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大影帝国記【完結!】  作者: aberia
第三章 後宮編
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第八話 荒れる会議

第八話 荒れる会議



「では、各々が考える妃候補者を挙げていただこう」

 劉宰相の言葉で、皇子妃争奪戦の幕が切って降ろされた。



「雀家は我が孫娘を」

「張家は私の孫娘を推薦いたします」

 最初に口を開いたのは、将軍の中では最年長の雀紅松と、張副宰相であった。

他は一先ず様子見をするらしい。



「妃など決まっているも同然だろう」



「伯虎雄、」

 口を慎めと劉宰相は目線で語るが、虎雄は意にも介さなかった。



「身分的にも血筋的にも、張副宰相の孫娘一択だ」

 わざわざ一度入内したのを里下がりまでさせて、陛下から鞍替えしたんだからな。



 伯虎雄の嫌味に対して、張副宰相は微笑みを崩さない。



「……清家は私の三の姫を」

 気まずい空気の中、清将軍がさり気なく発言する。



 劉宰相が咳払いを挟む。

「……ではまずは、将軍方の御意見を伺おう」

「伯大将軍は、張副宰相の御孫女(ごそんじょ)で異論ないな?」



「ああ」

「葵将軍は如何か」

 宰相は武官側の末席に目を遣る。



 宰相に振られ、それまで目を閉じて黙っていた葵戰毅が口を開く。

「…………葵家は、」

「玄家十一の姫の入内を、奏上いたします」



 瞬間、殿内が微かに騒めく。

「玄家?」

 思わぬ返答に、宰相が聞き返した。



「葵将軍には確か御息女がいらっしゃったはず」

「何故玄家の姫を?」



「きっ、葵将軍!」

 清将軍が、なぜか慌てたように言い募る。

「貴殿は陛下より、御息女の入内を命じられておられたはず!それを……」



 しかし清将軍の言葉が続く前に、玲瓏な声が辺りを支配する。

「別に命じてはいない」



「へっ陛下‼」

 皆がばっと御簾の向こうに注目する。



 影が頬杖をつく。

「私は命じてはいない、提案しただけだ。そうだな?戰毅」

「左様でございます」



 恭しく御簾に拝礼する。

「我が家には身に余る光栄ですが、元々私は敗戦国の者。その私の娘が、栄誉ある位を戴くのは差し障りが出ましょう。ひいては、陛下の御代の安寧を脅かすやもしれません」

 実に模範的な断り方だった。



「葵姫は体に不自由もあると聞いた。慣れぬ地で過ごすのも心細かろう」

「話に入って悪かったな。……私が居ては気が散る者もいよう、終わるまで席を外そうか」



「皆は議論を続けてくれ」

 皇帝はそう言うと、護衛を連れて御簾の奥に姿を消した。



「し、しかし……」

 清将軍はそれでも反論しようとするが、不意に、ずっと沈黙を守っていた人物が口を開いた。



「葵家は、すでに皇家と縁戚になっている」

 皇帝の弟・蒼旺(そうおう)皇太弟であった。



 緑が強い浅葱色の衣を纏った、葵戰毅と同年代の男。

 皇帝とは少し年齢差がある兄弟である。

 しかし、濃い隈のせいか疲れた雰囲気のせいか、年齢よりずっと年老いて見えた。



「つい先日我が末姫と、葵公子との縁談が成立した。そうであったな、葵将軍」

「ええ」

 季翠が命じられた、葵戰華(きせんか)蒼鈴(そうりん)の縁談のことだ。 


 

 蒼旺は淡々と続けた。

「北からこれ以上、姫を迎える必要はない」

「玄殿ももう死んだのだ。玄家に配慮する必要もあるまい」



 殿内に沈黙が落ちる。 

「しかし、何故葵将軍は玄の姫君を?何か理由が御有りかな?」

 空気を変えるように、張副宰相がにこやかに尋ねる。



「……玄の姫は、皇女殿下より推薦を戴いたと伺ったものですから」

「皇女殿下?」

 伯虎雄が、人知れず舌を打った。



「話が逸れたな」

 劉宰相がここまでの話を纏め、仕切り直す。



「では候補者は、」

「雀将軍の御孫女」

「張副宰相の御孫女」

「清将軍の三の姫」

「玄家の十一の姫」

「————ということでよろしいか」



 この中から、最終的に一人に絞らなければならないのだが……。



「雀家が野心家というのは本当らしい」

 攻撃の火蓋を切ったのは、やはり伯虎雄であった。



「遊女に産ませた娘を、仮にも皇子妃にしようとするだけはある」

「何だと……」

 紅松の額に青筋が浮かぶ。

この老将に、孫娘の出生は禁句であった。



「……嫁の来手がなく、娘どころか子も居らぬ愚か者が偉そうにほざきおって」

「何だと」

 伯虎雄が御座に片足を立て、身を乗り出す。



「爺……棺桶にもう一方の足も突っ込みたいなら、手伝ってやらんこともないぞ」

「やめんか二人共‼」

 今にも抜刀しそうな二人に、すかさず劉宰相の叱責が落ちる。



 一方、一触即発の状態が起こっているのも何のその。

「それで言うと同じ独身の劉宰相も、愚か者になってしまいますな」

「紅松殿は最近上昇志向がやや顕著ですな。やはり奥方を早くに亡くされて、他に縋るものがないからでしょうかな」

 


 ねえ、と同意を他の二人の将に求める張副宰相。

 無言の葵戰毅。

 可哀想な清将軍は反応に困っている。



 ————余談であるが。

 この場に居る首脳陣は一部を除き、全員お互いに仲の良い相手同士が一人もいない。



 雀紅松は大将軍の位を奪われたことから、伯虎雄を蛇蝎の如く嫌っている。

 伯虎雄は御覧の通りの傍若無人な男であり、葵戰毅は相変わらずの無口。

 清将軍に至っては、一応年長の雀紅松に気を遣っているが、基本的に存在感が薄い。



 ちなみに劉宰相と張副宰相は、親友である(←張副宰相の自称である)。



 喧騒の声が止んだところで、張副宰相が提案する。

「————ではこうしては如何かな」

「張家、雀家、清家、玄家より一人ずつ妃を迎える、というのは」


 

「四人全員を妃にだと?」

「不可能ではないはず」



 講義の声に、張副宰相は穏やかに解説し始める。

「元々、皇子妃を迎えるにあたり陛下のお妃たちは全員お里下がりいたした。今の後宮はもぬけの殻です」

 そこに新しい妃を、そっくりその穴を埋めるように配置すればいい。



 つまり譲位こそしないが、後宮自体は皇子の代にするということだ。



「それならば確かに……」

「しかし……」

「では、他に名案が御有りか?」

 優し気なのに有無を言わせない言葉だった。



 皆黙り込む。

 劉宰相が、溜息を吐いた。

 結論は決まった。



 しかし、まだ場違いなことを言う者が。

「も、もし欠員が出れば、葵家より妃を迎えるのは如何かっ!」

 清将軍である。

 入内もせぬ内から欠員とは。

 


「……やけに葵家に拘るな」

 伯虎雄がぼそりと呟く。



 劉宰相は一応葵戰毅に伺いを立てる。

「如何か、葵将軍」

「…………他に相応しい姫君がいないのであれば、致し方ありません」

 


 その言葉に対する清将軍のほっと安堵した声を最後に、会議は終了した。

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