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大影帝国記【完結!】  作者: aberia
第三章 後宮編
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第七話 皇子妃選定の議

第七話 皇子妃選定の議



 ―—皇帝が帰還した慌ただしさと興奮が落ち着かない内に、 皇宮では。

 官吏たちの囁き声があちこちで聞こえていた。



「会議にはどなたが出席を?」

「四将軍に劉宰相、張副宰相、そして皇太弟殿下が」



「烏竜将軍は如何した」

「近衛将軍は出席を自粛するようにと命じられたそうだ」

「何でも伯大将軍と皇太弟殿下より、御言葉が出たようで……」



「いやはや……どうなることやら」



 彼らの注目の的である会議——皇子・鶯俊の妃を決める会議が、今まさに皇帝の御前で開かれようとしていた。



 ————御前会議会場・翠辰殿(すいしんでん)



「久しぶりだな、戰毅」

「ええ、お久しぶりです」

 此度の会議に際し、玄武将軍・葵戰毅(きせんき)も招集を受け帝都に入っていた。



 彼に話しかけてきたのは左将軍・雀紅松(じゃくこうしょう)である。

 そして彼に従ってもう一人。



「これは……(せい)将軍」

「先の玄当主のこと、御悔やみ申し上げる」



 東を治める清家当主だ。

歳は丁度、雀紅松と伯虎雄の間くらいの年代。 

 紅松の対となる役職・右将軍を任されているが、他の面々に比べて随分と印象が薄い人物である。



 挨拶を交わし合う三人の将軍に、乱暴な声が割って入る。 

「はっ!別に、葵戰毅は玄家の人間じゃないだろ」

 悔みを言う相手が違うと揶揄するのは、大将軍・伯虎雄である。



「盟友が鬼籍に入ったのだ。肉親と同じくらい、口惜しかろう」

「盟友ね。それを言うなら……」

 無言で御簾の向こうに目を向ける虎雄に、清将軍は口を噤んだ。



「静粛に」

 空気を割るような、厳しい声がその場に吐かれる。

 声の主は皇帝の座す御簾のすぐ傍に控える、百戦錬磨の威風を醸し出す一人の文官である。



 老官は、(りゅう)宰相。

 平民ながら文武百官の長に登り詰めた、稀代の名宰相と名高い人物である。

武官上がりなだけあってその眼光は歴戦の将が如く鋭く、口元に残る傷がその雰囲気に更に威圧感を与えていた。



 厳しい目で面々を見渡す宰相と周囲の間を取り持つように、張副宰相が殊更ゆったりとした口調で開会を宣言した。

「皆様、揃われたようですな。それではこれより、皇子妃選定の議を開催いたします」



 それぞれの思惑を抱えながら、今、会議が開かれた。



「今頃は皇子妃の会議中か」

「大人しく欠席を受け入れて良かったのか」

 伯飛(はくひ)は書簡を整理していた手を止め、振り返った。



「————烏竜」 

 その問いかけに対し、呼びかけられた当の本人は呑気に湯呑を啜っていた。

その姿も随分と見慣れたものだ。



「その薬湯」

「ここ数年飲んでるが、効果あるのか?」

「さあ……」

 さあって。

感心がなさそうな答えに、思わず半目になる。



「もう少し自分の体のことを真剣に考えてくれよ。(れん)が持ってきたやつだから、信用はできるだろうが」

 廉というのは、伯飛と同じ近衛の武官で、烏竜の側近の一人だ。


 

 伯飛は、卓についている烏竜の前に両腕をつく。

「母上とお前がいなくなったらと、俺は今から冷や冷やしているんだからな」 

「あの伯大将軍と二人なんて、考えるだけでぞっとする」



 伯飛は誠に遺憾ながら、あの伯虎雄の従姉妹の息子である。

伯家にしては、かなり近い親戚なのだ。



「貴方ならうまくやれるでしょう」


 

 よく言う。

「あの人はな、まだ餓鬼だった俺に親父の葬式の時に、”良かったな、これで家督を早く継げるな”、なんて言ってきた人だぞ!」

 自分の家の当主じゃなきゃまず付き合いたくないと、伯飛は苦虫を嚙み潰したような顔をした。



「あの人とまともな人付き合いができる人間がいるとすれば、それこそ聖人君子のような奴だろうよ」

 それに、と伯飛は続けた。



「お前に何かあれば、”あの方”だって心配する」

「……」

 伯飛の言葉に、烏竜はしばらく黙り込む。



「……頼りにしていますよ。飛」

「はいはい。仰せのままに、我が殿」

 はぐらかされた言葉に肩を竦める。



 とはいえ今の重要事項は会議だ。

 本当に何も手を打たなくていいのか。



 再度様子を伺うが、主は先ほどと変わりない。

「……俺たちは”小父貴(おじき)”のごり押しに期待するしかないわけ、か」

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