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大影帝国記【完結!】  作者: aberia
第四章 玉璽争奪編
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第八話 似た者同士

 屋外の朽ち果てた雰囲気とは打って変わり、邸の中は塵一つ見つからないほど綺麗に整えられていた。

 それとも単純に物が少ないからだろうか。

 邸の主人の人となりが、何となく伝わってくるような気がした。



「貴女は、劉宰相の邸にいらっしゃったのですね」

 そう、ここは宰相・劉炎の邸であった。


 

 邸の外観は、とても一国の宰相の邸とは思えない有様である。

 ぼろぼろなのは、馬車だけではなかったようだ。

 


 しかし、平民から宰相にまで登り詰めた男の異例の大出世を考えると、その生活振りはむしろ好感を覚えるものだった。



 大概貴族はどんなに好人物でも、だからこそ身なりや邸の佇まいに気を使う。

 体裁もあるだろうが、それに周囲に富を分配する機能があると心得ているからだ。



 あの宰相とてそれは分かっているのだろう。

 分かった上で。

「(あの方にとっては、労力や金をかけるべき事柄ではないのだろうな)」

 とはいえ鶯俊のことを考えると、彼もまた糾弾すべき一人であるのだろうが。



 邸の中に主人の姿はない。

 断りもなく入っていいのかと戸惑う季翠だが、結局夫人のすすめるまま卓について茶を供されていた。

 


 乳母が淹れてくれた茶を飲むのも、随分と久しぶりだ。

 礼を言い、何となくいつもより丁寧に口をつける。

 懐かしい、味がした。 



 温かな茶にほっと息を吐く季翠を見て劉夫人は穏やかに目を細めた後、先ほどの質問を反芻した。

「蒼旺様がどのような方であったか、でございましたね」

 彼女はしばし思案した後、季翠をじっと見つめた。

 何事かと首を傾げる。



「……翠様は御顔立ちはお父様に似られましたが、気質はもしかしたら叔父上に似られたのかもしれませんね」

 突然の言葉に、何と反応していいのか分からなかった。



 自分と蒼旺が、似ていると……?



「先帝陛下は……大変不敬ですが、御世辞にも良き父君ではあらせられませんでした」

 先帝――季翠の祖父は、愚鈍ではないがどちらかと言えば凡庸な人物だったと聞く。



 彼は先代達同様、縁戚である張家の姫であった季翠の祖母――そう、張副宰相の妹だ——を后に迎えた。

 その間に生まれたのが、後の緑龍帝だ。



 幼少期からその非凡な才能を発揮していた緑龍に、周囲は沸き、彼は早々に太子に立てられた。

 将来有望な世継ぎに、皆が国の未来に安心を覚えたのも束の間。

 先帝は緑龍の母である皇太后が死んだ後、何をとち狂ったのか年若い下女に気まぐれに手を出してしまった。

 

 

 子が一人では不安だったのかもしれないが、当時その唯一の子である緑龍の年は十に届くほどで、加えて彼は身体的にも恵まれており丈夫だった。

 他に子をもうけるにしても、正直今更という感じだったのだと言う。



 結果として先帝は、後世の火種になりかねない余計な真似をしたと言えた。



 彼にとってはほんの気まぐれだったのかもしれない。

 しかしその気まぐれの一夜により、その下女は子を身籠ってしまった。



 それが、蒼旺である。

「蒼旺様の母君は、蒼旺様をお産みになられてすぐに、心労の末自害をされました。しかし残された蒼旺様を、先帝陛下は捨て置かれました」



 代わりに庇護したのが。



「緑龍帝だった、」

「その通りでございます」

「お二人は、それは仲睦まじいご兄弟でいらっしゃいました」



 劉夫人の表情が、殊更柔らかいものとなった。

 彼女の目には、在りし日の幼く可愛らしい少年の姿が映っていた。

「蒼旺様は、陛下をまるで父君のように慕われて……」

 


 それは。

 季翠の目が、微かに開く。



 それに、夫人は頷きなしに肯定した。

「蒼旺様も、それはお兄様思いの弟君であらせられました」



 季翠は、まるで自分の話を聞いているようだと、思った。

 親に捨て置かれ、上の兄姉を親代わりに慕う。



 しかし。





 ――――そんな弟が、兄の子を取り替えた。



 人は変わる。

 劉夫人の知っている少年が、そのまま大人になるわけではないのだ。



「……ばあや」

 話の流れで蒼旺の話となったが、季翠が本当に知りたくてやって来たのは別の話だ。

 それにこれ以上、「自分に似ているという叔父」の話は、深く聞きたくなかった。



 自分も同じ道を辿る可能性があるかもしれないと、ほんの少しでも考えたくなかった。



「私が今日やって来たのは、別のことについて聞く為なのです」

「……伯大将軍から、お聞きしております」



「――――二十年前、皇子・鶯俊、皇女・碧麗が産まれた皇宮で当時何があったのか」

 教えてもらえますね、と偽りを許さぬ強い目を向けた。

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