16話 人狼
盗賊団を倒し、村に平和を取り戻したブレイズとヘルガ、ミモザは歩くこと数日、大きな街に辿り着いていた。
そこはネクス王国のとある伯爵の領地だった。規模の大きな街のため、人の往来も盛んだった。街に着くとブレイズとヘルガは宿を取ろうとした。
「ミモザはどうするんだ?」
「私はこの街の教会に泊まります」
「そうなのか、それじゃあ一旦別れよう」
ミモザはこの街の教会へと向かった。そこで巡礼のための路銀を受け取り、また祈りを捧げるためだ。
ミモザは教会での用事があるため、一週間ほど街に滞在するらしかった。ブレイズとヘルガもそろそろまとまった額の路銀を稼いでおきたかったため、街に滞在するのはちょうど良かった。
そしてミモザと別れたブレイズとヘルガは宿を取ると、荷物を置いてからこの街のギルドへと向かった。
ギルドに入った二人はさっそく依頼の貼られた掲示場の前に行き、依頼を吟味した。掲示板には様々な依頼が貼られていた。
グールの討伐や薬草の採集などの定番処から、街で起きている怪物による連続殺人事件の解決といった変わり処まであった。
ブレイズとしてはこの連続殺人事件の解決のクエストを受けたかった。この依頼を解決出来れば、自分たちの名前が広まると考えたからだ。
しかしブレイズはこの依頼を受けるのを見送った。なぜなら二人はこの街について詳しくなく、また一週間の滞在では解決出来ないと考えたからだ。
そして二人が掲示板の前でどの依頼にしようか迷っていると、ブレイズが掲示板の端の方に貼られた一つの依頼を見つけた。
それは森番のカイルという人物が出した依頼だった。依頼書によると、森に来る密猟者の撃退に人手が必要なようだった。簡単そうな依頼で、なにより報酬が高かった。この依頼が他の人物に取られていないことが不思議なくらいだった。
「ねぇねぇブレイズ、森番って何?」
「森番は森を管理する仕事だな。害獣を狩ったり、貴重な資源を守ったりするために森で働いているんだ」
「ふーん、そうなんだ」
二人はこの依頼に決めると、受付に依頼書を持って行った。依頼書を確認した受付嬢は驚いたような表情をした。
「あなたたち、この街の人じゃないわね?」
「そうだが、それがどうかしたか?」
「この依頼を受けるなら、注意しなきゃいけないことがあるわ」
受付嬢はブレイズとヘルガがこの街の人間ではないとすぐにわかったようだった。そしてそんな二人に忠告をしてきた。
「ここの森には不気味な怪物が出ると言われているの。それに森に入ると呪われるとも言われているわ」
「なるほどな、だから誰もこの依頼を受けなかったのか」
「そう。もし危険だと思ったらすぐに引き返すのよ」
「わかった、忠告感謝する」
「気をつけてね」
受付嬢から忠告を受けたブレイズとヘルガは、正直なところ怪物や呪いを楽観視していた。自分たちの実力なら、どんな怪物だろうと余裕だという自信があったからだ。
こうしてブレイズとヘルガは依頼を受注し、森番の家へと向かった。
※
森番の家は街と森の境界に位置していた。ブレイズが扉をノックすると、中からたくさんの髭を貯えた中年の男性が出てきた。
「何者だ、お前ら? 何の用だ?」
男性は突然訪ねて来たブレイズとヘルガを警戒していた。
「俺らはギルドで依頼を受けたんだ。あんたが依頼を貼ったカイルか?」
「ああ、そうだ。そうか依頼を受けて来てくれたのか。警戒して悪かった。さあ、中に入ってくれ」
ブレイズとヘルガが依頼を受けてくれたとわかると、中年の男性、カイルは警戒を解いた。そして一転して態度を変え、家の中へと二人を招いた。
「お邪魔しまーす」
カイルの家にはこの森で獲れた獣の剥製や毛皮が飾られており、狩人の家といった感じだった。家に入ったヘルガはそれらを物珍しそうに眺めていた。
カイルは二人にお茶を出すと、椅子に座るように促した。ブレイズとヘルガは席に着くと、さっそく依頼について詳しく聞き始めた。
「俺はブレイズ。こっちがヘルガだ」
「俺はカイル。ここの森番をしている」
「さっそくだが、依頼について教えて欲しい」
「ああ、わかった」
カイルはお茶を一飲みすると、依頼について話し始めた。
「この森は希少な薬草や動物が生息していてな、伯爵もよく狩りに来るんだ。それで森番の俺が森を管理しているんだが、その希少な薬草とかを狙って密猟者がよく来るんだ。あんたらにはその密猟者の撃退を手伝ってもらいたい」
「よし、わかった。この依頼、手伝わせてもらう」
「本当か! それはありがたい! 街の連中は誰も手伝ってくれないから困ってたんだ!」
