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大影帝国記【完結!】  作者: aberia
第四章 玉璽争奪編
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第四話 天が選ぶ

 泣き腫らした目で姿を現した季翠に、邸の主は片眉を上げたのみで特に何も言わなかった。

 正直、季翠は拍子抜けした。

 


 この男のことだから、それこそ呆れの目で見てくると思ったのに。

 最悪、罵倒されるとも。



 ……いや、この人にとっては、それこそ季翠が泣こうが喚こうがどうでも良いことかと思い直す。

 しかし触れられないというのは、殊の外有難かった。

「――――今日、蒼旺の葬儀が宮中で行われた」



 ああ、だから喪服姿なのか。

「(この人でも、喪服を着ていればそれなりに故人を悼んでいるように見えるんだな)」

 


 それから。

 何でもないことのように、彼は続けた。

 だから、季翠も特に身構えずに聞いてしまった。



「陛下が、事実上の譲位を宣言された」



 陛下。

 譲位。



「………………は⁉」

 聞き流しかけた耳に、信じられないことが聞こえたような。



 腫れぼったくて動かしにくい瞼を無理矢理開け、驚愕の目を向ける季翠に、虎雄は一言。

「玉璽」



「ぎょくじ……?」

 何のことか分からず、鸚鵡返しをする。



「お前のところにも、届いていたはずだろう」

 


 ぎょくじ……。

 届いていた。



「!まさか……」

 ぎょくじとは、”玉璽”のことか……っ。

 そして、それに該当する届け物といったら。



 ――――あの金塊。



 四狛に奪われた、贈り主不明のあの謎の金の塊。

 あれぐらいしか思いつかない。



「(でも……)」

 皇帝の手によって届けられたのだとしたら、警備を掻い潜って届いたのも納得がいく。



 虎雄は事もなげに言う。

「お前のことだ。どうせあの四狛とか言う小僧に奪われたのだろう」

「!」



「(……この人)」

 一体、どこまで知っているのか。

 皇帝以外興味がないと思っていたが、それも季翠の思い込みだったのだろうか。



 この邸に保護されてからの一連の様子も。

 碧麗同様、やはりこの男にも、季翠が見てきた面とは違う一面があるのかもしれない。



 ……だからと言って。

「(幼い頃から刷り込まれた恐怖と拒絶の感情は、そう簡単に消えたりはしない)」

 今だって季翠は、虎雄が大嫌いだ。

 


 しかし、それを理由に逃げ続けていた結果が、”今”なのだ。

 もう、この人からも目を背けることはできない。



 挑むように彼を見上げた。

 そんな季翠に、虎雄はほんの一瞬目を細めた。

  


「……あの小僧は、烏竜の息がかかった監視役だ」

 ……やはり、そうか。



 正直に言うと、違和感はあった。

 


 四狛はずっと西に詰めていたと発言したことがあったが、それにしては帝都への道中、特に道に迷うこともなければ交通の手続きに手間取る様子もなかった。



 事前に確認して心得ていたと言われればそれまでだが、監視役として頻繁に西牙と帝都を行き来していたとすれば、納得がいく。

 近衛将軍と面識がないなどと言ったのも、嘘だろう。



 園遊会の時、そして皇宮を出る時にも見かけた、鳥の玉佩を付けた近衛兵達。

 最後に見た四狛も、同じものを身につけていた。



「……彼らは、一体何者なのですか」

「”烏隊”」



「からすたい……?」

「烏竜の子飼いの兵達だ」

 近衛の中でも、特に厳しく訓練された精鋭で構成されている部隊だと、虎雄は言う。



「伯家出身の者もいるが、中には傭兵崩れ、夜盗上がり、孤児といった、出自も定かでない者も多いと聞く。お前の護衛武官だった小僧も、その口だろう」 

 四狛は、拾ってもらった恩があると、言っていた。

 彼も、元は恵まれない生まれだったのだろうか。



「どいつもこいつも大した忠義ぶりだと聞く。お前のとこだけでなく、あちこちに紛れ込ませているだろう。……あいつに求心力があるのは、父親譲りかもな」

 虎雄は皮肉気に唇の端を歪めた。

 父親(あんた)譲りだと言いたいのだろうか。


 

 伯虎雄の養子・烏竜近衛将軍。

 そして……姉の想い人。



「(なぜ、烏竜将軍は私が邪魔なんだろう)」



 四狛はこう言っていた。

 ――――”殿は、貴女に心底いなくなってほしいと思っておられるようです”、と。



 殿とは、烏竜のことだろう。

 はっきり言って彼とは何の関りもないし、面識もない。

 恨みを買った覚えはないが……。



 でももしそうなら。

「(あの時感じた殺気は……)」


 

 北の荒野。

 玄伯黎の首を、いとも簡単に跳ね飛ばしてみせた、あの矢。

 


 ……もし、あの矢が、あのまま季翠の頭も貫いていたとしたら……。



 それにあの時、四狛は確かこんなことを言っていた。

 自分が生きているか確認する季翠に対して。

 ”生きてますよ、残念ながらね”、と。



 —―――ぞっとした。



 もしかして、あの時から命を狙われていたのだろうか。

 季翠を殺す為だけにあの場に来たとは思わないが、もしどさくさに紛れて殺そうと思っていたのだとしたら……。

 


 今更ながら、自分がどれだけ能天気だったのか思い知らされた。

「(でも……)」



 四狛は、季翠を逃がした。



「――――陛下はこう仰られた」

 沈黙が流れる中、虎雄が再度口を開いた。



 いつの間にか卓の上に巾着を置き、行儀悪くそれを人差し指でかまっている

 何やら四角いものが入っているようだが、一体何を入れているのやら。



「四つに分けた玉璽すべてを手に入れた者が、次代の皇帝である」

「玉璽が選んだ。それすなわち、天が選んだ皇帝である————と」

「……天が、選んだ……」

 それは。



 無理矢理手に入れたとしても、天命になるのだろうか。









「激烈な帝位争いが始まる。死にたくないのなら、精々身の振り方を考えるんだな」

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