第六話 皇宮
第六話 皇宮
雀 紅松に連れられ、季翠と四狛の二人は皇宮内をどんどん内部に進んでいた。
門から遠ざかり、皇宮内に進むに連れて官服、もしくは鎧、または宮女の服を着た人間が増えてくる。
皆、三人に気づくと手や足を止め拱手するが、次第に気になることができてきた。
「――あの、将軍……」
思わず紅松に声をかける季翠の言いたいことを、一足先に四狛が口に出す。
「……すんごい見られてますね」
そうなのだ。
先ほどからこちらに拱手して頭を下げる人物たち全員、季翠たちが前を通り過ぎた後必ずと言っていいほど一行を凝視してくるのだ。
自意識過剰でなければ、季翠の顔を見て。
「申し訳ありませぬ。皆、姫様のご尊顔を拝見して驚いているのでしょう」
紅松も困ったように眉を下げる。
「先ほどの衛兵は所詮外門の門兵。陛下のご尊顔を知らないのです。ですが皇宮内の、特に国政を行う外廷で働いている者は多少なりとも陛下のご尊顔を見知っておりますから、姫様があまりに陛下に似ておられるのでつい見てしまうようです」
「煩わしければ一喝いたしますが……」
「別に構いません。ですが、そんなに私は陛下に似ているのですか……?」
季翠は親子と言っても、実の父親である皇帝と会ったことがない。
似ていると言われても、ピンとこなかった。
そんな季翠に、紅松は一瞬だけ複雑そうな顔をしたが、すぐに優しく微笑んで頷く。
「そうですな。やはり男女の違いはありますが、この老体の目から見ても、姫様はお父上様によく似ておられますよ」
「そうですか……」
何となく黙り込む二人に、四狛が軽口を挟む。
「へえ。俺はずっと西にいて、陛下のご尊顔を存じ上げないので気づきませんでしたよ」
四狛の軽口に、季翠もからかい交じりに返す。
「四狛殿は最初がっかりされていましたもんね」
「ちょ、姫様気づいてたんですか⁉(汗」
「顔に書いてありました。姉上のような絶世の美女ではなくて申し訳ありません」
「そんなこと言ってないでしょ‼もちろん、姫様もお可愛らしいと思いましたよ!(汗」
季翠は絶世の美女、というほどではないが、端正な顔立ちの綺麗な少女だ。
少し中性的な顔立ちでやや少年にも見えなくもないが、目元が優し気で冷たい印象を受けることがない。柔和で穏やかな顔立ちをしている。
派手さや華やかさはないが、十分美形と言えるだろう。
「お世辞は結構ですよ」
「姫様ぁ…!!」
二人の応酬に紅松は一瞬目を丸くした。しかし、嬉しそうに破顔すると、
「はっはっは。……姫様、少しお変わりになられたましたかな」
「そう、でしょうか……」
「ええ。……良いことです」
独り言のように最後そう呟いた紅松は、そこで足を止め、二人を振り返った。
「ここが外廷から内廷に入る扉でございます。ここから後宮へと入ります」
三人は絢爛豪華な扉の前に立っていた。