第七話 後宮
第七話 後宮
「え!将軍、後宮に入ってもいいんですか?」
そのまま後宮内に普通に入っていこうとする紅松に、四狛が驚いた声を上げる。
後宮は皇帝以外の男子禁制の場所ではないのか。
この老将は老いていて男の機能が枯れていそうだから良いのかもしれないが、四狛は確実に処罰対象だろう。
四狛の思考回路が分かったのか、紅松は青年武官に呆れた目を向ける。
「通常の後宮の機能を考えれば、姫様はともかく我らが入ることは絶対に許されぬ。しかし、現帝の御代では後宮はすでにその役割を担っておらぬ」
大影帝国初代皇帝にして現皇帝・緑龍帝の後宮は、少し……いやかなり特殊な場所と化していた。
「貴殿も知っての通り、皇帝陛下の御子はここに居られる季翠様、第一皇女の碧麗様、皇子殿下の鶯俊殿下の三名。三人の御子の全員が、皇后陛下のお産みになられた御子だ」
「皇帝陛下は、それは皇后陛下を深く御寵愛なさっている。即位後に後宮はおつくりになられはしたが、ほとんど通われていない」
まさに後宮とは名ばかりの扱いのようだ。
皇帝のお通りがなければ、後宮の皇宮内での地位は吹けば飛ぶようなものだろう。
男子禁制すら解かれているのが、皇帝の関心の薄さを如実に表している。
「後宮には一応四夫人は揃っているが、それ以下は侍女、下女のみだ」
四夫人。
本来なら皇后候補となるはずだった上位の妃たちのことだ。
季翠の母である皇后は、妃の段階を経ずにいきなり皇后に立后したのだという。
これから後宮で生活する季翠のために、知っていた方がいいと思ったのか紅松が四夫人の説明を付け加える。
「後宮には浩貴妃、李賢妃、王淑妃、張徳妃の四人の妃が居ります。姫様と直接お顔を合わされることはないとは思いますが、あまりお近づきになりませんように」
そう言い含める紅松に、季翠も神妙に頷く。
話を横で聞いていた四狛は、意外そうに言う。
「妃がいるにはいるんですね」
「お里下がりは許可されている。しかし、どんな状況であろうと、諦めきれぬ者というのは一定数いるものだ。どんなに緑龍陛下の皇后陛下への御寵愛が厚くとも、僅かな可能性に縋り、あわよくばと思う者はいるのだ」
諦めきれず後宮に自らの意志で残る妃たち――――。
男子禁制が解かれた後宮だが、侍女や下女と恋人同士で逢引きをする官吏や武官以外は、普通の者は後宮に必要最低限近づこうとしないという。
「あまり気分が良い場所ではございません……」
難しい顔でそう語る紅松だが、表情が強張った季翠と四狛を見て声を明るくする。
「あまりご心配召されるな。四夫人の一人・張徳妃はもうすぐ里下がりをすると聞いております。というのも、秋に皇子妃選定で入内候補の筆頭となっておるのです。兄君の後宮へと体制が一新すれば、後宮の空気も澄んだものになりましょう」
「はい」
三人はとうとう、後宮へと足を踏み入れた。