第四話 四狛参上
第四話 四狛参上
「あそこが教堂、あそこが厠。一応女子用もある」
歩きながら指さしつつ説明する孫俊煕の後ろを、季翠は小走りでついていく。
「授業は辰の刻(午前八時)から申の半刻(午後五時)まで。余程のことがない限り、教舎からの途中退場は禁止されている。何か雑用があれば、あそこにいる茶色の衣の者たちに頼めばいい」
俊煕が指した方を季翠も見る。
一人、見覚えのある男がいるような気が……。
なんか、手振ってないか。
「次は」
ちょっと待て。
やっぱり見過ごせない。
そのまま先に進もうとする俊煕から離れ、季翠はその茶色の集団の所にすっ飛んで行った。
「な、何してるんですかっ⁉」
一人の青年の腕を掴み、回廊の隅に引っ張る。
後ろで俊煕や他の者が怪訝そうな顔をしているが、今は置いておく。
「四狛殿‼」
「いやー、さっきぶりですね!季姫様!」
わざとらしく偽名で呼ぶな。
皇宮から学塾前まで送ってもらい、そこで別れたはずの護衛武官がなぜかそこにいた。
「張副宰相が、張家の護衛を配備するとは言ってくださったんですけどね。ほら俺、一応姫様直属の護衛武官じゃないですか」
「と言うわけで、張子学塾の用心棒兼雑用係として、雇ってもらったわけです」
そう話す四狛の装いは、確かに常の武官姿とは異なる、周囲と揃いの茶色装束だった。
用心棒も兼ねているからか、一人だけ簡易な鎧のみは着けているようだが。
「だからって」
「おい。さっきから何をしているんだよ」
堪忍袋の緒が切れたのか、俊煕が季翠の肩を掴む。
時間を取られて不快そうだ。
どうする。
何て誤魔化す。
「し、親戚が居たもので!」
「そうそう。偶然だな~、大きくなっててお兄ちゃんびっくりしたわー」
馴れ馴れしく頭を撫でてくる手をぴしゃりと払い落す。
「親戚?」
俊煕が胡乱気な顔を四狛に向ける。
彼はしばらく黙ったのち。
「確か伯家の遠縁の出とかだったか。あの家なら、平民紛いの家に娘を嫁に出してもおかしくないだろうな」
……これは季翠と四狛をまとめて馬鹿にしているのだろうか。
確かに四狛の今の姿を見ると、明らかに平民に見える。
一応季翠は下級貴族の娘ということになっているが、平民の親戚がいる貧乏貴族と思われたのかもしれない。
「(……張副宰相はああ仰ったけど)」
確かに人を知るのも悪くはないと思ったけれど。
孫俊煕。
彼を理解し、尚且つ仲良くなる未来は、今の季翠には遥か遠くに思えた。
呑気に手を振って見送ってくる四狛を背に、季翠は引き続き俊煕に従って説明を受けた。




