第三話 他者を知る痛み
虎雄との会話から後。
季翠は、魂が抜けたように、日がな一日呆然とし続けた。
そんな中でも考え続けたのは。
—―――伯大将軍の言っていることは、正しい。
季翠は、どこまでも甘ったれで、子どもだった。
虎雄の言っていたことは、どこまでも正しかった。
季翠は結局碧麗のほんの一部分しか、見てこなかったのだ。
彼女の美しい一面だけを。
それは、碧麗がそういう姿しか季翠に見せなかったというのもあるだろう。
しかしそれは同時に、季翠が彼女のことを、それ以上深く知ろうとしなかったことを意味する。
その一面を彼女のすべてだと考え、妄信した。
ただ子どものように甘えるだけで、それ以外の面があるなどと考えることすら放棄した。
北陵からの帰り。
鶯俊は、季翠が他人に興味を持つようになったと、変わったと言ったけれど。
「(私は西牙にいた頃と、何も変わっていない……)」
姉を妄信したこと。
それは。
嫌わない為に、醜いものを見たくない知りたくない為に、他者への理解を拒んだのと、一体何が違うというのか。
碧麗が蒼旺を殺した。
もしかしたらあの事態は、季翠にとっては急なことでも、碧麗にとってはそうではなかったのかもしれない。
彼女がなぜあんな行動をとるに至ったのか、季翠が彼女を理解できてさえいれば、あんな悲劇はそもそも起こる前に止めることができていたかもしない。
……いや、そこまで言うのは傲慢だろうか。
鶯俊のことも。
そんなことは嘘だ、有り得ないと否定するだけで、それを姉や紅蕣がどう思うかなど考えすらしなかった。
本当に。
何と、自分は愚かなのだろうか。
ああ……でも。
一つだけ、今までと違うかもしれない。
ぽたぽたと、抱えた膝に雫が染み込んでいく。
「――――それでも私は、姉上が好きなんだ……」
裏切った四狛のことだって、鶯俊を殺すかもしれない紅蕣のことだって。
季翠はどうしても、嫌いになることができない。
だって、知ってしまったから。
……ああ、そうか。
「(人を理解するって、こんなにも辛いことなんだ)」
今までのように近づくこと、理解すること、知ることを恐れる。
————そんなことはもう、できない。
鶯俊の言う盤上遊戯で人を理解するというのは。
酷く苦しいものだと、知った。




