13話 関所のサイクロプス
ブレイズの昔話を聞きながら街道を歩いていると、ブレイズとヘルガは大きな川に辿り着いた。
「ここを泳いで渡るのは無理そうだな。迂回して行こう」
「そうね」
川幅があり、さらにかなり深そうだったため、二人は川を迂回して渡ることにした。二人が川沿いを歩いていると、徐々に人通りも多くなっていった。
そして二人は川を渡る橋に作られた関所に着いた。この関所は川を渡る人や物を検査しつつ、怪物や盗賊から治安を守るために作られたようだった。
しかし現在その関所には大行列が出来ており、人が滞っていた。多くの人が関所の衛兵に詰め寄り、通してくれと話していた。
ブレイズとヘルガは、川を渡ることが出来ずに近くで休んでいた行商人に話を聞いた。
「なあ、何でこんなに人が溜まっているんだ?」
「あぁ、傭兵さんかい。いやな、この川の先に怪物が出たらしいんだ」
ブレイズとヘルガの武器を見て、二人を傭兵だと思った行商人はこの関所が通れない理由を聞かせてくれた。
「怪物? 何が出たんだ?」
「何でもサイクロプスが出たんだとさ。嫌だね、ここは安全に通れることで有名な場所なのに」
「サイクロプスか……、何で誰も討伐しないんだ?」
「そのサイクロプスが強いからさ! 今までもここに来た傭兵が何人か挑みに行ったが、誰も帰って来なかったんだ」
この関所が通れない理由、それは川の向こうのサイクロプスが原因だった。行商人曰く、すでに何人かがサイクロプスに挑んだようだが、全員返り討ちにあったらしい。
「あんたも命が大事なら、ここで待つのが賢明さ。もうすぐ街で編成された討伐隊が来るらしいからね」
「そうなのか、話を聞かせてくれてありがとう」
行商人に礼を言ったブレイズは道端に行き、何か思案顔をした。そんなブレイズにヘルガは声を掛けた。
「どうしたの、ブレイズ?」
「いや、これはチャンスだと思ってな」
「チャンス? 何の?」
「名を上げるチャンスだ! 関所を塞ぐ怪物を倒したとあれば結構名は広まると思うんだ」
ブレイズはこれを自分たちの名を広める好機だと思った。これだけ行商人や旅人がいれば、功績を挙げればすぐに名が広まると考えたのだ。
「戦うのは討伐隊が来てからでもいいんじゃない?」
「それだと手柄があんまり立たないだろ。俺たち二人だけで倒した方が噂は広まるのさ」
ヘルガは街の討伐隊が来るのを待って、一緒に戦うのを提案した。しかしブレイズはそれを拒否した。
「サイクロプスぐらい、俺たち二人なら余裕さ」
「それもそうね」
「そうと決まれば、さっそく交渉に行こう!」
ヘルガの了承を取ったブレイズは、人混みをかき分けて関所の衛兵の元へと向かった。関所の衛兵は突如現れた赤髪の大男に怯んだ様子だった。
「サイクロプスに困っているらしいな」
「何だ? また傭兵か?」
「俺たちはモンスタースレイヤーだ。俺たちがこの先のサイクロプスを倒してこよう」
「やめとけ。そう言って何人もこの川を渡ったが、金を受け取りに戻って来た奴は一人もいないんだ」
「安心しろ。俺たちはその辺の奴らとは違うからよ」
衛兵は交渉をしに来たブレイズとヘルガにこの先へ行かないように諭した。なぜならこの先から戻ってきた者はいないからだ。
しかしブレイズは衛兵の忠告を無視した。そして自分たちの実力をアピールした。ヘルガは力こぶを作って見せていた。
「そこまで言うなら、勝手に行け。報酬は用意しておく。ここに生きて戻って来られたらだけどな」
「任せておけ」
衛兵はブレイズとヘルガの実力を疑っていたが、怪物の恐怖から早く解放されたいがためにブレイズとヘルガに討伐を依頼した。
そしてブレイズとヘルガはサイクロプスを討伐しに川を渡った。
※
橋を渡って川の向こうに着いたブレイズとヘルガ。少し歩くと街道には荷馬車や人の死体が散乱していた。中には武装した死体もあり、これが先にサイクロプスに挑んだ傭兵たちだった。
