第七話 皇子妃選定の議
第七話 皇子妃選定の議
―—皇帝が帰還した慌ただしさと興奮が落ち着かない内に、 皇宮では。
官吏たちの囁き声があちこちで聞こえていた。
「会議にはどなたが出席を?」
「四将軍に劉宰相、張副宰相、そして皇太弟殿下が」
「烏竜将軍は如何した」
「近衛将軍は出席を自粛するようにと命じられたそうだ」
「何でも伯大将軍と皇太弟殿下より、御言葉が出たようで……」
「いやはや……どうなることやら」
彼らの注目の的である会議——皇子・鶯俊の妃を決める会議が、今まさに皇帝の御前で開かれようとしていた。
*
————御前会議会場・翠辰殿。
「久しぶりだな、戰毅」
「ええ、お久しぶりです」
此度の会議に際し、玄武将軍・葵戰毅も招集を受け帝都に入っていた。
彼に話しかけてきたのは左将軍・雀紅松である。
そして彼に従ってもう一人。
「これは……清将軍」
「先の玄当主のこと、御悔やみ申し上げる」
東を治める清家当主だ。
歳は丁度、雀紅松と伯虎雄の間くらいの年代。
紅松の対となる役職・右将軍を任されているが、他の面々に比べて随分と印象が薄い人物である。
挨拶を交わし合う三人の将軍に、乱暴な声が割って入る。
「はっ!別に、葵戰毅は玄家の人間じゃないだろ」
悔みを言う相手が違うと揶揄するのは、大将軍・伯虎雄である。
「盟友が鬼籍に入ったのだ。肉親と同じくらい、口惜しかろう」
「盟友ね。それを言うなら……」
無言で御簾の向こうに目を向ける虎雄に、清将軍は口を噤んだ。
「静粛に」
空気を割るような、厳しい声がその場に吐かれる。
声の主は皇帝の座す御簾のすぐ傍に控える、百戦錬磨の威風を醸し出す一人の文官である。
老官は、劉宰相。
平民ながら文武百官の長に登り詰めた、稀代の名宰相と名高い人物である。
武官上がりなだけあってその眼光は歴戦の将が如く鋭く、口元に残る傷がその雰囲気に更に威圧感を与えていた。
厳しい目で面々を見渡す宰相と周囲の間を取り持つように、張副宰相が殊更ゆったりとした口調で開会を宣言した。
「皆様、揃われたようですな。それではこれより、皇子妃選定の議を開催いたします」
それぞれの思惑を抱えながら、今、会議が開かれた。
*
「今頃は皇子妃の会議中か」
「大人しく欠席を受け入れて良かったのか」
伯飛は書簡を整理していた手を止め、振り返った。
「————烏竜」
その問いかけに対し、呼びかけられた当の本人は呑気に湯呑を啜っていた。
その姿も随分と見慣れたものだ。
「その薬湯」
「ここ数年飲んでるが、効果あるのか?」
「さあ……」
さあって。
感心がなさそうな答えに、思わず半目になる。
「もう少し自分の体のことを真剣に考えてくれよ。廉が持ってきたやつだから、信用はできるだろうが」
廉というのは、伯飛と同じ近衛の武官で、烏竜の側近の一人だ。
伯飛は、卓についている烏竜の前に両腕をつく。
「母上とお前がいなくなったらと、俺は今から冷や冷やしているんだからな」
「あの伯大将軍と二人なんて、考えるだけでぞっとする」
伯飛は誠に遺憾ながら、あの伯虎雄の従姉妹の息子である。
伯家にしては、かなり近い親戚なのだ。
「貴方ならうまくやれるでしょう」
よく言う。
「あの人はな、まだ餓鬼だった俺に親父の葬式の時に、”良かったな、これで家督を早く継げるな”、なんて言ってきた人だぞ!」
自分の家の当主じゃなきゃまず付き合いたくないと、伯飛は苦虫を嚙み潰したような顔をした。
「あの人とまともな人付き合いができる人間がいるとすれば、それこそ聖人君子のような奴だろうよ」
それに、と伯飛は続けた。
「お前に何かあれば、”あの方”だって心配する」
「……」
伯飛の言葉に、烏竜はしばらく黙り込む。
「……頼りにしていますよ。飛」
「はいはい。仰せのままに、我が殿」
はぐらかされた言葉に肩を竦める。
とはいえ今の重要事項は会議だ。
本当に何も手を打たなくていいのか。
再度様子を伺うが、主は先ほどと変わりない。
「……俺たちは”小父貴”のごり押しに期待するしかないわけ、か」




