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大影帝国記【完結!】  作者: aberia
第二章 北の大地編 
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第二十一話 それぞれの逃避行

目が見えぬ方についての記述があります。

本来ならもっと前の話の時点から注意書きをすべきでした。大変申し訳ございません。

配慮に欠けるかもしれませんので、御不快に思われるかもしれない方は閲覧をお控えいただきますよう、お願い申し上げます。

第二十一話 それぞれの逃避行



 ————玄伯黎と季鼈が落ち合ったのと、ちょうど同時刻。

 薄墨の人影が一人、玄武城内に入り込んだ。



 季翠は葵夫人と玉翡、侍女たちを連れて、城の隠し通路から城外を目指していた。 

 


 玄伯黎による襲撃を受けたと説明した季翠に対し、葵家の女性たちの対応は速やかなものであった。

 侍女が壁沿いに設置された調度品を動かすと、指で引っ掛けることができる凹みが彫られた床板が出てきた。



 あまりに簡単に家具を移動させたため、試しに季翠も持ってみると、見た目は重厚そうだが見せかけでかなり軽い。

 女人でも容易に動かせるようにという配慮がなされていた。

 


 床板を外して現れたのは、人一人が丁度通れるくらいの隠し通路だ。



 暗闇の中、急な階段が続いている。

 玉翡が言うには、玄武城には城主の間以外の要人の室それぞれに隠し通路があり、出口は葵家が密かに所有する隠れ家に繋がっているそうだ。



 季翠を先頭にして、一人ずつ慎重に階段に降りていく。

 


 女人ばかり、加えて目に不自由がある玉翡を支えながら暗闇の階段を降りるのはかなり危険な行為であったが、追手が来た時場合に備え四狛がギリギリまでこの場に残ると申し出た。



「お任せくださいよ、姫様。夫人がたが無事に城を脱出できるまでの時間稼ぎくらいは、俺一人でもできますから」



 おかげで季翠たちは無理に急ぐことも、玉翡にそれほど負担をかけることなく、階段を降りきることができた。

 後ろからの危険の軽減は、それだけで心理的安心感がある。

 


 長い急な階段がようやく終わり、平坦な場所に出る。

 道幅がかなり広がったが、完全な暗闇だ。

 明かりは季翠が持つ蠟燭の火のみ。

 


 真っすぐ進めば出口に辿り着くのかと思いきや、暗闇の中にいくつも通路が分かれているのが分かった。

 選択に困り、立ち止まった季翠に皆戸惑う。



「一番左の道に」

 すぐ後ろで侍女に支えられながらついて来ていた玉翡が、暗闇の中を指さす。



 有事の際速やかに逃げれるようにと、父である葵戰毅に手解きを受けているのだ。

 しかしだからと言って、普段使いしないこんな道を正確に覚えているとは、かなり記憶力が良いようだった。



 迷路のような通路をどちらに進めばいいか、的確に季翠に指示を出した。

すべて頭に入っているのだろう。



 時折天井から水滴が落ちる音が響き、その度侍女たちが身を震わせる。

 彼女たちの目にはすべて暗闇の世界で、どこから何がくるか怖くて仕方がないのだろう。

 


 どうやら季翠は常人よりも夜目がきくようで、蝋燭程度の明かりでもかなり先まで視認ができたため恐ろしさはなかった。

 しかし……。

 


 ちらりと数人後ろにいる夫人を見る。

 夫人は今どういう心情なのだろうか。

 今の状況だけではない、ここに至るまでの一連の騒動に対して彼女がどう思っているのか季翠は気になった。



「…………御気分など、いかがですか」

「夫人」



 最初、自分に言われていると思っていなかった夫人は呆気に取られた顔をした。

「……大丈夫です…………どうか、私のことは御気になさらず……」

 彼女はどうしても季翠の顔を直視できないようで、消え入るようなその言葉も通路の隅の土壁を見ながら口に出されたものだ。



 一体季翠が彼女に何をしたのかと、少しうんざりする気持ちもなくはないが……。



「小翡、辛くはないですか」

「大丈夫です、お母様も御無理なさらないで……」

 彼女の娘へ向ける目は確かに優しく、大切に思っているであろうことが伺えた。



 ————親子とも、姉妹とも見えぬ歪な母と娘。

 


 だが、それでも彼女らの間には確かに親子の絆があるのだと、季翠はほんの少しだけ胸が痛くなる気持ちがした。

 それは、季翠がこれまでの人生で感じたことのない感情で、彼女はその感情を何と名付けるのか分からなかった。



 一方、ひとまず一難去った戰華と蒼鈴は。



「――――しかし葵公子、ずっとここに隠れているわけにはいかないでしょう。この後どうされるおつもりで?」

 皇女殿下方のことが心配ですと続ける英起。



「季翠皇女たちには、義母上と玉翡のところに向かってもらっている」

「‼そうよ!季翠ちゃんは無事なの⁉」

 詰め寄る蒼鈴に、戰華は彼女の細い肩に彼にしては優しく手を添える。



「無事だ。すぐに別れたが、あの護衛武官が傍にいる限り大丈夫だろう」

 あの男は相当な手練れだろうと、戰華は見ていた。



 一見そんな風には見えないし、本人も飄々と振舞っているが、恐らくかなり厳しく訓練された精鋭の武官だ、あれは。

 季翠の方も、常に帯剣しているくらいだから多少の武の心得はあるのだろう。

 


 それよりも蒼鈴だ。

 季翠は曲がりなりにもこの大影帝国の皇女で、それだけで身の安全はある程度保障される。

 傍にいる者たちもその庇護に入れるだろうが、今の状況で彼女はそれを期待できない。

 


 先ほど戰華は彼女の機転に助けられたが、あれは玄伯黎があそこであっさり引いたからだ。

 相手が話の通じぬ異民族だったならば、どんな目に遭っていたか。



(俺が守るしかない)

 季翠たちは恐らく、隠し通路を使って城外への脱出を試みているはずだ。

 戰華も急いで、蒼鈴たちを連れて彼らを追いかけねばならない。

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