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大影帝国記【完結!】  作者: aberia
第三章 後宮編
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第十四話 園遊会前編

第十四話 園遊会前編



 秋が深まり、葉が美しく色ずくようになった頃。

 妃たちの内外へのお披露目として、皇宮で園遊会が開催される運びとなった。



* 

 ————園遊会。

 季翠も皇族の一人として、正装で出席していた。



 今日は朝から大変だった。

「この髪飾りを合わせるのはどうかしら」

「碧麗皇女様、そちらもよろしいですがこちらも……」



 碧麗の宮に連行され、姉と侍女たちに頭の先から爪先、髪の毛の一本に至るまで構い倒された。

おかげで見られる姿にはなったのかもしれないが、その代わりにすでに体力は底を尽きかけていた。


 

 まあ、姉が張り切るのも無理はないのかもしれない。

 なにせ今日、季翠はようやっと正式な場で父帝に目通りが叶うのだ。



 本来なら別の機会が設けられても良いものだが————現に兄と姉は五年前に帝都に戻った際、個別に目通りしたらしい————、季翠はあまり関心を払われていないのかもしれない。



 しかも、本日の主役はあくまでも鶯俊の妃たちである。

 季翠は、軽く挨拶の口上を述べるのみだそうだ。

 正直、それを聞いてほっとした。



 会場には碧麗と共に来たが、彼女は今所用で席を外している。 

 今日は場所が外廷のため、四狛が護衛についていた。

 季翠は周りを碧麗の侍女たちに固められていたが、そこに青色の衣の一団が近づいてくる。

 


 青は清家の色だ。

 つまり————。



 一団の中から、一際華奢で煌びやかな装いの娘が歩み出てくる。

「第二皇女殿下にご挨拶申し上げますわ」



「右将軍・清辰淵が三の娘、麗辰と申します」

 そう言って邪気のない笑顔を見せた。

 


 彼女——清徳妃は青というより、薄い水色の衣を纏っていた。

 ところどころに色糸で花や草の刺繍が施されており、何とも可愛らしい。

華奢な腕に掛けた黄色の被帛が陽の光を通す様が、まるで青い小花に太陽の光が注ぐようであった。



「こちらこそ、御初に御目にかかります。清徳妃」

 何かに似ている、季翠は内心首を捻った。



 何だったか。

 昔ばあやに絵本で見せてもらった異国の花————そう、瑠璃唐草。

 清徳妃はその瑠璃唐草のようだと、季翠は思った。



 徳妃は再度会釈をすると、侍女たちに寄り添われ席に戻って行った。

 途中、同じく群青の鎧を纏った中年の男が彼女に近づいて親し気に話している。

 あの人物は——。



「清将軍です、姫様」

 四狛が耳打ちしてくる。



 なるほど。

 あれが清徳妃の父親である、清辰淵将軍か。



 控えめというのか何と言うのか、やや印象が薄い御仁だ。

 しかし、目尻が下がって何とも嬉しそうだ。

 余程娘が可愛いのだろう。

 


 侍女たちの噂話を少し耳にしたが。

 清家は元々伯家同様、男系の家柄で娘に恵まれにくい家系なのだという。

 現に、今回の入内には伯家出身の姫はいない。



 しかし当代当主である辰淵は、実に三人もの娘に恵まれたのだという。

いずれも正妻である清夫人が産んだ子で、特に末娘である清徳妃は掌中の珠のように大切にされてきたのだとか。



「ちなみに張副宰相の隣にいるのが、劉宰相です」

 清将軍の流れで、四狛が他の高官を解説し始める。



 高官用に用意された席。

 張副宰相の隣には、如何にも厳しい雰囲気を纏った老官がいた。

 老官の向かいには、雀将軍の姿も見える。

 


 あれが例の。

 武官上がりというのは本当のようで、飾りではない実に実用的な剣を携帯しているのが見えた。

 


