15話 盗賊団
女司祭のミモザをパーティーに加えたブレイズとヘルガは数日ほど歩いた。そして物資を補給するために村に立ち寄った。
村に入った三人は、村が陰鬱とした空気に満ちているの感じた。村人に活気がなく、すれ違う誰もが暗い表情をしていた。
何か良くない予感を覚えながら、三人はとりあえず宿と路銀稼ぎの仕事を探しに、村の酒場へと向かった。
酒場に入るとそこも陰鬱な空気に満ちていた。普通、村の酒場ならもっと楽しい空気であるはずだった。
ブレイズは酒場の店主のところに行くと、宿と仕事がないかを聞いた。
「三人分の物資と、それから泊まれるところはあるか? 何か手伝える仕事もあると嬉しいんだが」
「旅人さんか……。悪いが今は仕事がないんだ。それに宿はあるが、出来るならこの村に留まるのはやめた方がいい。すぐに出て行くのをオススメするよ」
「どういうことだ?」
ブレイズが酒場の店主に村に留まらない方がいい理由を聞こうとすると、外から怒号が聞こえた。
「おいおい、全然足りねぇじゃねぇか!」
「か、勘弁してください! もうこの村にはこれしか残っていないのです!」
ブレイズたちが外の様子を覗うと、そこには武装した男たちがいた。男たちは目の前で跪く初老の男性を足蹴にしていた。
そして男の一人が初老の男性の服を掴むと顔を近づけた。
「いいか? 期限は三日だ。それまでに集められなかったら、どうなるかわかってるよなぁ? 怪我をするのはアンタだけじゃなくなるぜ」
「わ、わかりました……」
男たちは初老の男性を脅しているようだった。そして男たちは初老の男性が要求を呑んだことを確認すると、村の外へと歩いて行った。
村人は武装した男たちが通ると、すぐに道を空けていた。男たちはその様子に満足しながら、村を去って行った。
男たちが去ると、村人は初老の男性に近寄って手当てを行っていた。初老の男性は苦しそうな顔で村人に話しかけていた。
「村長、大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。それより奴らに渡す金を工面しなければ……」
「でも村長、もう村に渡せるものはほとんど残ってません!」
「むぅ、なら一体どうすれば……」
村長と呼ばれた初老の男性は、立ち上がると苦い顔をしながら家の中へと入って行った。
「今のは何だったんだ?」
一部始終を見ていたブレイズは疑問を口にした。
「あれは盗賊団の連中だ。最近になってこの村に来るようになったんだ」
「なるほど、盗賊団か……」
先ほど村長に乱暴していた連中は盗賊団の下っ端たちだった。
「盗賊団はここから金や食糧を略奪していくんだ……。そのせいで村にはまともな食糧がもう残ってないんだ」
「盗賊団の規模はどのくらい何だ?」
「10人くらいだ。村の若いのが抵抗しようとしたが、奴らは武装していて、手も足も出なかった。見せしめに痛めつけられてからは、誰も抵抗出来ないんだ」
事態は深刻なようだった。村に差し出すものはなく、また抵抗する力もない。このままではこの村は盗賊団によって滅ぼされてしまうだろう。
「そんな、ひどいです! ブレイズさん、ヘルガさん、私たちで何とかしましょう!」
酒場の店主の話を聞いたミモザは、盗賊団の所業に憤慨していた。ミモザは盗賊団を罰せねばならないという義憤に駆られた。
「村に平和を取り戻しましょう!」
「そうね、あたしも同じことを考えていたわ」
「俺もだ」
ブレイズとヘルガもミモザと同じ考えだった。
「お、おい、あんたたち本気なのか!?」
三人の会話を聞いていた酒場の店主は、無謀なことに挑もうとしている三人を止めようとした。
「あんたらの心意気は嬉しいが、やめといた方が良い。前に盗賊団の頭に村の若いのが戦いを挑んだんだが、数人がかりでも手も足も出なかったんだ」
そのときの戦いを見ていた酒場の店主曰く、盗賊団の頭はめっぽう強いらしかった。しかしそれを聞いたブレイズたちに助けないという選択肢はなかった。
「俺たちに任せておけ。今日中にこの村に平和を取り戻してやるよ」
「どうしてそこまでしてくれるんだ?」
「困っている人を見捨てられない性分なだけさ」
そしてブレイズたちは酒場の店主に盗賊団の居場所を聞いた。盗賊団は村の近くの放棄された砦を根城にしているらしかった。
それを聞いたブレイズたちは砦を目指して、村を出発した。
※
