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2話 熊退治

 王宮を追放され無職となったブレイズは、ひとまず街へと降りていき宿屋に身を寄せることにした。宿屋に着いたブレイズは一番安い部屋を借りた。


 部屋に入るとブレイズは硬いベッドに座り、落胆のため息を漏らした。いつものブレイズなら何も考えず高い宿屋の最高級の一室に泊まっていたが、今ではその真逆の行いをしなければならないからだ。


 王宮の自分の部屋のふわふわのベッドと違う硬いベッドは、自分の惨めさを実感させていた。


「これからどうすっかなぁー」


 ブレイズは愛用の大太刀と身一つで王宮を追放されたため、手持ちのお金はほとんどなかった。この小銭ではこの最低の宿でも数日いるのが限界だった。


 街で仕事を探すにしても、ブレイズは武官としての生き方しか知らないため、街で仕事をこなすことが出来るとは思えなかった。


 手持ちの大太刀を売れば、そこそこの大金が手に入るが、この大太刀は相棒と呼んでも過言ではない物のため、決して売ることは出来なかった。


「とりあえず、寝てから考えるか」


 現状、何も思いつかないブレイズは安酒を一飲みし、不貞寝をした。



          ※



 太陽が沈み、辺りがすっかり暗くなった頃、ブレイズは廊下に響く足音で目を覚ました。足音からして四人はいそうだった。そして足音はブレイズの部屋の前で止まった。


 足音が止まったかと思うと、突然部屋の扉が蹴破られた。ブレイズは驚いて起き上がり、扉から入って来た男達を見つめた。


「なんだ、お前ら?」


「へへっ、お前が知る必要はねえぜ。お前は今から死ぬんだからな!」


 そう言うと男たちは剣を抜き、ブレイズに襲いかかった。それにブレイズは素手で立ち向かった。ブレイズは振り下ろされた剣を素手で掴み止めた。


 男は剣をそのまま剣を引き、ブレイズの手を切ろうとした。しかしブレイズの圧倒的な握力により剣を引くことが出来なかった。


 ブレイズは斬りかかって来た男の腹部に拳を叩き込んだ。すると男は血を吐いて壁まで飛んでいった。壁に激突した男はそのまま気絶した。


 その様子にブレイズを狙う男たちは怯んだ様子だった。


「どうした、来いよ」


 ブレイズの声に我に返った男たちは、再度ブレイズに襲いかかった。しかし剣を持ったブレイズに勝てる訳がなく、男たちはあっという間ブレイズに切り伏せられた。


 襲ってきた男たちを制圧したブレイズは、生かしておいた男の一人に尋問を始めた。


「おい、何で俺を襲ってきた?」


「くたばっちまえっ!」


 ブレイズは質問に答えなかった男の指を一本へし折った。


「ぐあぁっ!」


「もう一度だけチャンスをやろう。何で俺を襲った?」


 ブレイズは鋭い目線を男に向けた。その瞳は冷たい輝きを放っていた。男は観念したのか正直に話し始めた。


「お前の首に懸賞金がかかってんだよ」


「懸賞金だぁ? 誰がそんなことを……?」


「わからねぇ。ただ貴族の依頼だって噂だ。早い者勝ちで、当分遊んで暮らせるほどの金が手に入るんだよ」


「なるほど……、さては侯爵だな」


 ブレイズは男からの情報で、侯爵が自分の命を狙っていることを察した。侯爵は追放刑では満足出来なかったのだ。娘を傷物にされた復讐に、ブレイズの命を狙っていた。


「侯爵だって!? お前そんな奴から狙われてんのか!?」


「そうらしいな」


 男は懸賞金を出したのが侯爵だと知って驚いていた。


「かなりマズいな……」


 侯爵はブレイズの首に多額の懸賞金を掛けた。そうなればこの国にいるのはもう不可能に近い。侯爵の魔の手から逃れるためには、もはやこの国から出なければならなかった。


 あらかた情報を聞き終わったブレイズは男を解放した。そして一つの伝言を頼んだ。


「俺を狙ってるやつに伝えとけ。次から襲ってきた奴は皆殺しにするってな」


「わ、わかった」


 男は折れた指を抑えながらブレイズの部屋を出て行った。男がいなくなり、一人になったブレイズは緊張を解いて、ため息を吐いた。そしてすぐに気持ちを切り替えた。


