第四話 帝都・麟翠(りんすい)
第四話 帝都・麟翠
初日の思わぬ事件はあったものの、季翠と四狛の二人は順調に帝都への道を進んでいた。
「この森を抜けたら、ちょうど目の前に帝都を一望できますよ。後は、山を下って帝門に行きます」
四狛の言う通り、間もなく雑木林が生い茂り薄暗かった森から、明るく開けた場所に出る。
「さあ姫様――これが、大影帝国が誇る帝都・麟翠ですよ」
季翠は思わず息を飲んだ。
そこから見えたのは、遥か先まで広がるような広大な巨大都市の姿であった。
碁盤の目状に整然と区画整理され、外壁、内壁により更に内部が分けられ、中央には光り輝く巨大な城がある。
「驚いたでしょう?ここ麟翠は、帝国で一番規模が大きくて、美しい都だと言われています」
四狛は指で帝都のちょうど中央を指す。
「あの中央にあるのが、皇宮・翡翠城です。覚えていらっしゃらないとは思いますけど、姫様はあそこで御生まれになったんですよ」
「覚えてないです……」
「ま、赤ん坊ならそうでしょう」
今だ帝都の景色に目を奪われ呆然と答える季翠に、四狛も軽く相づちをうつ。
(……にしても、可笑しな話だよな。普通皇族をわざわざ皇宮の外で育てるかね)
しかも、いつ死んでしまうか分からない赤子の時分に。
しかし、それは他の皇子・皇女に対しても言えることだった。
現皇帝・緑龍帝の子は、季翠も含め三人。
その三人全員、皇后との間に生まれた子である。
季翠の上に、兄の第一皇子と姉の第一皇女がいるが、季翠が西で育てられたように、第一皇子は東、第一皇女は南で、それぞれ育てられたという話だ。
ちなみに、上の二人は五年ほど前に帝都に戻ったと聞く。
(まあ、貴重な皇族だ。何かしら意味があるんだろ)
「さ、そろそろ行きましょう。帝都内は広いですからね、夕方までには皇宮に入れるように急ぎましょう」
「はい」
二人は山を下る道に入る。
頭上には、輝く太陽に雲がかかりかけ、陽が陰ろうとしていた。