第二十一話 貴男に木槿の花が咲きますように
第二十一話 貴男に木槿の花が咲きますように
蒼天を背にし、双剣の少女がこちらを見下ろしている。
対して自分は尻もちをつき、砂まみれの状態でその姿を見上げていた。
小柄な少女から繰り出される素早い剣技に、見事に完敗した結果だった。
素朴でありながら、朱雀のような気高さと、木槿の花のような愛らしさを合わせ持った少女。
たぶん、初恋だった————。
*
——医局。
医官が緑の陶磁器で作られた香炉を、卓上に置く。
「姫様」
「お預かりした香の材料と賢妃の宮にあった物が、一致いたしました。対して、件の香の材料はいくつかないものがございました」
「一応可能性として、賢妃の宮で作られた物ではないかもしれないという線が出てきましたね」
最も、外から持ち込んでいたら関係ないですけど。
しかし、後宮に持ち込むには検査がある。
あの紛れ込ませ方なら大丈夫だったかもしれないが、危険は避けた方が無難だ。
夾竹桃などそこらに植わっているのなら、後宮内で調達した方が早いし確実だろう。
結論から言って、誰かが賢妃の名を騙って香を贈った可能性の方が高い。
「……賢妃が証拠隠滅で材料を処分、もしくは隠していなければの話ですけどね」
「……」
何にせよ、調査を担当している兵に伝えるべきだろう。
「徳妃の侍女の容態はどうですか」
「芳しくありませぬ。どうやら気管をやられたようで、呼吸がうまくできないようです」
「気管……?」
夾竹桃の中毒に、そんな症状があっただろうか。
「……香の毒成分ですが、もう一度調べ直していただくことはできますか」
「かしこまりました」
礼をとった医官に、季翠はしばし逡巡した後。
「…………あと、」
「これ……も、調べて、いただけませんか……」
「姫様、それって……」
季翠が懐から出した物に、四狛は驚きに目を見開く。
「それから——」
医官に依頼をした帰り。
「あ、姫様、碧麗皇女様ですよ」
四狛の声に顔を向けると、確かに姉がいた。
外廷にいるとは珍しい。
声を掛けようかと思ったが。
「烏竜将軍と御一緒みたいですね」
「……この前聞いた話は、本当なんですかね」
「……」
*
翌日。
昨晩鶯俊皇子のお渡りがあったことが、後宮内に広まった。
どの妃の元を訪ねたかまでは明らかにされず、皆思い思いに憶測を囁き合っていた。
またその話とほぼ同時に、香で重体となっていた徳妃の侍女が身罷ったとの報が伝わった。




