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大影帝国記【完結!】  作者: aberia
第二章 北の大地編 
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第三十六話 玄武城への帰還

第三十六話 玄武城への帰還



 途中水場があり、季翠は何とか城に着く前に血を洗い流すことができた。



「良かった……」

 水筒の水で粗方落としたとはいえ、流石に血だらけで城に戻りたくはない。



「別に大丈夫でしたって!ほら、普段二十人並みのが世に二人といない感じになってましたよ!」

 ……不敬罪で首を撥ねられたいのだろうか。

 とはいえ四狛が普段通りの軽い感じに戻り、季翠は少しほっとしていた。



 しかし水浴びの際、そういえば矢を受けていたんだったと、水がとんでもなく染みたことで思い出した。

 何だか気分も悪くなってきた気が……。



 自覚した途端、結局とてもではないが一人では馬に乗ることができず、四狛の馬に相乗りすることになった。



 玄武城に着いた一行を出迎えたのは、蒼鈴であった。

 その頃には気分もだいぶ良くなっていた。



「季翠ちゃん‼」

「従姉上‼」



 蒼鈴がお姫様らしからぬ足取りで、裾を乱して駆けてくる。

 後ろでは英起が、はしたないとか何とか騒いでいる。

 二人共元気そうだ。



「御無事でしたか?御守りできず、すみませんでした……」

 少し罰が悪い。

優先順位を考えて、蒼鈴を後回しにしたのは事実だ。



「わたくしは平気よ。……戰華様が、守ってくださったから」

 蒼鈴が季翠の後ろに目を遣る。

 季翠が後ろを向くと、葵戰華が拱手して頭を下げていた。



「皇女」

「改めて義母と妹を守ってくれたこと、父と共に礼を言う」

 心からの感謝が伝わってくる言葉だった。



 初対面からは考えられない姿だ。

 彼は何だか、この一件で変わったような気がする。



「こちらこそ、従姉上を守ってくださり感謝します」

「…………別に、俺の婚約者だからな」

 季翠も礼を返したが、戰華は急に元通りの態度でそっぽを向く。



 情緒不安定なのだろうか。

 やっぱり面倒くさいな、この人。



「夫人と玉翡ちゃんも先ほどお戻りになられたわ」

「素敵だったわぁ、葵将軍が夫人の手を引いていらっしゃってね」

 如何に葵戰毅が夫人を気遣っていたか、如何に二人の姿が絵になっていたか、蒼鈴は頬を染めて語り始める。



「……はあ」

 従姉上は大概少女趣味なところがあるよな。



「……私たちも、あんな風になれるかしら」

 私たち?

 季翠は首を傾げる。



「どういう風の吹き回しなんだ……?」

 戰華はというと、父親の行動に疑問を禁じえないようだ。



「——若は分かっていませんね」

「!玖狼」

「どうも、姫君方」



 葵戰毅の副官・玖狼が傍に寄って来ていた。

 随分と砕けた態度だ。

 初対面時は畏まっていたが、これが本来の彼の話し方なのかもしれない。



「何を分かっていないって言うんだ」

 むっとした顔をする戰華に、玖狼は筋骨隆々な肩を竦めた。



「俺は殿にずっとお仕えしていますけど、男女限らず、今まで浮いた話の一つだって聞いたことなかったですよ」

 俺なんて飲み屋でねえちゃんと遊んでばっかなのに。

 お前はそうだろうなと、呆れた視線を向ける戰華。

 この男、結構遊ぶ人間のようだ。



「それが?」

「つまりそういうことなんじゃないんですか。本人に訊いてないから分かんないですけど」



 訊けるんだろうか、あの人に。

 むしろ季翠はそこが気になった。



 少なくとも。

 玖狼は言った。



「昔小さかった貴方に、家族になるって言った言葉は嘘じゃなかったってことですよ」

 殿は嘘は言わない御方だ。



 玖狼は兵に呼ばれてその場を去って行った。

 彼が残した言葉に、なぜか戰華は泣きそうな顔をしていたが、季翠たちには何の話か分からなかった。



 季翠たちが持ち帰った玄伯黎の首は、玄武城門前で晒し首にされることとなった。



 彼が首だけとなった要因——あの矢については、季翠しかそれを射た者を確認できていなかったようで、結局有耶無耶となった。

 今はその犯人捜しよりも、優先されることがいくらでもあったからだ。



 しかし何となく気持ち悪い思いは拭えない。



 玄家邸で一瞬見かけたあの人物。

 服装と髪色が、一緒だった。

 同一人物なのだろうか。

 しかし、そうだとするなら、なぜ玄家にいて、そして伯黎を殺したのか。



 それに……。

 季翠はちらりと、遠くで配下と話している鶯俊を見遣る。

 偽物。

 あれは一体、どういう意味なのだろうか。



 季翠たちと別れた玖狼は、人知れず胸騒ぎを覚えていた。



 先ほど主君の夫人と義娘を迎えに行った旧黎公邸。

兵や侍女たちは軒並み気絶させられており、妙な置き土産が置かれていた。



(北方異民族の死体、ね)

 それも死後数日経った、腐敗が進んだものだ。

 恐らくだが偽装工作の為に用意されたものだろう。



 燃やしてしまえば、腐敗もばれない。

適当にどこかに持ち物を放って置けば、いくらでも異民族の犯人の出来上がりだ。



 問題は、誰がそんなことをしたかだ。



 玄家邸の火災も気になる。

あんな絶妙な時に、丁度良く火が出たりするのだろうか。



 何か、得体の知れない者たちが動いているのではないか。

 しかし何があったのか、何者が来たのか、夫人は頑なに口を開かなかった。

 玉翡も、母親に口止めをされているようで何も聞けなかった。



 玖狼は納得できなかったが、主は夫人の沈黙を黙認するつもりのようだ。



「…………」

 願わくば、主君とその細君に、明るい未来が来ることを玖狼は願わずにはいられなかった。

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