第五話 新たなる生活
第五話 新たなる生活
「————ではここの解釈を、孫俊煕」
「聖人は人を憎まず罪を憎めと説く。しかし、実世界では罪によって人を罰す。それは聖人の説くものが理想論だからではなく、俗人の世に落とすには何らかの障害もしくは落差があることに起因する。それを究明し解決することこそが必要だ。――――と言う意味です」
おお……と生徒たちから感嘆の声が上がる。
教壇に立つ老師も、満足そうに彼の豊かな顎髭を撫でた。
「よく理解できているようだ。では次の部分をき……ではなく、」
明らかに避けられた。
並んで卓につく俊煕が、横目で軽蔑したように見てくる。
季翠は、人知れず溜息を吐いた。
張子学塾に入学して、早一週間。
一通り基本の授業を一周したが、問題が発生した。
老師たちが、明らかに季翠を避けているのだ。
それは先ほどのように、授業中の指名を避けることからはじまり、一人だけ課題を課さないなどに至るまで。
辛うじて出席は拒否されていないものの、明らかな特別扱いを受けていた。
おかげで見事に周囲から腫れ物扱いを受けている。
居心地が悪いことこの上なかった。
教えを乞う授業なのに、謎に息が詰まるような心地を毎回感じなければいけないのは、なんなのか。
本日最後の授業だったため、そそくさと帰り支度をしていると久方ぶりに名を呼ばれる。
……偽名だが。
「孫俊煕、季姫」
「二人共、この後張老師の元に行くように」
というわけで俊煕と二人、向かっているわけだが。
「お貴族様は授業でも特別扱いを受けるのが当然なんだな」
「……」
あの中の生徒にも、数は少ないが貴族はいるはずだ。
それに季翠だって別に、好きであんな扱いを受けているわけではない。
何も知らないくせに……。
険悪な空気をお互いに纏ったまま、張老師に対面することとなった。
*
「こ、皇宮に……?」
張老師こと張副宰相の思わぬ提案に、季翠は思わず聞き返した。
用件はこうだった。
明日、皇宮に参内する張副宰相の付き人として共に行かないかと。
何でも、しばらく留守にしていた皇帝が、とうとう明日帰還するのだという。
「いずれ国政に携わりたいと思っているのなら、陛下の御姿を遠目からでも拝見するのは良い機会であろう」
「ぜひ!」
「しかし!」
まったく正反対の声が二人から上がる。
俊煕はばっと横を向くと、季翠に喰ってかかる。
「せっかく先生が機会を与えてくださるというのに、断るなんてどういうつもりだよっ!」
「だ、だって……」
ここでは身分を隠せているが、皇宮に行けばそうはいかない。
一体張副宰相は何を考えているのか。
不信感を募らせる季翠を安心させるように、張副宰相は微笑んだ。
「季姫、安心なさい。この老官にすべて任せておくと良い」
「はあ……」




