1話 徴兵
「おい、名無し」
「・・・」
俺は後ろから声をかけられて振り返った。そこには人の悪い歪んだ笑みを浮かべた少年が剣を持って立っていた。
「おらぁ!」
その少年が急に切り掛かってくる。しかし俺はそれを余裕を持って避ける。何度か切り掛かってきた後、少年は少し息を切らしてその不機嫌さを隠さずに言った。
「はぁ・・・はぁ・・・」
「父上がお呼びだ。何をやらかしたのかは知らんが早くいけ」
「・・・」
それを聞いた俺は、その少年に何も言わずに立ち去った。
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コンコン
「入れ」
「失礼します」
「砦からの徴兵状が届いた。この徴兵にはお前が行け。俺はこのためにお前のことをここまで育てたんだからな、名無し。」
「わかりました」
「そうか、物分かりが良くて嬉しいよ。それじゃあ荷物をまとめて早く行け。」
俺は与えられた部屋|(屋根裏)に行き荷物をまとめると、すぐに屋敷からでた。正直、この時を待っていた。もしかしたら死ぬかもしれない。でも周りのもの全てを見下しているこいつらにいつか殴り殺されかもしれないことと比べれば、肉壁になって1秒でも人間が滅びるのを遅らせることの方がより立派な死に方だろう。俺はボロボロになった服となけなしの荷物を持って王都行きの馬車に乗り込んだ。