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大影帝国記【完結!】  作者: aberia
第二章 北の大地編 
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第三十七話 混沌

第三十七話 混沌


 ―———その後。

季翠が怪我をしていることに気づいた蒼鈴が悲鳴を上げ、あっという間に寝台に担ぎ込まれた。



 横になったらもう駄目だった。

いつの間にか意識を飛ばしており、結局丸一日眠り続けた。



 そして目を覚ました頃には、諸々の後始末の目途が立っていた。

元々兄の代理に近いかたちで来ていたのだ。



 鶯俊が到着した今季翠がすべきことはなく、周囲に望まれてもいないだろう。

鶯俊からも静養するようにとの使いが来た。



 とはいえ日がな一日寝るのは退屈だ。

心配して寝台に縛り付けてこようとする蒼鈴から何とか逃れ、季翠は体を動かしがてら城内の散歩に出た。

 


 手には玄伯黎から図らずも奪い取ることになった、偃月刀。

しげしげと眺める。

 

珍しい、黒い偃月刀だ。

柄は炭のような艶のある黒一色で、天翔ける龍の姿が繊細に彫られている。



 黒は玄家の色でもあるのでおかしくはないが、”龍”は皇家の紋章だ。それに……。

「目が翠だ」



目が翠色の黒龍は、皇帝の紋章だ。

皇帝、ひいては皇帝に許された皇太子のみが使用できるものだ。



 なぜ、こんな物を玄伯黎が持っていたのだろう。



 とはいえ、一応罪人とはいえ、供えてやっておいた方がいいのだろうか。

正直、あの凄惨な最期を思い出すため対面したくはないが。

恐らくまだ城門前で晒し首にされているはずだ。

 


 偃月刀を持ち主に返すため(もう死んでるけど)、季翠は城門に向かった。



 しかしそこには先客がいた。

玄武城主・葵戰毅と……。



「(誰だ……?)」



見慣れない紋様の衣に鎧、毛皮を身に纏った大男。

白髪。老人だろうか。

雀紅松(じゃくこうしょう)のような超老人が他にもいるのか。



「っ……‼」

ぞくりとした。



 男が、こちらを見ていた。

「その顔、昔見たことがあるぞ」

 


鋭い眼光が季翠を射抜いた。

ただでさえ威圧感ある屈強な人物からそんなことをされれば、堪ったものではなかった。

 


 反射的に身構えるが、その拍子に矢傷が痛んだ。



「その偃月刀も。……何とも懐かしい物を見た」

「皇帝の息子が来ていると聞いていたが、お主か」



 老爺は、鶯俊と季翠を間違えているようだった。

「……長、こちらは緑龍陛下の第二皇女殿下です」



長。

この男が。



見送りに来ていたのだろう、葵戰毅が間に入る。

戰毅の言葉に長は片眉を上げる。



「なんと、小僧かと思っていたが小娘だったか」 

それにしては。



「おなごにしては華のない」

余計なお世話だ。



「小娘、名は何と言う」

「………………季翠です」



「季翠……」

「————”四番目”の翠、か。何とも捻りのない名をつける」

 


 季は、「末の」以外にも「四番目」という意味も持つ。

 


 いろいろと勘違いをしているようだったが、それを指摘する勇気は季翠にはなかった。

話しかけられたのは、それで最後だった。



「ではな戰毅よ」

「ええ。御気をつけて」



 長はひらりと馬上に上がると、手綱を強く引く。

馬が嘶きを上げ、一団は蹄の音と砂埃を大きく巻き起こし走り去って行った。



「……その偃月刀」

いつの間にか、すぐ近くに葵戰毅がいた。



「御存知なのですか?」

伯黎から奪い取った物のため、何となく居心地が悪い。



「…………先の玄当主が、皇帝陛下より下賜された物と聞いています。陛下が、初陣の際に御使いになられた、由緒正しき物だと」

 


そんな代物なのか。

慌てて返そうとする季翠を、戰毅は片手でとどめた。



「貴女が御持ちになると良い」

「これも何かの導きかもしれません」

「はあ……」




「(……結局持ち帰ってきてしまった)」

いいって言われたけど、本当にいいのか。

 


まあ剣なくしたし。

それより早く戻らないと。

 


 従姉上がそろそろ怒りそうだ。

ここひと月以上ほど一緒に居るが、蒼鈴は結構口煩い。

……従者に似たのだろうか。



「しっかりしてちょうだい!三兄様(さんにいさま)

回廊を早足で進む季翠の耳に、言い争いの声が聞こえてきた。



 歩いている回廊の丁度反対側に目を向けると、玄思黎とその兄である叔黎がいた。

なぜか傍には玉翡と戰華もいる。



邸が燃え落ちた思黎たちは、次男の奮闘により極刑は免れ、監視の意味も含め玄武城に身柄を置かれていると聞いた。



「私には当主など務まらない」

こんな状況であるが、玄家は新しい当主を立てなければならない。

第一候補はもう亡くなっているとはいえ、正妻の子である叔黎なのだろう。



「母親の血筋は確かに私の方が高いのかもしれないが、今回玄家の皆の助命が叶ったのも、二の兄上のおかげだし。それに……」

それに?



ちら。…………ちらちらちら。ちらちらちらちらちら。


「三の若様……?」

「っ……‼」

てれてれてれてれ…………。



 


 うわあ。





 玄武城の兵の動きは素早かった。

「若‼抑えて‼」

「小翡に不埒な目を向けやがって‼ぶっ殺してやる‼」



 切実に関わりたくない。

どうする。道を変えるか。



 そろりと後退ろうとした季翠だったが。

「翠様‼」

「(っげえ‼)」



 なぜ分かったのか、ぐるんと首を回した思黎がこちらに気づく。

そしていつの間にかすぐ傍で腕を掴まれている。

一瞬でこっちに来た。どんな動きだ。



「もう御加減はよろしいの⁉今から御見舞いに行こうと思っていましたのよ‼」

「そ、そうなんですか……」



 とりあえず胸を押し付けるのは止めてほしい。

というか何か態度?というか、性格?違くないか。



最後に会ったのは玄家邸でだが、結構あの時季翠は彼女に冷たく当たったのに。

謎に好意を持たれていることに慄く。



 照れる玄叔黎。

 

 戸惑いながらも笑っている玉翡。

 

 怒り狂って奇声を上げる葵戰華。

 

 頬を染めて何か喋り続けている玄思黎。


 そして季翠。




混沌だ。混沌がここにある。

 

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