18話 森の呪い
ブレイズとヘルガ、森番のカイルは再び森を訪れた。しかしそこは先ほどと違い、不気味な静寂と暗さに包み込まれていた。
鳥や獣の鳴き声はせず、木々が風で揺れる音しかしなかった。そして三人は森に入ってから、誰かに監視されているような感じがしていた。
異様な静けさに三人は警戒を強め、それぞれ武器を構えた。そしてカイルの先導で森の最奥へと向かった。
森の奥へ向かって歩いていると、目の前に熊が現れた。それだけでなく熊の他に野犬も現れ、三人を取り囲んだ。
この獣たちは偶然現れた訳ではなさそうだった。獣たちは明らかな敵意を持って三人を見ていた。まるで三人を森の奥に行かせまいとしているようだった。
そして獣たちは三人に襲いかかって来た。ブレイズとヘルガはカイルを後ろに下がらせて、前衛と後衛に分かれて戦った。
ブレイズとヘルガが獣を惹きつけながら戦い、後ろからカイルが弓で援護する形をとった。獣たちは痛みに怯まず襲ってきた。まるで何かに操られているかのようだった。
ブレイズたちは襲ってくる獣たちをなぎ倒しながら森の奥を目指した。獣たちの攻撃は森の奥に進むにつれて苛烈になっていった。
そして三人がある地点に辿り着くと、獣たちの攻撃が止んだ。三人は森の最奥にある巨大な樹の前に来ていた。
そこは開けていて、獣たちは樹に近づこうとしなかった。まるでこの樹の回りに結界でも張ってあるかのようだった。
樹には大きな洞が空いており、ブレイズとヘルガはそこに何かの気配を感じていた。すると樹の洞から、ゆっくりと、怪物が姿を現した。
それは巨大な狼だった。しかしただの巨大な狼ではなかった。体中に禍々しい赤黒い紋様が蠢いており、邪悪な気配が漏れ出ていた。
狼は怯んでいる三人に話しかけた。
「よくぞ、ここまで来た。人間がここまで来られたのは久しぶりだな」
巨大な狼は人語を操ることが出来た。狼から話しかけられたことで三人は正気に戻った。そしてブレイズが狼に話しかけた。
「お前が伯爵に呪いを掛けたのか?」
「伯爵? あぁ、あの偉そうな人間か。伯爵だったのか」
狼は伯爵のことを知っていた。そしてその話しぶりから、伯爵に呪いを掛けたのはこの狼で間違いないようだった。
「何故伯爵に呪いを掛けたんだ?」
「特に理由などない。一時の興のためだ。人間が苦しむ姿は見物だからな」
ブレイズの質問に狼は正直に答えた。狼の回答にブレイズは、狼の思考が邪悪なものだと理解した。
「さて、ここまで来られた褒美だ。貴様らも呪ってやる」
狼は口角が裂けそうな程の邪悪な笑みを浮かべた。それを見た三人は臨戦態勢に入った。
「ほう、戦おうとするか! なら少しは楽しませてくれ!」
そう言うと狼は三人に襲いかかって来た。狼は神速の突進をして、ブレイズを吹き飛ばした。突進を食らったブレイズは何とか受け身を取り、すぐに立ち上がった。
頑丈なブレイズだから軽傷で済んだものの、これをヘルガとカイルが食らったら、一溜まりもないだろう。
ブレイズは立ち上がるとすぐに狼に斬りかかった。しかし斬撃は厚い毛皮に阻まれ、表面しか斬ることが出来なかった。
「ふふ、やるではないか! 私の突進を受けて人の形を保っていられるとは!」
狼は戦いを楽しんでいるようだった。そもそも狼にとってこれは戦いではなく、狩りだった。弱い獲物をなぶって楽しんでいるのだ。
「隙あり!」
隙だらけの狼にヘルガは槍を突き立てた。しかし槍は浅いところまでしか刺さらなかった。狼は一瞬痛みで顔を歪めた。そして槍を刺してきたヘルガを睨んだ。
狼はヘルガを噛み砕こうとした。しかしヘルガは狼の口撃をヒラリと避け続けた。
「ちょこまかと動きおって!」
狼は口撃を避けられ続けて痺れを切らしたのか、遠吠えをした。それはただの遠吠えではなかった。魔法の力が乗せられた遠吠えで、聞いた者の動きを一時的に止めるものだった。
遠吠えを間近で聞いたヘルガは、動きを止められてしまった。その様子を見た狼は鋭い爪でヘルガを細切れにしようとした。
しかしヘルガはただの肉に成り下がることはなかった。狼が攻撃をする刹那、ヘルガと狼の間にブレイズが割り込んだのだ。
ブレイズは何とか爪による斬撃を防いだ。しかし完全には防げておらず、ブレイズは浅くない傷を負い、血を流した。
「ブレイズ!? 大丈夫!?」
「大丈夫だ」
ヘルガは取り乱しかけたが、ブレイズの声を聞いて冷静さを取り戻した。そしてヘルガは槍を構え直した。
そしてブレイズとヘルガは狼との戦いを続行した。一方でカイルは遠距離から弓を放っていたが、狼には効果がないようだった。その証拠に狼は、弓を打つカイルに目もくれなかった。
遠くから戦いを見ているカイルは、戦況が狼に傾いているのを感じていた。こちらの攻撃は効果が薄く、前線で戦う二人の体力も消耗してきている。
カイルは何とか戦況を変えなければと思った。そして弓を構えると、大声で啖呵を切った。
「おい! クソ狼! こっちを見ろ!」
挑発された狼は目論見通りカイルの方を向いた。狼の目は弓を構えるカイルを映していた。カイルは神に祈りながら矢を放った。
すると狼の視界が途端に真っ黒になった。カイルの放った矢が狼の眼球を貫いたのだ。
狼は苦痛の声を上げた。その隙を見逃すブレイズとヘルガではなかった。ブレイズは渾身の力で狼の前足を切断した。
そして機動力を奪われた狼の頭にヘルガは狙いを定めた。ヘルガは樹を駆け上がり、そのまま狼の頭に槍を突き立てた。頭蓋ごと脳を貫かれた狼はあっさりと絶命した。
返り血を拭ったヘルガはすぐにブレイズの元に駆け寄った。
「ブレイズ、怪我は大丈夫!?」
「血を少し流しただけだ。すぐに塞がるさ」
ブレイズは何とか致命傷はないようだった。それを確認したヘルガはカイルの元へと向かった。
「カイル、ありがとう! あなたのおかげで倒す隙が出来たわ!」
「役に立てて、良かったよ」
狼を倒した三人は夜になる前に森を離れた。狼を倒したことで帰りは獣に襲われることはなかった。また森の不気味な薄暗さも緩和されていた。
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