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大影帝国記【完結!】  作者: aberia
第三章 後宮編
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第十二話 淑妃との茶会

第十二話 淑妃との茶会



 大影帝国には、「北漢南姫(ほっかんなんき)」という言葉がある。



 簡単に言うと、北には美男、南には美女が多いという意味である。


 

 北の地がそう言われる土地柄なのは、やはり艶福家であったという先の玄当主にあやかったものだろう。

 彼は稀代の美男としても名高い御人であった。



 事実、季翠が今まで出会った北の男性も美男が多かった。

 眉目秀麗な葵戰毅を筆頭に、玄叔黎、性格はともかく葵戰華も顔は良かった。



 一方南の地がそう言われるのは、帝国最大規模の花街を有しているからに他ならない。

 昨今では、帝国の宝玉である第一皇女を育んだ地という意味合いも含むようである。





 しかし、「南姫」という言葉には別の意味もあった。

 美しい姫という意味も持つが、それと同時に、”悪女”という意味である————。



*

 妃たちが入内してきて早数日。

 季翠は、まるで西に居た時のように碧麗と紅蕣と共に茶卓を囲んでいた。



 場所は碧麗の宮だ。

 季翠が前回訪ねた時はやはり人払いがされていたようで、今は多くの侍女が傍に控えていた。



 今日は紅蕣が入宮後改めて挨拶に来るとのことで、姉と時間を合わせて三人で茶会をすることになったのだ。

 季翠にとっては楽しい茶会だが、名目上は淑妃が皇女に挨拶に来るという一大事のため、学塾は休んでいる。


 

 後宮は男子禁制となったため、四狛は側にいない。

 季翠の居所は変わらず後宮内だが、四狛は早々に外廷に作られた武官用宿舎に移っていた。


 

 立場が変われど、気心知れた者同士だ。

 淑妃となった紅蕣は、まだ従者としての態度が抜けきらず、周囲をくすりと笑わせた。



 そういえばと、紅蕣——もとい、雀淑妃が優雅に茶器を置いて、季翠に問いかける。

 可愛らしい人だとは思っていたが、随分と雰囲気が変わった。

 

 

 しかし季翠は、紅蕣がどこか知らない女性になってしまったようで、ほんの少しだけ緊張を感じていた。


 

「賢妃は翠姫様の御推薦で入宮されたと耳にはさみましたが」

「……そう、なのでしょうか?」

 季翠は首を傾げる。

 いまいち仕組みがよく分かっていない。



 確かに、思黎に鶯俊の妃になればいいとは言ったが。

 正直、本当に入内してくるとは思っていなかった。



 何となくこの話題は、罰が悪い。

 というのも、季翠は現在進行でその話題の人物——玄賢妃からの文を放置していた。



 いや、厳密には放置してはいない。

 ただ、書いてある要望に応えていないというか、何というか。



 ちらりと、紅蕣を見返す。

 季翠が思黎の希望に応えない理由には、紅蕣への遠慮も多分に含まれていた。



 彼女は察しが良かった。

 季翠の態度から大方のことを把握したのだろう。

「私に気を遣っていらっしゃるのなら、そのような配慮は無用です」

 


 紅蕣と思黎は、鶯俊の寵愛を競い合う者同士だ。

 

 

 季翠は、昔から親しくしており、尚且つ姉の乳姉妹でもある紅蕣の敵と勘違いされるような行いを、極力したくないのだ。

 ただでさえ、預かり知らぬところで妃に推薦したなどと言われているのなら、尚更。



「翠姫様は昔からそれほど筆まめではありませんし、きっと賢妃からのお手紙にも、“その内”などと曖昧なことを書いて、そのままにしていらっしゃるのでしょう」

 


 驚くほど図星である。

というか、なぜ文が来ていることまで分かるのか。



「自分が会いたい相手が自分の誘いには乗らないのに、簡単に他の妃と会っていたら、賢妃にとっては面白くないでしょう」

 姉が同席していて、季翠にとっては碧麗に会うことが目的の半分だとしても。



「……その言い方ではまるで、私が兄上の立場のようではないですか」

「あら本当ね」

 碧麗がころころと笑う。



「姉上、笑い事ではありません」

 紅蕣の、と言うより他の妃の前で話すのもどうかと思ったが、季翠は口を開く。



「……ですが実際、兄上は賢妃の元にまだ会いに行っておられないと聞きます。にもかかわらず、私が頻繁に賢妃の元を訪ねるというのも、いかがなものかと」



 碧麗がそういえば、と話す。

「玄賢妃といえば、私のところにも近日中に御挨拶に伺いたいと文が来ていたわね。清徳妃からも」

 唯一、貴妃からは何も来ていないらしい。



 紅蕣が不快そうに眉を寄せる。

 碧麗を軽んじる貴妃の態度が、気に障ったようだった。


 

「……賢妃は、賢い御方です」



 北の一件があったからだろうか。

 季翠は、思黎の行動に含まれるのが純粋な好意だと、信じ切れないでいる。

 もちろん、彼女にも彼女の立場や生い立ちがあり、考えがあるとは分かっているが。



「私に……というより、姉上や淑妃である紅蕣と繋がりを持っておきたいのでしょう」

 後宮の中での人脈作りといったところだろう。



「そうでしょうか」

「私には、賢妃は私や姫様にではなく、翠姫様に会いに来ているように見えましたが」

 微笑みかける紅蕣に、季翠は何も返せず黙り込む。



「…………怒っている、でしょうか」



 季翠とて、思黎に悪いと思っている。



 しょげかえる季翠を、元気づけるように碧麗が優しい声で提案する。

「筆をとってはどうかしら」

「一言、何日の何時に宮をお訪ねしたいが都合はどうか、と」



「……了承されたらどうするのですか」

「翠姫様、断られる前提で話をするのはやめましょう」

 そんなことを言われても。



「ここは白虎城ではありません」

 紅蕣は子どもに言い聞かせるように言う。



「この国で四人目に尊い御方である翠姫様の御誘いを断る者など、よほどの者でない限りこの皇宮には居りません」

 少なくとも後宮にはいない。

 皇女の誘いを断るなど、それこそ伯虎雄ほどの高官ぐらいだろう。



「……文、書いてみます」

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