 彼の人が憧れだという俊煕にも見せたかったと、季翠は思った。

 しかし、首脳陣の人数に対して随分と席が少ないように見える。



 聞けば、三人ほど欠席者がいるのだとか。

 葵戰毅は賢妃と入れ替わりに北に戻ったため、当然欠席。

 伯虎雄も、今は皇帝の命で西に行っているのだそうだ。



 そして皇帝の弟・蒼旺皇太弟は、体調不良で欠席だという。



 それでも一人足りない——と思ったところで、姉の嬉しそうな声が聞こえてきた。

「姉上——」

 季翠はぱっと笑顔で振り返るが、碧麗は誰かと話すのに夢中のようだった。

 


「姫様、烏竜将軍です」

 四狛が即座に耳打ちする。



 近衛将軍・烏竜。

 彼は、物腰柔らかそうな雰囲気で碧麗と談笑していた。

 後ろには、揃いの薄墨色の官服を着た部下を数人連れている。

彼らは皆、腰元に見慣れない形の玉佩を下げていた。



「(この人……)」

 この前は遠目だったが、改めて近くで見るとやはり。



「(玄家邸、そしてあの荒野)」

 間違いなく、あの場に居た。

 しかし、一体何の為に……?



 動機が分からない。

 確認したい気持ちがないことはないが……。



 戸惑う季翠の耳に、侍女や側仕えたちの囁き声が聞こえてきた。

「まあ、碧麗皇女殿下と烏竜将軍よ」

「何とも絵になるな」

「皇女殿下は、やはり将軍に御降嫁を?」



 季翠だけでなく、周囲も二人に目を奪われているようだった。



 ————美しい皇女と、精悍な近衛将軍。

 何とも絵になり、また恋物語として人気が出そうな話だと思った。



 姉の表情を見る。



「(姉上、嬉しそうだ)」

 碧麗は、季翠が今まで見てきたなかで一番と言っていいぐらい、美しく輝く笑顔を浮かべていた。


 

 何となく落ち着かない気持ちになり、妃たちの居る席に目を向ける。

 すでに、徳妃以外の妃は席についていた。



 清徳妃も可愛らしい姫君だったが、他の妃たちも負けてはいなかった。

 皇帝と皇子が座る上座を中心に、四妃の席は二手に分かれて設置されている。

 


 上座から向かって右の手前に張貴妃、その横に清徳妃。

 反対側の手前に雀淑妃、横に玄賢妃といった具合である。



 本日の主役は妃たちの為、碧麗と季翠の席は妃たちの下座に設けられている。


 

 張貴妃。

 彼女は緑をふんだんに使用しつつも、豪奢だが決して派手過ぎず、他と一線を画す品が漂う装いをしていた。

 衣全体にびっしりと細かく銀糸の刺繍が施され、碧玉が埋め込まれた銀細工の簪が光を弾き、まるで彼女自身が宝石のようにきらきらと光り輝いていた。



 季翠は初めて張貴妃の姿を見たが、自分たち兄妹とは又従姉妹の関係らしい。

 しかし紅葉の刺繡がされた団扇で顔を隠しており、表情は伺い知れなかった。



 雀淑妃——紅蕣はというと。

 こちらは目が覚めるような、それでいてとても惹きこまれる、深みのある紅い衣を身に纏っていた。

 衣全体に、金糸で翼が描かれ、まるで彼女自身が朱雀の化身のようだった。

 小鳥のような愛らしさと、凛々しさを両立させた姿だ。



 玄賢妃は。

 黒い衣に、散る木の葉を金糸で描いた金の帯を合わせていた。

 黒は重くなりがちだが、衣の上に透明な上着と銀白色の被帛を重ねて羽織っており、それが軽やかさと洒落を出していた。

 彼女は季翠に気づき、嬉しそうな顔を見せる。



 それに軽く会釈で返したところで、園遊会の開会が宣言される。

 季翠も、戻って来た姉に促され席につく。



「皆様、本日は御臨席を賜りまして、誠にありがとうございます。これより園遊会を開催いたします————」


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