 ブレイズは荷物をまとめ、大太刀を背負い、宿屋をすぐに後にした。このまま宿屋にいても寝込みを襲われるだけだからだ。


 街を出たブレイズは街道沿いの森の中に身を隠した。ブレイズはたき火に当たりながらこれからのことを考えた。


 隠れながら慎ましく生きれば、侯爵の追手に見つからず暮らすことも出来るだろう。しかし自分がそんな隠居できるような人物でないのは、ブレイズが一番よく分かっていた。


 ブレイズは今までのように金を稼ぎながら暮らすために、この国を出ることを決めた。とりあえず今は追手から逃げながら、隣の国に行くことを決めた。そこでまた武官として雇って貰おうと考えた。


 当面の目標が決まったブレイズは、横になり、星を見ながら眠りについた。



          ※



 ブレイズが隣の国を目指し旅に出て数日、街道沿いに小さな村を見つけた。ブレイズが村に入ると、物珍しそうな目を向けられた。それも当然だろう。ブレイズは二メートル近い長身で、その背丈ほどの大太刀を背負っているのだ。目立って当然だった。


 ブレイズは村唯一の酒場に向かった。そこで食糧の補給などをするためだ。酒場に入ったブレイズは店主に話しかけた。


「この村にどこか泊まれる場所はないか?」


「旅の方ですか? それなら村の端に空き家があるので、そこをお使いください」


「助かる。それから依頼とかはないか? 路銀が必要なんだが……」


「それでしたら、村長をお訪ねください」


「わかった、ありがとう」


 酒場の店主はブレイズの質問に丁寧に答えてくれた。ブレイズは感謝を伝えると、酒場で食糧などを買い、店を後にして、村長の元を訪ねた。


 ブレイズが村長に話を聞くと、この村では熊が問題になっているという。


「巨大な熊が村の近くに現れるようになったんです。森に入った村人が襲われたり、家畜が襲われたりして、最近では村まで降りてくることも増えました。どうかその熊を退治してくれませんか? 少ないですが路銀を報酬に払いましょう」


「わかった、任せてくれ! これでも俺は名の知れたモンスタースレイヤーなんだ!」


「頼もしいですな。それではお願いします」


 勇ましいブレイズに村長は少し安心した様子だった。実際、怪物退治を生業にしていたブレイズにとって、熊の退治など朝飯前だった。


 ブレイズは空き家に荷物を置いてから、村人に熊のことを聞きに回った。村人の話によると、熊はこの村の周りの森の広範囲を縄張りとしているようで、森に入って探すのは無謀だと言われた。


 その話を聞いたブレイズは、熊が家畜を狙いに村に降りてきたときを狙おうと決めた。しかし熊はなかなか村に現れず、ブレイズが村に滞在して三日も経過した。


 その間、ブレイズはただ待っているのも暇なため、森に狩りに出向き鹿などを狩って、それを村人に配ったりしていた。そのおかげか村人はよそ者のブレイズに対して心を開いてくれた。


 そしてブレイズが村に滞在して四日目の昼、女性の悲鳴が村中に響き渡った。熊が村に現れたのだ。ブレイズは大太刀を持って急いで熊の元へ向かった。


 ブレイズが熊の元に付くと、熊はちょうど家畜を襲っているところだった。ブレイズは大太刀を鞘から抜き、熊と対峙した。熊は突如現れたブレイズに警戒するような目を向けた。そして熊はブレイズに向かって吠えて威嚇をした。


 それを合図にブレイズは熊に向かって大太刀で斬りかかった。振り下ろされた一閃は熊の皮膚を切り裂いた。しかし熊の分厚い毛皮により、命を奪うことは出来なかった。


 斬られて怒った熊はその鋭利な爪でブレイズを切り裂こうとした。ブレイズは爪を大太刀で受け止めた。そして熊の腕を弾いた。熊の膂力よりもブレイズの膂力の方が上回っていたのだ。


 体勢を崩した熊にブレイズは大太刀の連撃を加えた。熊はブレイズに勝てないと理解し、その場から逃げようとした。しかしブレイズは逃がす気はなかった。


 ブレイズは熊の正面に回り込んだ。熊は立ち上がり、精一杯の威嚇をするがブレイズは全く怯まなかった。そしてブレイズは立ち上がった熊の心臓目掛けて、大太刀で突きを繰り出した。


