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14話 女司祭ミモザ

 関所のサイクロプスを無事に討伐したブレイズとヘルガ。二人は川を渡るとそこそこ大きな村に辿り着いた。そこはキャラバンなどがよく通るため、交通の要所となっていた。


 ここで補給している旅人や商人がたくさんおり、酒場兼宿屋も繁盛していた。二人はそこで宿を取ると、酒場で路銀を稼ぐための仕事を探した。


 しかしこの村は現在平和そのものだった。もともとこの辺りは怪物の目撃が少ないため、モンスタースレイヤーとしての仕事も少なかった。


 ブレイズは酒場に来ていた村人に何か仕事がないか聞いた。


「なぁ、何か仕事はないか? 何でもいいんだが。見ての通り腕っ節だけはあるぞ」


「そうだなー、最近畑を荒らす鹿や猪がいるから、そいつらを駆除してくれたら報酬を払うよ」


 平和な村のため、仕事は畑を荒らす害獣の駆除くらいしかなかった。それでもブレイズとヘルガは少しでも路銀を稼ぐために、その仕事を受けた。


 そして二人は夜に畑の前で張り込み、鹿や猪を討伐した。怪物退治を生業とする二人にとって獣の討伐は朝飯前だった。


 駆除した鹿や猪はそのまま肉屋の村人に渡し、村の食事のメニューとなった。村人は食事が豪華になったことを、ブレイズとヘルガに感謝した。


 退屈な仕事だったが、村人から感謝されるので悪い気はしなかった。そして二人は村でゆったり過ごした。


 ブレイズとヘルガが村に滞在して数日、そこそこ路銀を稼げたため、二人はそろそろこの村から出発しようかと酒場で話していた。


 すると一人の女性が二人に話しかけてきた。


「すいません、少しよろしいですか?」


 女性はアッシュブロンドの髪をしていて、身なりも綺麗で品があった。


「あぁ、いいぞ」


「ありがとうございます」


 女性は席に座ると、自己紹介を始めた。


「私はミモザ。豊穣の女神、ラルヴィア教の司祭をしております」


「司祭様だったのか。俺はブレイズだ」


「あたしはヘルガ!」


 女性はラルヴィア教の司祭だった。ラルヴィア教とは、豊穣の女神ラルヴィアを信仰している宗教のことだ。この大陸でもかなりの信徒がいる宗教だった。


「それで、司祭様が俺たちに何の用なんだ?」


「実は護衛を頼みたいのです。私は各地の教会を巡礼しているんですが、女の一人旅は色々と危険が多いので……」


 ラルヴィア教は数年に一度、各地を巡りながら豊作を祈る巡礼の旅をしているのだ。


「別に良いが、ここまではどうやって旅をしてきたんだ?」


「ここまではキャラバンの方々に同行させて頂きました。しかしこの村で行き先が別れてしまったんです」


「なるほどな」


 ミモザはこの村まではキャラバンと一緒に来ていた。キャラバンには護衛が付いていることが多いため、ここまでは安全に旅をしてこられたのだ。


「別に護衛するのは良いが、何で俺たち二人なんだ?」


「女性がパーティーにいるというのも理由の一つですが、それ以上にこの村での奉仕活動を見て決めさせて頂きました」


 ミモザはこの村で護衛に適した人を探して観察していた。そのときに安い報酬で村人の依頼をこなし、村人に肉を分け与える慈愛と奉仕の精神を持ったブレイズとヘルガを見つけたのだ。


