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大影帝国記【完結!】  作者: aberia
第三章 後宮編
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第九話 消えた赤子

第九話 消えた赤子



「おい、それ重いだろ。落とされたら困るから、僕が持つ」

「あ、ありがとう……」



 正直剣や槍を持ち慣れている季翠にしてみれば、なんて事はない重さだった。

 しかしここで断っても、険悪な雰囲気になるだけだろう。

それぐらいは分かるぐらいに、季翠は俊煕と共に過ごしてきていた。



 季翠たちが今居るのは、府庫。

 帝国中の書物が集められた、蔵書の倉庫である。



 季翠と俊煕は、張副宰相の計らいで府庫への立ち入りを許可され、蔵書の閲覧の代わりにここの管理者の手伝いをしているところであった。

 府庫は皇宮の片隅も片隅で、滅多に人も来ない場所のため、季翠は前のような布は被らなくて済んだ。

 ちなみに今回は、四狛が外で送り迎えと言う名目で付いて来ている。



 粗方作業の終わりの目途が見えてくると、一人の官吏が府庫の奥から姿を現した。

「ありがとう二人共」



黄允(こういん)様」

「暑くて疲れただろう。お茶にしようか」

 この官吏は黄允という老官で、府庫の主である。

 


 張副宰相と同じくらいの年齢で、彼以上におっとりとした、まさしく書物の守り人と言った感じの人である。



「私は出世争いに敗れてね。元々そういうものが得意ではなかったから、丁度良かったと言えば丁度良かったのだけれど」

 そう言いながらお茶を淹れる様は手慣れていた。



 府庫の管理者は、閑職である。

 黄允は元々、張副宰相と同期なのだと言う。



「今となっては、あの方と共に新人官吏として働いていたなんて、遥か昔のことだけれどね。今でも、偶に府庫に来てくれる」



 府庫は周辺も木々で覆われていて、緑豊かな場所だ。

この場所に来れば、国政で疲れた心も癒されるのかもしれない。 



「さあ、若い時間は短くて貴重だ。もう手伝いはいいから、この後は二人の興味のあることを調べる時間にしなさい」

 


 ここは府庫だ。

帝国のほぼすべての書物はここにある。

 黄允は誇らし気に、府庫内を指し示した。



 どうしたものか。

 張副宰相の勧めで来たものの、季翠は別にそこまで書物に興味があるわけではない。



 ちらりと、横で興奮した様子の相方を見る。

「……俊煕」



「何だよっ?」

 俊煕は季翠の呼びかけに応えるものの、さあ何から手をつけようと思考を巡らせているようで、心ここに有らずと言った風だった。



「…………私は別に、興味のあることも読みたい書物もない、から。……貴方が調べたいことがあるのなら、手伝う」

 自信がないから、最後は尻すぼみになる。

 張副宰相は、彼を理解するように努めよと、言った。



 先日皇宮に行った際、彼の人となりが伺える言葉を少し聞いた。

 先ほども言い方はともかく、重い書物を持ってくれた。

 俊煕は俊煕なりに、季翠に歩み寄ろうとしてくれているのかも、しれない。

 


「……仮にも張子学塾の生徒なら、自分で何かに興味ぐらい持てよな。これだから能天気なお貴族様は」

 とはいえ案の定素直に受け取らないのが、孫俊煕である。

彼は呆れたように季翠を見返した。



 やはり無理か。

かなりの勇気を持って言っただけに、結構くるものがあった。



 しかし少しの沈黙の後。

「………………ま、助かる」

「!」



 俯いていた顔を上げる季翠に、照れ隠しのように俊煕は調べものの説明を早口でする。

「劉宰相が宰相位についてからの、国事に関わる出来事を調べたい」

「宰相は就任してからこれまで、数々の政策を打ち出してきたけど、その政策の背景まで僕は知りたいんだ」



 劉宰相の在任期間はそこそこ長いため、役割分担することにした。

 黄允は作業を始める二人を、にこにこした顔で見守っていた。


 

「僕は就任以降から調べるから、お前は二十年くらい前からを頼む」

「分かった」



 二十年前。

というと、兄姉が丁度生まれた頃か。

 