 心臓を貫かれて熊はそのまま絶命し、地面に倒れ伏した。


「うおおぉぉっ!」


 ブレイズは勝利の雄叫びを上げた。それを聞いた村人たちは歓喜の声援を上げた。


「よっしゃ、今日は熊鍋で宴だ! 誰か捌くの手伝ってくれ!」


 ブレイズは村人に声を掛け、熊を今晩の宴の料理にしようとした。ブレイズの呼びかけを聞いた村人たちは続々と集まってきた。


 ブレイズは巨大な熊を担ぐと、それをそのまま酒場の前まで運んでいった。その様子に集まった村人たちは唖然としていた。四百キロはあろうかという巨体を軽々と担いで見せたのだ。驚くのも無理はなかった。


 そして熊を捌き終わったブレイズたちは、その大量の肉で宴を始めた。安酒ばかりでいい女もいない宴だったが、それでもブレイズの心は満たされていた。


 捌いたばかりの新鮮な熊肉は美味しく、村人たちも喜んで食べていた。その幸せな光景にブレイズはこの村に寄って良かったと思った。


 そして宴は深夜まで続いた。



          ※



 熊討伐を祝した宴が終わり、ブレイズは宿代わりの空き家へと帰っていった。扉を開けると、そこには一人の女が立っていた。


「モリー、どうしたんだ?」


 女の名はモリー。ブレイズが村に滞在している間に仲良くなった女の一人だ。ブロンドの髪が綺麗な美しい村娘だった。


「疲れたと思いまして、体をお拭きします」


「そうか、なら頼む」


 特に断る理由もなかったため、ブレイズはモリーの提案を了承した。ブレイズは上裸になり、背中をモリーに向けて椅子に座った。


 モリーはタオルを水で濡らし、ブレイズの大きな背中を拭き始めた。


「すごい傷ですね……」


 モリーはブレイズの体についている傷の数々に驚いていた。


「全部勲章みたいなもんさ。一番でかい傷はドラゴンに付けられたんだ」


「ドラゴン……、すごい戦いだったんでしょうね」


「ああ、流石の俺も死ぬかと思ったぜ」


 ブレイズは傷一つ一つの思い出をモリーに聞かせた。モリーはその話を興味津々に聞いていた。村からあまり出ないモリーは、人から冒険譚を聞くのが好きだった。


 モリーはブレイズの話を聞きながら傷をなぞるようにタオルで拭いていった。その最中ブレイズは一つのことに気付いた。


「モリー、その、胸が当たっているんだが……」


「ふふ、当てているんですよ」


 モリーはそう言うと後ろからブレイズに抱きついた。ブレイズは振り返るとモリーと見つめ合った。そしてそのままキスをした。


 ブレイズはモリーを抱えるとそのままベッドへと運んだ。そして二人は獣のように交わった。



          ※



 村の端にある空き家、そこのベッドでブレイズとモリーは並んで寝ていた。モリーはブレイズの腕に抱きつき、ピロートークを楽しんでいた。


「ふふ、ブレイズさんはこっちもお強いのですね」


「ああ、まだまだ余裕だぜ」


「どうです、ブレイズさん、このままこの村に住みませんか?」


 モリーからの提案にブレイズは顔を曇らせた。


「そうしたいのは山々なんだけどな、ちょっと事情があって、それは出来ないんだ……」


 ブレイズとしても旅をせずに一カ所に定住したい気持ちがあった。しかし今のブレイズはこの国にいると命を狙われるため、旅を続けなければいけなかった。


 またブレイズと一緒にいることで他の村人に危害が加えられるかもしれないのだ。そのためブレイズは村に長居出来なかった。


「ずっとはいられないから、忘れられない夜にしてやるよ」


「はい、お願いします、ブレイズさん!」


 そうしてブレイズとモリーの夜は更けていった。



          ※



 翌朝、ブレイズは村長の元に報酬を受け取りに行った。


「熊退治、ありがとうございました。少ないですがこれが報酬です」


「ありがとう、村長」


 報酬は銅貨数枚というかなりの少額だった。しかしブレイズはそれに満足していた。この村での生活がそれほど楽しかったのだ。


 報酬を受けとったブレイズはお世話になった村人たちに挨拶をして回った。そしてブレイズは村に別れを告げ、次の目的地に向けて歩き出した。


お読みいただきありがとうございます。

次回更新は6月6日の0時の予定です。

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