表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大影帝国記【完結!】  作者: aberia
第三章 後宮編
56/217

第一話 はじまりの夏

第一話 はじまりの夏


 夏。

 蝉があちこちで五月蠅いくらいに合唱している。



 上は、容赦のない日差しを地に注ぐ太陽。

 下は、その日差しを弾く白い石畳。

 そして目の前には、「張」の文字を掲げた巨大な門。



 季翠は、炎天下の中一人立ち尽くしていた。



「暑い……」



 ―———どうしてこうなった。



張子学塾(ちょうしがくじゅく)?」



 帝都に戻った季翠を出迎えてくれたのは、待ち望んでいた碧麗(へきれい)だった。 

実に三月ぶりの再会であった。

 


 碧麗は多くの侍女を連れていたが、いつも傍に控えている雀紅蕣(じゃくこうしゅん)の姿は、すでになかった。

紅蕣は、秋の皇子妃選定のためにすでに従者を辞し、生家である雀本家に戻っていた。

 


 飛ぶように姉に抱き着きに行こうとした季翠だが、無情にもその首根っこが掴まれる。

そして、あれよあれよという間に鶯俊(おうしゅん)の手によりそのまま皇子宮に連行された。

 


 ―———せっかく姉上の好物をお土産に買ってきたのに。

と言いつつ、買い求めたのは帝都でなのだが。

 一緒に桃を食べつつ、久方ぶりの姉を堪能する季翠の予定がぱあである。



 そして今。

何が何だか分からないまま無理矢理筆を持たされ、勉強させられている。



「どうだ碧明(へきめい)

「些か得意科目と不得意科目の出来の差が大きいですが。これならまあ、ついていけないことはないでしょう」

 張副宰相に、一筆書き添えておきます。

 


 満身創痍の季翠が卓に突っ伏している上。

 鶯俊と、三月前皇宮で会った覆面の男もとい蒼鈴(そうりん)の異母兄——碧明(へきめい)が何事か話し合っていた。


 

 一体何なのだ。

ここ三月以上まともに勉学などしてこなかったため、頭がついていかず、季翠の頭は沸騰寸前だった。



 ぽけっと二人を見上げていると。

「兄としての指示だ。翠、お前学校に通ってこい」



 はい?

「が、学校?」



「身分は隠して。服装も……名前も偽名を使った方がいいですね」

「伯家の遠縁の遠縁の、遠縁の娘ぐらいにしてもらうか」



 話についていけていない季翠を放置し、鶯俊たちはどんどん今後のことを話し合っている。



 それが昨日のことである。

 ————そして現在。



 生ぬるい風が、青葉を無情にも散らしていった。



 一方。

秋に向けて、各名家の家々では姫君たちの入内の準備が着々と進められていた。



 ―—中央・張家。


「なぜこのわたくしが……」

忌々しいこと……っ。

 

 嫋やかな手が持つ扇が、優美な姿とは対照的にみしりと音を立てた。



 ―—南・雀家。


「紅蕣」

「お義父様」


 紅蕣の元に義父——実際には叔父だが——が、御機嫌伺いに来た。

「我が家の一の姫の入内、心から嬉しく思う」

「お前こそ、皇后に相応しい娘だ」

 

 満足そうな叔父に、紅蕣は可愛らしい笑みを返した。

 


 ―—東・清家。


 三の姫は、侍女たちと楽しそうに持っていく衣や宝飾品を話し合っていた。


「姫様は皇子殿下の幼馴染でいらっしゃいますもの、きっとどの姫君よりも、大切にしてくださいますわ」

 姫君は可愛らしく口を尖らせた。

「御寵愛とかは別にいいわ。それより、他の家の姫君たちとお友達になれるかしら?」

「まあ姫様ったら」



 ―—北・玄家。


「体に気をつけるのですよ、思黎(しれい)

「お母様こそ、御身体を大事になさって」


 何度も何度も心配の言葉をかけてくる母を、思黎は今日も今日とて宥めていた。


「後宮は恐ろしい所と聞きます。貴女に何かあったら……」

「大丈夫よ」

 

 だって翠様がいらっしゃるんだから。

思黎は静かに、新たな生活へと期待を膨らませていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