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大影帝国記【完結!】  作者: aberia
第三章 後宮編
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第二話 張子学塾

第二話 張子学塾


 中央の名門・張家。

 皇家の縁戚であり、歴代の高官及び皇后を多数輩出してきた由緒ある名門。

東西南北を治める家々と合わせて、帝国の「五大貴族」と言われることもある。



 季翠が相対している目の前の建物は、その張家の現当主が設立した教育機関である。


 

 ―—「張子学塾(ちょうしがくじゅく)」。

 現当主にして、帝国の高官も務める張副宰相は人格者と名高く、身分・年齢問わず学びの門戸を開いた。

 


 彼のつくったこの張子学塾は、貴族よりも平民がその生徒の大多数を占めるが、学力は他の貴族の教育機関にも引けを取らないどころか、上だと言う。

 また、彼は特待生制度を設け、優秀な生徒には金銭的な援助も惜しまなかった。



 入ろうか入るまいか、謎に門前でうろちょろする。

その間にも汗は着実に吹き出ていた。



 ふいにギイィと、木が軋む音がした。



 石畳の溝の数を数えていた目を向ける。

顔を上げた拍子に、汗が顎を伝って地面に落ちた。



 門から顔を出したのは、季翠と同じ年頃の少年だった。



 秀でた額に、利発そうな目。

 色が白く細身だが、自信に溢れた立ち姿でひ弱な感じはまったくしなかった。



「————中暑(ちゅうしょ)で死にたいのか?」



 偉そうに腕組みをしながら、少年は心底呆れたと言った風に季翠を見下ろした。

と言っても顎をつんと上に向けただけで、たいして二人の背丈は変わらない。

 むしろ、季翠の方が若干高いかもしれない。



「……”季姫きき”と申します。張副宰相に御目通り願えますか」

 入学にあたり、季翠は「季姫」という偽名を名乗るように指示された。

 身分は、伯家の遠縁の遠縁の遠縁の娘。

伯家は傍流が多いため、そこらへんが曖昧でもばれないらしい。



 少年は胡散臭そうな顔を隠さない。



「御約束しているはずです。こ、後見人から文も預かっています」

 鶯俊から名前だけ言えば良いと言われたのに。

 とはいえ、いきなりどこの馬の骨とも分からぬ小娘が目通りを願っても、門前払いされるのが普通かもしれない。

 

 

 季翠は証拠を見せようと、懐から鶯俊からの文を出そうとする。

 しかしその前に、少年の大きな溜息がその場に響く。

「聞いてる。まさかこんな子どもが来ると思ってなかったんだよ」



 何だこの糞餓鬼。



 兄に指摘されてからと言うもの、季翠の心の声は更に自由奔放になった。

これが、性格が悪くなったということだろうか。



「(いけないいけない)」

 そうだ。

 姉上を思い浮かべよう。

 私の女神……。



「来るならさっさと来い。僕の貴重な時間を無駄遣いさせるな」

 先生からの頼みじゃなきゃ、誰がこんなこと……。


 

 ぶつぶつと文句を言う少年は、不機嫌全開だ。

 


 この少年が案内役なのか。

「(……やっぱり行きたくない)」



 元々気乗りしていなかったのだ。

いくら学びや人を知る良い機会だとは言われたが、姉と離れ離れになるし。



 しかし現実は無情で、早くしろっという少年の声が、季翠を急かした。

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