「俺たちの目的地は王都だけど、大丈夫か?」


「王都まで行かれるのですね。私の目的地は王都までの道のりの途中にあります」


「そうか、それなら大丈夫そうだな」


 目的地も途中まで一緒ということもあり、ブレイズとヘルガは護衛の依頼を了承した。


「それでは報酬の半分は前払いさせて頂きますね」


 そう言うとミモザは金貨や銀貨が入った小袋を渡した。小袋を受け取ったヘルガはその重さに驚いた。


「こんなにたくさん、良いの?」


「はい、大丈夫です。残りの半分ですが、各地の教会に着いたときに払わせて頂きますね」


 こうしてブレイズとヘルガの王都を目指す旅に、女司祭ミモザが加わった。



          ※



 ブレイズとヘルガ、それにミモザを加えたパーティーは村を出発した。


「そう言えば、お二人はどうして王都を目指しているのですか?」


 ミモザは歩きながらブレイズとヘルガに旅の目的を聞いた。


「王都で仕事に就くために旅をしているんだ」


「それはご立派な理由ですね」


 そんな話をしていると、突然ブレイズとヘルガは足を止めた。そして辺りを警戒し始めた。


「どうかしたのですか?」


 急に歩みを止め、剣呑な雰囲気を纏った二人にミモザは困惑した。


「囲まれてる」


 ブレイズは小さく呟いた。すると街道の横の森の中から数人の男が現れた。男たちの身なりは汚く、また武器を持っていた。


「山賊か」


「へへっ、死にたくなかったら荷物と女を置いていきな」


 山賊は下卑た目でヘルガとミモザを見ていた。その視線にヘルガは嫌悪感を剥き出しにした顔をした。


 ブレイズとヘルガは武器を構えて山賊を殺そうとした。しかしそれをミモザが止めた。


「出来れば殺さないであげてください」


「何を言っているんだ?」


「飢えや貧しさが悪心を生むのであって、本来人は善良なのです」


 ミモザは山賊を生かすように二人に頼んだ。ラルヴィア教の教えでは性善説が説かれており、悪い行いは飢えのせいだと考えられているのだ。


「更生の機会を与えてあげましょう」


「ここで殺さないと、他の人を襲うかもしれないぞ」


「それでもです」


 ブレイズはここで山賊を逃がしたら、他の人に被害が出ると考えた。そのためここで殺すのが専決だと思った。


「はぁー、わかったよ。ヘルガ、こいつらは殺すな。出来るな?」


「余裕よ」


 ブレイズはミモザの強い眼差しに折れた。そしてブレイズはヘルガに山賊を殺さないよう指示をした。


「話は終わったか? なら早く女と荷物を置いていくんだな」


 そしてブレイズとヘルガは武器を構え、山賊に肉迫した。ブレイズは大太刀を鞘から抜かず、ヘルガは槍の柄でそれぞれ攻撃を加えた。


 相手は所詮数人の山賊。歴戦のモンスタースレイヤーであるブレイズとヘルガの敵ではなかった。


 山賊たちはあっという間に制圧された。するとミモザは地面に倒れ、痛みで呻く山賊に近づいていった。


「おい、危ないぞ」


「大丈夫です」


 ミモザは山賊に近づくと回復の魔法を掛けた。そして山賊にラルヴィア教の教えを説く、説教を始めた。


 そして説教を終えたミモザは、手持ちの路銀から少しを山賊に対して渡した。


「少ない額ですが、これで飢えを満たしなさい。そして飢えを満たしたら、自分の生き方をもう一度考えるのです」


「あぁ、わ、わかった」


「あなたたちのこれからに、実りと幸福があらんことを」


 ミモザは祈りの言葉を山賊に与えた。それを受けた山賊は困惑しながら、その場を去っていた。


「ねぇ、ブレイズ。本当にこれで良かったのかな?」


「わからん」


 ミモザの一連の行いを見て、ヘルガは疑問を持ったようだった。そしてブレイズはその疑問に対する答えを持ち合わせていなかった。



          ※



 山賊を懲らしめた日の夜、ヘルガとミモザは眠りに就き、ブレイズは火の番をしながら辺りの警戒をしていた。


 するとブレイズは二人の側を離れ、森の中へと入っていた。


「上手く隠れているつもりかもしれないが、俺の目は誤魔化せないぞ」


 ブレイズがそう言うと木々の間から昼間の山賊が現れた。


「何をしにきた?」


「へへっ、昼間の借りを返しに来たんだよ」


 ブレイズは山賊の答えに侮蔑の目を向けた。結局更生する気はなかったのだ。


「そうか、ならしょうがないな」


 ブレイズは大太刀を抜き、山賊たちに刃を向けた。そして地面を蹴ると、一気に山賊に

肉迫した。ブレイズのスピードを目で追えなかった山賊たちは、断末魔の悲鳴を上げる間もなく、死んでいった。


 山賊を皆殺しにしたブレイズは、死体を離れた場所に積み上げて置いた。いずれあの山賊の死体はグールか獣の餌になるだろう。


 死体の片付けが終わったブレイズは、ミモザの行動の意味を考えていた。しかし結局納得する答えは浮かばなかった。


 ブレイズは森の中から戻ると、また火の番に付いた。

読んでいただきありがとうございます。

次回更新は6月18日の0時です。

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