 大きな国事のため、記録の一番最初に出てきた。

 ————同日、皇后陛下、”皇女双子”、御出産。

    


 これだ。  

 大好きな姉が産まれた時の記述と思うと、それだけで胸が温かくなる様な気がした。

きっと帝国中が喜びに沸いた日であっただろう。



 しかし、「同日」とある。

同じ日に、何か他にもあったのだろうか。



 すぐ上の記述に目を通す。

そこには、祝事とは正反対のことが書かれていた。

 ————某月某日、皇太弟妃殿下、産後間もなく死去。



 皇太弟妃。蒼旺の正室か。

 すでに故人とは聞いていたが、こんなに前に亡くなっていたのか。

 


 碧明は確か、鶯俊たちと同い年だったはずだ。

まさか出産も同時期とは思わなかったが、年齢からして彼を産んだ時だろう。

 


 そんなことをぼんやり考えながら、続きを読む。

しかし、読み進める内に妙な記述が出始める。



 ————皇后陛下、”皇子皇女双子”、御出産。

     前述の記述、誤りにより訂正。


 

「(……何だ、これは)」



 読み返すと、季翠が一番最初に読んだ記述は「皇女双子」となっていた。

確かにこれだと、”男女の双子”ではなく、”女子の双子”と言う意味になるだろう。

 


 皇后の出産ともなれば、国一番の大事だ。

 情報が錯綜したのだろうか。



 しかし、こんな間違いをするなど。 

 皇女が産まれたのと、皇子が産まれたのでは、重要度が天と地ほども違う。


 

 しかも、極めつけは。



 ————第一皇子の乳母の侍女一名、不祥事により処刑。

 ————皇后の出産を担当した某医官、失踪により罷免に処す。



 皇子皇女の誕生という、国にとって何よりも明るい慶事に相応しくない、何とも気味の悪い記述だった。



「おい、手伝ってくれるんじゃなかったのかよ」

「あ……ごめん……」

 一向に手が進まない季翠に気づいた俊煕が、彼女を咎める。



 てっきり文句を言ってくるかと思いきや、彼は季翠の手元を一緒に覗き込んでくる。

「何見てるんだ?」



「どうかしたかい?」

「黄允様」

「あの、この出来事なんですが……」



 季翠が記述を指し示して問うと、黄允は表情を悲し気に曇らせた。

「二十年前……ああ、張妃様のことだね」



「張貴妃?」

 俊煕が聞き返す。

 張貴妃とは、今度入内する張副宰相の孫娘のことだ。



「ああ、いや。私が言っている張妃というのは、次の張貴妃のことではないよ」

 


 張妃————正確には、張皇太弟妃。

 張副宰相の娘で、次の張貴妃にとっての伯母だ。

 皇帝と皇太弟の、従姉妹にあたる姫君。



「(そうか。張副宰相は、血縁的には私の大伯父になるのか)」



 張家は皇后を数多く輩出している。

 皇帝の母親——つまり季翠の祖母は、張副宰相の妹なのだ。



「二十年前、皇后陛下と皇太弟妃殿下が、丁度同じ頃に御出産されてね。皇后陛下は無事に御産を済まされたんだけど、張副宰相の姫君は、そのまま亡くなられてしまったんだ」



 元々体がそれほど丈夫な姫ではなく、加えて高齢出産だったのだと言う。

彼女は、当時すでに三十路を越えていたのだとか。


 

「この、侍女の処刑とか医官の失踪っていうのは、何なのですか?」

 俊煕が季翠と同じ疑問を問う。



「そこまでは。……こう言っては何だが、御命を守るべき皇族を救えなかったということだからね。責任を取らされたのかもしれない」



 しかしそれよりも気になるのは。

「(どうして、皇太弟妃が産んだ子についての記述が、ないんだろう……)」

 皇太弟妃が死んだと書かれた箇所の前を見たが、どこにも産まれた子についての記述がなかった。



 一言ぐらい書いてあっていいはずだ。

 現に、碧明が産まれているのだから。



 死んだ皇太弟妃。

 処刑された侍女。

 失踪した医官。

 そして、詳細が分からぬ皇太弟の子。



 これらは一体、何を示しているのだろうか。

 

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!


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