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大影帝国記【完結!】  作者: aberia
第四章 玉璽争奪編
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第二話 双子

 一方、季翠がいなくなった皇宮では。



「――――碧麗」

 呼び止める青年が、一人。



 呼び止められたのは、青年の双子の妹と()()()()()娘。



 互いに喪服姿である。

 今日、彼らの叔父の葬儀があったからだ。



「翠がいなくなった理由、心当たりがあるのではないか」

 数日前。

 公にはされていないが————叔父は殺害された。

 その夜から、彼らの妹がその姿を消したのだ。



 青年――鶯俊は、この目の前にいる妹――碧麗が、何かを知っているのではないかと考えていた。



 末の妹――季翠は、姉である碧麗をまるで母親のように慕っていた。

 そんな少女が、彼女に何も言わずに姿を消すなど考えられない。



 碧麗は、その美しい花顔を少しも歪ませず振り返った。

「心当たり?」

「ありません。だから今、探させているのでしょう?」

 私の可愛い季翠は、可哀想に、きっとこの雪の中凍えているわ。



 袖で口元を隠し、悲し気に眉を寄せる姿。

 妹を思う、心優しき姉の姿を見せる彼女は、美しかった。

 


 しかしその目がふいに、ついと、鶯俊を見た。

 壮絶な流し目だった。



 ああ、でも……。

「……兄上こそ、御心当たりがおありなのではないかしら」

 彼女の花弁のような唇が、言葉を紡ぐ。



 —―――いえ、”兄上”と呼ぶべきなのかしら。



 鶯俊の目が、見開かれる。



 二人の間に、誤魔化しようのない緊張が走った。





 どこからどう見ても、似ても似つかぬ「双子」。

 運命を捻じ曲げられた、二人の子ども。

 


「お前……」

「季翠がいなくなったのは、」



「貴方の秘密に気づいたからでは?鶯俊”殿”」



「殿」

 傍らに寄って来た副官が、心配そうに顔を覗き込んできた。



「御顔色が良くありません。少し、休まれては……」

「そんな時間がどこに?」

 つい苛立った声音で問い返す。



 しまったと思い顔を上げると、伯廉が傷ついた顔でこちらを見ていた。

「(彼に当たってどうする)」



「……すみません。そうですね、薬湯を淹れてくれますか」

「!はっ」



「この薬で、少しは御体調が良くなっているでしょうか?」

「……ええ」

 嘘だ。

 正直薬湯を飲み始める前よりも、遥かに病状は悪化している。

 


 いや、正確には、飲み始めた最初の頃は確かに効果を感じた。

 検薬をした皇宮の薬師も、優れた医師による上薬だと絶賛したくらいだ。

 しかし耐性がついたのか病が進行したのか、次第にその効き目を感じなくなって久しい。



 が、こんなにも献身的に自分を気遣ってくれている部下にわざわざ言うことでもあるまい。

 要らぬ心労もかけたくはない。

 


 そもそも烏竜を脅かしているこの病に、効く薬などあるまい。

 これは、そういう類のものではないからだ。



 主の言葉が嘘とも知らず、伯廉は嬉しそうに笑う。

 


「そういえば」

 嬉しそうに竹簡を棚に収め直す部下に問う。



「この薬湯はどこの物なのですか?貴方が私に勧めるほどです。きっと高名な医師の調合した物なのでしょう」

 この副官が用意したもので、薬師のお墨付きもあった為、今までわざわざ出所を聞くことはなかった。



「そうなのです!」

「旅の医師なのですが、信頼のおける者です。以前身内も命を救われました」

 危篤状態で最早死ぬのを待つばかりだった伯廉の祖母を、たまたま近くに来ていたその医師が命を救ったのだそうだ。



 女子どもや老人、貧しい者にはもちろんのこと。

 時には罪人にもその救いの手を差し伸べる、まさに天が遣わしたかのような人物なのだという。



「今その者に、殿の病の治療法を探してもらっています。かの者は異国の医術にも精通しておりますので、必ずや殿を救ってくれるはずです」



 力説する伯廉だが、烏竜はとある言葉に気を取られていた。

「旅の医師……」

 彼は柔和と称される目元に、微かに影を落とす。



 ―———嫌なことを思い出した。



「殿?」



 何せ死んだものと思っていたのだから。

 —―――――”あの赤子”。



 それなのについ先日、とある人物の死によりそれを再考しなければならなくなった。



 北の問題は粗方片がつく目途が立ったが、その代わりこちらは全くと言っていいほど手つかずだった。

 急いで調べさせているが、今だ何の報告もない。



「(無理もない……)」

 最初から無謀なのだ。

 ――――”二十年前に失踪した者”の足取りを、追えなどと。



「……その医師に、身内はいるのですか」

「いえ、天涯孤独の身の上と聞き及んでおりますが」

「……そうですか」



 そう簡単に見つかるはずはない、か。



「……季翠」

 あの少女。

 こちらを見た、あの目。

 あれは、確実に自分が別人だと気づいた目だった。



 どうして気付いたんだろう。



 いつもよりも変装が甘かった?

 いや、同じ姿を一度見られているはずだ。

 ”あの人”といる時に、遠目からだったが。



 近くで見られたからだろうか。

 しかしそれにしたって。

 


 ――――あの人でさえ、完全に見分けることはできないのに。



 ”碧明(へきめい)”は、無意識に呟いていた。

「初めて、気付いてもらえた……」



 いないものであれと望まれた自分が、初めて認識してもらえた。

 彼女ではなく、彼として。


 

 本来ならそうであったはずなのに。

 どうしてこんなことになってしまったんだろう。



 この世に生を受けた時。

 自分達二人は、同じだったはずなのに————。

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