潰されて千切られた死体に、荒らされた荷馬車。サイクロプスは荷馬車を襲ってその荷物を奪っていたようだった。
そしてブレイズとヘルガが荷馬車の付近を歩いていると、街道の横の林の中からサイクロプスが現れた。
サイクロプス、それは一つ目の巨人だ。知能はそこまで高くないが、尋常ならざる膂力を持っており、危険な怪物だ。
サイクロプスは二人を見るとにんまりと笑った。新しい餌が来たことを喜んだのだろう。それに対し、ブレイズとヘルガは余裕の表情を浮かべていた。
そしてサイクロプスは二人に襲いかかって来た。サイクロプスは腕を振り上げて、そのまま振り下ろした。二人は横に飛ぶことでサイクロプスの一撃を避けた。
サイクロプスの攻撃が当たった地面は大きく抉れており、その威力の高さを伺わせた。サイクロプスはがむしゃらに腕を振るい二人に攻撃した。
しかし二人はそれをするりと避けた。そしてサイクロプスの腕をかいくぐり、ヘルガがサイクロプスに肉迫した。
ヘルガは槍をサイクロプスの腹に突き刺した。血が溢れ、サイクロプスは痛みに呻いた。しかし致命傷にはならなかったようで、ヘルガはすぐに一歩引いて距離を取った。
攻撃を受けて怒ったサイクロプスはヘルガに向かって突進をした。しかしヘルガはそれを華麗に避けた。
突進を躱されたサイクロプスはそのまま転けた。ヘルガを見失ったサイクロプスにブレイズは近づき、その大太刀で斬撃を加えた。
背中を大きく斬られたサイクロプスは大きな声で叫んだ。そして近づいて来たブレイズを遠ざけるためにがむしゃらに暴れ出した。
子供が地団駄を踏むように暴れたサイクロプスにブレイズは近づくことが出来なかった。
「あたしに任せて!」
そう言うとヘルガは飛び上がり、そのまま重力の落下に合わせて槍をサイクロプスに突き刺した。心臓を貫かれたサイクロプスはそのまま絶命した。
「ヘルガ、ナイスだ!」
「ふん! 楽勝ね!」
ヘルガは絶命したサイクロプスの上で胸を張った。
そしてサイクロプスを倒したブレイズとヘルガはサイクロプスの首を持ち、関所へと戻っていった。
※
川の関所で行商人の対応していた衛兵は、向こうからブレイズとヘルガが戻って来たのを見つけた。
「本当に戻って来た! 無事だったか!? サイクロプスは!?」
「ほらよ、サイクロプスの首だ。無事に討伐してきたぜ」
衛兵はサイクロプスの首を見て驚いた。まさか有言実行するとは思ってもいなかったのだ。
「報酬をもらってもいいか?」
「あ、あぁ。ほら、これが報酬だ」
「ありがとよ」
報酬を受け取ったブレイズとヘルガは行商人や旅人の行列の前に行って、大声で名乗った。
「俺たちはブレイズとヘルガ! この先のサイクロプスは俺たちが倒した! だから安心して通ってくれ!」
ブレイズの報告に行商人や旅人は喜びの声を上げた。そして自分たちの功績をアピールし終えたブレイズとヘルガは、もう一度川の向こうへと渡っていった。
※
ブレイズとヘルガがサイクロプスを討伐した翌日、一日遅れで討伐隊が到着した。
「我々が来たからにはもう安心しろ。それでサイクロプスはどこに?」
「それがですね……」
関所の衛兵はやって来た討伐隊に、事情を説明した。
「何と! もう倒されたのか! 一体誰が倒したのだ?」
「ブレイズとヘルガと名乗るモンスタースレイヤーが倒してくれました!」
「ブレイズにヘルガか……」
二人の名前を聞いた討伐隊の隊長はブレイズの名をどこかで聞いた事があるような気がした。しかし隊長は思い出すことが出来なかった。
「サイクロプスをたった二人で倒すとは……。何者なのだ……」
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次回更新は6月17日の0時です。