ブレイズとヘルガが依頼を受けるとわかるとカイルは喜んだ。
「ところでこの森の噂は本当なの? 呪われるとか何とか」
ヘルガはカイルに質問した。それはギルドの受付嬢から忠告されたことだった。
「それは俺もわからないんだ。森の最奥は暗くて怪物がよく出るんだ。そのせいで最奥には行けないんだ」
「そうなのね、まぁいいわ。怪物なんて私たちに掛かればイチコロだからね!」
「それは頼もしい!」
ヘルガの言葉にカイルは安心した様子だった。そして三人は森に入り、密猟者を捕まえに行った。
※
ブレイズとヘルガ、そしてカイルは森へと入って行った。森は昼間だというのに薄暗く、不気味な雰囲気に満ちていた。
三人が森の中を進むと、焚き火などの野営の跡があった。
「たぶん密猟者の奴らだな。街の奴らだったらこの森で一晩明かそうなんて思わないからな。足跡が続いてる。これを辿ろう」
この痕跡が密猟者のものだとわかったカイルは、野営から続いている足跡を辿り出した。足跡は森の奥へと続いていた。
痕跡を辿って木々の間を抜けて行くと、そこには密猟者の死体が転がっていた。
「一足遅かったみたいだな」
「むごいな、誰がやったんだ?」
「おそらく怪物の仕業だろう。体に大きな爪で切り裂かれた跡がある」
カイルは死体を見て怖じ気づいていた。一方でブレイズは死体の傷跡を分析し、怪物の仕業だと看破した。
「結構大きな爪痕ね。グールとかじゃないわね」
ヘルガは死体に近づき死体の状態を観察した。傷跡は大きく、また食べられた痕跡がないことからグールの仕業ではなさそうだった。
「この爪痕、街で起きてる殺人事件に似ている……」
カイルは密猟者の体に付いた大きな爪痕を見て、それが街で起きている殺人事件の特徴と似ていることに気付いた。
「この死体はまだ新しい。きっと近くに怪物がいる」
ブレイズは死体の状況から、近くに怪物がいると判断した。そして武器を抜いて警戒した。するとカイルは血の跡が森の奥に続いているのを見つけた。
ブレイズとヘルガ、カイルは警戒しながら血の跡を辿って行った。そして森の奥に着くと、そこには密猟者の死体をズタズタに引き裂く怪物の姿があった。
その怪物は、長い爪に鋭い牙を持つ、人狼だった。人狼は近づいて来た三人に気付き、振り向いた。そして咆哮を上げると、三人に襲いかかって来た。
「カイル! 後ろに下がってろ!」
ブレイズはカイルに指示を出した。カイルはすぐにその場から下がり、弓を構えて援護の体勢を取った。一方でブレイズとヘルガは武器を構えて人狼と戦い始めた。
人狼はヘルガに近づくと、爪を振るって引き裂こうとした。ヘルガは槍で爪を防いだ。しかし人狼の膂力は尋常ではなく、ヘルガはその場から吹き飛ばされて、木に叩きつけられた。
「ヘルガ! 大丈夫か!」
「何とか!」
ヘルガの無事を確認したブレイズは、人狼の背後から袈裟斬りを与えた。背後からの一撃に人狼は一瞬怯んだが、すぐに振り返るとブレイズに標的を定めた。
そしてブレイズをその鋭い牙で噛み千切ろうとした。ブレイズは後ろに退くことで、牙を避けた。そして人狼の攻撃の隙に大太刀で斬撃を与えた。
しかしブレイズの大太刀で与えた傷はすぐに塞がった。この人狼は通常の個体よりも再生能力が高かった。そのためなかなか致命傷を与えられなかった。
ブレイズとヘルガは人狼の再生能力に苦戦していた。
「これならどう!」
ヘルガは人狼の心臓を貫いた。しかしその傷もすぐに塞がったようで、すぐに人狼は反撃してきた。
しかし徐々に人狼の体力は削れていた。その影響か人狼の再生能力も落ちてきていた。そしてブレイズが渾身の一撃を加えると、人狼は力尽きたのか、その場に倒れた。
人狼を倒したブレイズとヘルガは膝を地に付け、肩で大きく息をしていた。そして人狼との戦いが終わったところで、カイルが二人に駆け寄った。
「二人とも、大丈夫か?」
「あぁ、大丈夫だ」
ブレイズとヘルガは息を整えて立ち上がると、人狼にトドメを差すために近づいた。すると人狼は人の姿に戻っていた。
その人物は華美な服装で、高貴な身分であることを伺わせた。
「そんな!? まさか!?」
倒れた人の姿を見たカイルは驚きの声を上げた。
「知り合いなの?」
「この方は、伯爵様です!」
人狼の正体、それはここの領地を統べる伯爵本人だった。
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次回更新は6月20日の0時です。