ブレイズとヘルガ、ミモザは村を出発して一時間ほど歩いた。すると件の盗賊団が占拠している砦が見えてきた。
「おいお前ら! そこで止まれ! 何をしに来た? 貢ぎ物を持って来たのか?」
三人が砦の前に行くと、見張りをしていた盗賊団の下っ端が大きな声を出して三人を止めた。するとミモザは盗賊団の下っ端よりも大きな声を出して呼びかけた。
「私はラルヴィア教の司祭のミモザ! この近くの村から略奪するのを今すぐ止めなさい! さもなければ天罰が下りますよ!」
ミモザの声は砦中に響いていた。そしてミモザの声を聞きつけた盗賊たちが続々と砦から姿を現した。
砦から出てきた盗賊たちはヘルガとミモザを下卑た目で見た。
「いい女が二人もいるじゃねぇか」
盗賊たちは二人に舐めるような視線を向けているが、ミモザはそんなことは気にしなかった。
「あなたたちが略奪をすることで、村の人たちは飢え、困窮しています! あなたたちも元は善良だったのでしょう。今ならまだ間に合います! 悪行を止めるのです!」
説教をするミモザだったが、盗賊たちはそんなことはどこ吹く風といった様子だった。
「言うだけ無駄だ」
ミモザの説教を全く聞いていない盗賊団に対して、ブレイズとヘルガは武器を構えた。
「ミモザ、下がってろ」
「いえ、今回は私も戦います!」
ミモザはブレイズとヘルガの後ろには行かずに、二人の横に並び立った。
「戦えるのか?」
「大丈夫です。遅れは取りません」
ミモザはそう言うと杖を構えた。ブレイズとヘルガはミモザの戦闘能力に不安を持っていたが、ミモザのやる気に満ちた目を見て戦闘に参加させることにした。
先陣を切ったのはヘルガだった。ヘルガは地面を強く蹴ると、盗賊たちに一気に肉迫した。
「懲らしめてあげるわ!」
「やってみなっ!」
単身で突っ込んできたヘルガに対し、盗賊は剣を振り下ろした。ヘルガはそれをヒラリと避けると、槍で盗賊の体を貫いた。
貫かれた盗賊は事切れたように地面に倒れた。そして盗賊を一人倒したヘルガは、次の標的に目標を定めると再び肉迫した。
戦場を駆け回るヘルガとは対照的に、ブレイズはゆったりと歩いて盗賊たちに近づいていった。身長二メートルの大男が歩いてくるのはかなりの迫力があり、盗賊たちは尻込みした。
「び、ビビるな野郎共! やっちまえっ!」
ブレイズの気迫に飲まれそうになっていた盗賊たちは、一人の掛け声を聞いて正気に戻ってブレイズに斬りかかった。
斬りかかって来た盗賊に対して、ブレイズは大太刀で剣を受け止めて、そのまま剣をはじき返した。そしてがら空きになった胴体を大太刀で両断した。
今の一太刀でブレイズの実力を理解した盗賊たちは、怖じ気づいた様子で、ブレイズに踏み出すことが出来なかった。
そんな盗賊たちはその場を動かないミモザを人質に取ろうとした。盗賊がミモザに駆け寄ると、ミモザは呪文を唱えた。
「『ラディクス』!」
ミモザが呪文を唱えると、地面から木の根が召喚されて、それが盗賊たちを寄せ付けなかった。
「クソっ! 魔法を使うのかっ!」
「こんなものではありませんよ!」
木の根を召喚したミモザはさらにそれを操り、盗賊たちを縛り上げた。
「う、動けねぇ!」
「そこで反省していなさい!」
ミモザを狙っていた盗賊たちは、瞬く間に木の根に囚われていった。そしてブレイズとヘルガ、ミモザの活躍によって盗賊たちは全員戦闘不能になった。
すると砦から一人の女性が姿を現した。その女性は全身を鎧に身を包み、バトルアックスと盾を装備していた。
「カミラさん! すいませんっ! こいつら思ったよりも強くて……」
「下がってな」
カミラと呼ばれた女性は砦の前の惨状を見ると、溜息をついた。そして動ける盗賊を自分の後ろに下がらせた。
「何者ですか?」
突如として現れたカミラにミモザは質問をした。
「あたしはこいつらの頭領さ」
「なるほど、この盗賊団の頭領でしたか……」
カミラは村から略奪をしていた盗賊団の頭領だった。
「こいつら相手になかなかやるみたいじゃねぇか。だがこれ以上仲間を傷つけさせねぇ」
「私たちも好きで戦っている訳ではありません。村からの略奪を止めれば命までは取りません」
「それは無理な相談だな。あたしらも生きるのに必死でね」
「そうですか、それでは仕方ありません!」
カミラへの説得が無意味と気付いたミモザは、木の根を操ってカミラを拘束しようとした。しかしカミラは這い寄る木の根をバトルアックスで両断した。
