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大影帝国記【完結!】  作者: aberia
第二章 北の大地編 
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第三十二話 許さない

第三十二話 許さない



 鶯俊にわしゃわしゃと乱暴に頭を洗われながら、季翠はずっと気になっていたことを聞く。



「戰華殿、葵将軍は?」

 それを若干引いた目で見ていた戰華は、慌てて表情を引き締める。

「親父殿は血相を変えてどこかに行ってしまった。玖狼も一緒のはずだから、大丈夫だとは思うが……」



「————失礼」

 失言を、とでも言うように男は首を傾げる。



「”元”侍女、と言った方がよろしいか」

ああでもそれも少し違うか。

侍女だったのは貴女ではなく、貴女の母君だったな。



 暗い色彩を纏う姿に似合わぬ、明るい笑顔だった。

 その対比が、逆に不気味に葵夫人————鷺舂(ろしょう)には見えた。



「……貴方……何者ですか……」 

 鷺舂の記憶が正しければ、身なりは皇帝直属の近衛のもの。

 近衛兵が、なぜこんな所にいるのだ。



 気づけば周囲に人がいなくなっていた。

 いや違う、目の前のこの男に皆昏倒させられたのだ。



「そう警戒なさるな」

「お母様?誰かいるのですか?」



 声を出し、会話をしているにもかかわらず、玉翡は男の気配を完全には認識できていないようであった。

 鷺舂はぞっとした。

 本当に目の前のこの男は、存在しているのだろうか。



「姫君か。随分と大きくなられたな」

 玉翡に目を向ける男に、慌てて「娘」の肩を抱き寄せる。



 目的は何だ。

 自分の命か。

 玉翡の身柄か。

 なぜ今になって……。



 いや、”今”だからこそなのか。

 黎公が死に、あの皇女が帝都に戻って人目に付くようになった今だからこそ。



 どうする。

 どうする。

 どうする。

 どうする……‼



「葵将軍のお傍に居る日々はいかがだった」

「……………………は?」



 予想もしていなかった問いに、反応が遅れる。

 それに構わず男は室内をうろつきながら続けた。



「さぞ穏やかな日々だったことだろうな。ああいう清廉潔白で後ろ暗いところがない御方の傍に居ると、自然と自分もそんな人間になれるのでは、本当の自分はこうであるのではと、ありもしない夢を見る」

まあ葵将軍とて、何も秘密が無いわけではないようだが。



 何が言いたいの。

 そんなこと分かって「————貴女だけ幸せになろうなんて許さない」



「っひ…………」

 男は先ほどまで浮かべていた笑顔を瞬時に消し去り、真っすぐ鷺舂を見据えた。



()()()()()()()()、あのことをなかったことにして生きようなど許さない」

 後ずさる彼女に、男は静かでゆっくりな口調のくせに、怒涛の勢いで言葉を連ねる。



「過去の過ち程度に数えるなど、許さない」


「心の中で贖罪を続ける程度で済ませるなど、許さない」


「存在しないかのように、息を殺して生きる程度で済ませるなど、許さない」


「死にたいような思いを抱えて、生き恥を晒す程度で済ませるなど、許さない」



 許さない、許さない、許さない。

 そんなことは許さない。

 男は続けた。



「”約束”を果たすために、貴女にも同じだけの犠牲を払ってもらわなければ、他でもない俺の気が済まぬ」



「なあ鷺舂殿。苦しみは分かち合うべきだろう……?」

 ()()だけが犠牲を強いられるなど、おかしいではないか。



「っ……っっっ‼‼」

 知っているんだ。

 知っているんだこの男は。

 すべて。


 だから彼女を責めている。

 こんな所でのうのうと息を潜めていた自分を詰っている。

 ならば彼を差し向けた人物は――――。



「私は貴女を迎えに来たのだ、鷺舂殿」 

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