第三十一話 死を運ぶ烏
冒頭からかなり血生臭い生々しい描写があります。嘔吐もあります。ご注意ください。
私も書いていて少し気分が悪くなりました。
第三十一話 死を運ぶ烏
赤。
赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤。
―———血の、あか。
「……っ……っっっ‼‼」
視界が真っ赤だ。
生臭い。
とんでもない悪臭だった。
何とも言えない温かさとぬるつきを持つ液体。
目の前の首無しの体が傾ぐ。
季翠が前に突き出していた偃月刀の刃が、重力に従うその体にずぶずぶとその切っ先を埋めていく。
何とも言えない、嫌な感触だった。
「う……ぇ……」
吐きそうだ。
というか吐いた。
吐瀉物の上に、赤い点がポタポタと散る。
髪から滴った血だ。
頭から血飛沫を浴びたのだ、自分は。
目の前には、無残に首だけ飛んで血を噴き出す「玄伯黎だったもの」。
自覚した途端、悲鳴を上げて握っていた柄を放り投げる。
死体を突き刺した状態のそれは、ひどく重く、投げるのも一苦労だった。
無機物になった死体が音を立てて地面に崩れ落ちる。
肉を削ぐ感触も削がれた感触も何度か経験がある。
でも、こんな、人の肉と骨、内臓を貫く感触なんて、自分は知らない。
知識として人間を殺す必要性は習った。
でも実際にしたことなんてなかったんだ。
何が起こった。
何が起こった……⁉
鶯俊と伯黎の間に割り込んで。
そしたら今まで感じたことのない、兎に角よく分からないがすごい寒気を感じて、それで次目を開けたら伯黎の頭が無くて…………。
————矢……‼
そうだ。
矢が飛んで来たんだ。
それが伯黎の喉元から鏃を突き出しきて。
季翠はまず、自分の体に穴が空いていないか慌てて確認する。
どこも負傷していない。
本当に?
血を被って頭がおかしくなっていないか?
執拗すぎるほどに確認した。
漸く安心でき、次にばっと後ろを向く。
背後には季翠を支えるようにして四狛が一緒に地面に倒れていた。
その右頬が何かに引っかかれたにしては大きく抉られている。
後方には矢。
あれだ。
「(何だあのとんでもない矢は……‼)」
一体誰が。
きょろきょろと辺りを見回す季翠の動きに合わせて、血が地面に振り撒かれる。
どこだ。
どこだ。
誰が。
そして林の方に目を向けると。
少し小高い、高台のようになった所。
林を背にした所に、その人物は弓を片手に立っていた。
あんな、あんな所からここに矢を届かせたというのか。
見えているとでもいうのか、あんな距離から。
しかし現に季翠とて視認できている。
しかし。
「(有り得ない……)」
————遠目に、薄茶色の髪と両耳についている赤い房飾りが、風に踊る。
黒にしては少し薄ぼけた色の衣の袖が風で膨らむ様は、まるで烏が羽を広げているようだった。
逆光で顔は良く見えなかったが、季翠は確かにその人物と目が合ったと思った。
「姫様、大丈夫ですか」
微動だにしない季翠に四狛が顔を覗き込んでくる。
「…………しはく、どの…………」
「わたし……いきてる…………?」
呆けたようにそう問う季翠に、四狛は呆れたように軽口を叩く。
「ええ生きてますよ。残念ながらね」
*
「流石殿。お見事です」
「…………」
賞賛の言葉を掛けてくる部下に対し、薄茶色の長い髪を括った青年武官——烏竜は何も返さなかった。
「…………浅ましい公子です」
*
「とりあえず、」
「殿下、どうぞ」
「ああ」
四狛が何かを鶯俊に手渡す。
バシャリ。
いきなり何の前置きもなく顔面に水をぶっ掛けられる。
「ぶっ‼」
「口と目を閉じていろ。すごい有様だぞ、お前」
「流石にこのまま城に戻るわけにはいきませんからね」
近くに水場があるとも限りませんし。
と、せっせと兵たちから竹筒を回収している四狛。
え、待って。
この水、水筒の水じゃありませんか?
反論する間もなく、全員それぞれが口をつけた水で洗われる。
貴重な飲み水を使わせてもらっているとは分かっていたが、何とも微妙なしわい顔になってしまった。
ちなみに葵戰華は、何度か兵の演習で来ていたため近くに池があることを知っていたが、何となく言わなくても良いかなと判断した。
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