その太刀筋はとても早く正確で、木の根は一瞬で全てが切り裂かれた。
「強いな」
それを見ていたブレイズはカミラの実力を推し量った。ブレイズの見立てでは、ヘルガとミモザでは危険がありそうだった。
「俺が行く。二人は下がってろ」
「わかったわ」
「わかりました」
ヘルガとミモザを後ろに下がらせたブレイズは大太刀を構え、カミラと対峙した。
ブレイズとカミラはお互いに睨み合い、出方を覗っていた。先に痺れを切らしたのはブレイズの方だった。
ブレイズは大太刀を上段に構えると、そのまま飛び上がり一気に振り下ろした。カミラはブレイズの一撃を盾で逸らして捌いた。
ブレイズの一撃は大地に当たると、大きな亀裂を作り出した。それを見たカミラはブレイズの強さを実感した。
(こいつはまともに受けたらダメだな……)
カミラはブレイズの一撃は鎧ごと両断する一撃だと理解した。そしてカミラはブレイズの大太刀による連撃を盾で弾きながら、隙を見てバトルアックスを振るった。
カミラの堅実的な戦いに、ブレイズはカミラがかなり戦い慣れていることを理解した。
(これじゃあ、村のやつらが何人いても勝てない訳だ)
盗賊らしくないカミラの戦い方にブレイズは苦戦しながらも、着実にカミラの体力を削っていった。
そしてブレイズの振るった一撃で、カミラの持つ盾は破壊された。
「クソっ! ここまでか……」
盾を破壊され、体力も底をついたカミラは地面に膝を付いた。ブレイズはトドメを差そうと大太刀を振りかぶった。
しかしそんなブレイズにミモザが待ったを掛けた。
「ブレイズさん、待ってください」
「おいおい、またか? こいつらは村人に危害を加えてたんだぞ」
「それでもです。人なら生きている内に道を誤ることもあります。更生の機会を与えなければいけません」
ブレイズはミモザの真っ直ぐな眼差しに折れた。ブレイズは大きな溜息をつくと、大太刀を鞘に収めた。
「見逃してくれるのか?」
カミラは見逃されたことに困惑していた。自分たちの所業を考えたら、命を奪われても文句は言えないからだ。
「今回だけです。このお金を使ってまずはお腹を満たしなさい。そして今までの行いを償うために善行を積むのです。仕事を探すなら、ラルヴィア教の教会を訪ねなさい」
「わ、わかった、ありがたい」
「あなたたちのこれからに、実りと幸福があらんことを」
そう言うとミモザは手持ちの路銀を少しカミラたちに分け与えた。ブレイズは復讐が出来ないように武器を没収して、カミラたちを逃した。
カミラは生きている仲間を引き連れて砦から去って行った。そしてブレイズたちは略奪された食糧や物品の一部を回収して、村に引き返した。
※
「おい、見ろ! 戻って来たぞ!」
ブレイズとヘルガ、ミモザが村に戻ると村人たちが寄ってきた。
「無事だったんですね! それで盗賊団はどうなりましたか?」
「盗賊団は俺たちが倒した。もうこの村に来ることはないだろう」
ブレイズの報告を聞いた村人はたいそう喜んだ。そしてブレイズたちは略奪されたものの一部を村に返した。
「ありがとうございます!」
「残りの食糧とかはまだ砦にあるから、後で取りに行け」
「はい、わかりました!」
村人たちはさっそく砦に人を送った。そしてブレイズたちは村長の家に呼ばれて、村人を代表して感謝された。
「此度は我々のために盗賊を倒して頂き、何とありがたいことか。しかし申し訳ないことに村には今、あなた方に払える報酬がございません」
「別に報酬はいらないさ。ただ俺たちのことを覚えておいてくれ。俺がブレイズ、こっちがヘルガ。それからラルヴィア教の司祭のミモザだ」
「はい! あなた方のことは決して忘れません!」
村長はブレイズたちの名前を聞くと、しかと記憶に刻み込んだ。そしてブレイズたちはその日、村長の家で一夜を明かした。
盗賊団が倒されたことで、村人は久々に安眠することが出来た。
※
ブレイズとヘルガ、ミモザはカミラたち盗賊団を倒してからも数日間、村に滞在した。カミラたちの復讐を警戒してのことだった。
しかし何日経ってもカミラたちが来ないことから、村に安全が戻ったと確信した。そのためブレイズたち三人は村を後にすることにした。
村を出発する日、村人総出で見送りが行われた。
「本当にありがとうございました!」
村人からの感謝を背に受けながら、ブレイズたちは次の街を目指して歩き始めた。
読んでいただきありがとうございます。
次回更新は6月19日の0時です。




