第二十三話 追う叔黎と、迫りくる使者
第二十三話 追う叔黎と、迫りくる使者
————時は数刻前に遡る。
「————伯黎、女達は放って置いていいのか」
いるんだろう?葵戰毅の妻と娘が、と言う季鼈。
「弟に任せてある」
「あの優男か」
残念だ、と季鼈は肩を竦めた。
「あの葵戰毅の噂の夫人、一目見たいと思ったんだがな」
「…………さて、どうしたものかな」
兄上には、夫人と姫を捕らえてこいと言われたけど。
女人に追いかけられるならともかく、追うのは叔黎の好みではない。
適当に時間を潰して、そろそろばれるかと思い、ようやくさっき重い腰を上げたところだった。
城内をゆったり進みながら、思考に耽る。
兄はこの城を手に入れることに躍起になっていたが、叔黎にはいまいち良さが分からないなと思いつつ。
何というか、地味。
玄武城内は、至る所に季鼈が引き連れてきた北方異民族がたむろしており、死体もあるし、酷い有様だった。
「(しかし葵夫人、か)」
得体の知れない女と聞く。
生まれも、出身地も、経歴も、何一つ素性が分からないと。
いつの間にかどこからともなく現れた、気味の悪い人物。
兄の伯黎は、父の落胤ではないかと疑っているようだ。
実際、そんな噂もある。
「(そうなると、葵姫は私の姪になるのか)」
あの毅然とした態度の姫君。
もし血縁なのだとしたら、少し残念かもしれない。
城内を奥に進むにつれて、貴人の室らしきものが見え始める。
ここで、葵家の家族は過ごしていたのだろう。
その内の一つの室の扉が全開になっている。
何とはなしに覗き込むと。
先ほど兄と対面した城主の間と、何というか雰囲気が似ている、が。
まるで旋風が局所的に発生したかのように、室内が酷く荒らされていた。
一瞬蛮族共が家探しでもしたのかと思ったが、それにしては……。
「……嫌な感じだ」
叔黎は見なかったことにして、早々に立ち去ることにした。
虱潰しに室に入って夫人たちを探す。
結局最初に覗いた室からかなり離れたところに、夫人の室はあった。
しかし。
「……誰もいない」
もぬけの殻であった。
しまった。
逃げられたのか。
しかし玉翡を連れて、よく誰にもばれずに城内から抜け出したものだ。
傍にいたのは侍女達ばかりだろうに。
それとも、誰かが手助けしたのか。
葵戰華と合流されているとしたら、少し厄介だ。
いや、それよりも。
「(兄上に何て言い訳をしよう)」
嫌だなあ。
帰りたいなあ。
女人の室を不躾にうろちょろするのは無作法かもしれないが、意味もなく歩き回る。
ふと、視界の隅にあるものが映る。
*
「!ここは…………」
「葵夫人……?」
周りに皆がいることを忘れて思わず声を上げてしまうほど、この場所は彼女にとって忘れることのできない場所であった。
なぜならば、彼女はかつてここで暮らしていたのだから。
しかし、なぜこの邸が葵家所有のものになっているのか。
だって、そもそもここは。
「黎公様…………」
この邸は、今は亡き先の玄家当主・黎公の持ち物だった。
様子のおかしい自分を伺いながらも、一行は邸内に入ることに成功した。
先に偵察に入った皇女の護衛武官が言うには、邸内には誰もいないとのことだった。
当然だろう、ここは、黎公の身内ですらその存在を知っているか分からない場所なのだから。
長年人が住んでいないであろうにも関わらず、きちんと手入れをされているようだった。
黎公が定期的に人を寄越していたのか、それとも。
「(あの方、……かしら)」
室らい、調度品、庭、邸内の至る所に見覚えがあり、朧げな記憶が蘇りつつある。
自分は、確かにここで暮らしていた。
「お母様?」
「何でもありません」
心配そうにこちらに顔を向ける「娘」。
この子は、憶えているのかしら――――。
「ところで四狛殿」
「通路の入り口、うまく隠せましたか?」
後を辿られると居場所がばれる。
確認する季翠に、四狛は当然と頷く。
「ええ、もちろん。あちらさんに気づかれたらまずいですからね」
「ちゃんと閉めてきましたよ」
邸内で一息ついていた季翠たちは、隠し通路の出口が開く音がしていたことなど思いもよらなかった。
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