第二話 張子学塾
第二話 張子学塾
中央の名門・張家。
皇家の縁戚であり、歴代の高官及び皇后を多数輩出してきた由緒ある名門。
東西南北を治める家々と合わせて、帝国の「五大貴族」と言われることもある。
季翠が相対している目の前の建物は、その張家の現当主が設立した教育機関である。
―—「張子学塾」。
現当主にして、帝国の高官も務める張副宰相は人格者と名高く、身分・年齢問わず学びの門戸を開いた。
彼のつくったこの張子学塾は、貴族よりも平民がその生徒の大多数を占めるが、学力は他の貴族の教育機関にも引けを取らないどころか、上だと言う。
また、彼は特待生制度を設け、優秀な生徒には金銭的な援助も惜しまなかった。
*
入ろうか入るまいか、謎に門前でうろちょろする。
その間にも汗は着実に吹き出ていた。
ふいにギイィと、木が軋む音がした。
石畳の溝の数を数えていた目を向ける。
顔を上げた拍子に、汗が顎を伝って地面に落ちた。
門から顔を出したのは、季翠と同じ年頃の少年だった。
秀でた額に、利発そうな目。
色が白く細身だが、自信に溢れた立ち姿でひ弱な感じはまったくしなかった。
「————中暑で死にたいのか?」
偉そうに腕組みをしながら、少年は心底呆れたと言った風に季翠を見下ろした。
と言っても顎をつんと上に向けただけで、たいして二人の背丈は変わらない。
むしろ、季翠の方が若干高いかもしれない。
「……”季姫”と申します。張副宰相に御目通り願えますか」
入学にあたり、季翠は「季姫」という偽名を名乗るように指示された。
身分は、伯家の遠縁の遠縁の遠縁の娘。
伯家は傍流が多いため、そこらへんが曖昧でもばれないらしい。
少年は胡散臭そうな顔を隠さない。
「御約束しているはずです。こ、後見人から文も預かっています」
鶯俊から名前だけ言えば良いと言われたのに。
とはいえ、いきなりどこの馬の骨とも分からぬ小娘が目通りを願っても、門前払いされるのが普通かもしれない。
季翠は証拠を見せようと、懐から鶯俊からの文を出そうとする。
しかしその前に、少年の大きな溜息がその場に響く。
「聞いてる。まさかこんな子どもが来ると思ってなかったんだよ」
何だこの糞餓鬼。
兄に指摘されてからと言うもの、季翠の心の声は更に自由奔放になった。
これが、性格が悪くなったということだろうか。
「(いけないいけない)」
そうだ。
姉上を思い浮かべよう。
私の女神……。
「来るならさっさと来い。僕の貴重な時間を無駄遣いさせるな」
先生からの頼みじゃなきゃ、誰がこんなこと……。
ぶつぶつと文句を言う少年は、不機嫌全開だ。
この少年が案内役なのか。
「(……やっぱり行きたくない)」
元々気乗りしていなかったのだ。
いくら学びや人を知る良い機会だとは言われたが、姉と離れ離れになるし。
しかし現実は無情で、早くしろっという少年の声が、季翠を急かした。




