているが緑も戻っていた。
ブレイズは魔女を廃屋の一室に幽閉した。そして村人たちは戻って来たブレイズに感謝の言葉を浴びせた。
「ありがとうございます! あなたのおかげで霜がなくなり、寒さも和らいできました!」
「魔女を捕まえてくださり感謝しています! これで貢ぎ物をしなくてよくなります!」
そして感謝の言葉を伝えた村人の一人が、街に兵士を呼びに行った。捕まえた魔女を引き渡すためだ。
ブレイズとヘルガ、ミモザは兵士が来るまで村に滞在した。魔女が逃げ出さないように見張っておくためだ。
またミモザは村にいる間、魔法を使って作物の回復に努めた。完全に回復したわけではないが、それでも霜に覆われている頃よりはマシになった。
そして数日が経ち、村人が街から兵士を連れて戻って来た。ブレイズは兵士に魔女を引き渡し、報酬を受け取った。
村に平和が訪れたことを確認した三人は、次の街へと向かって歩み出した。
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次回更新は6月24日の0時です。




