第十八話 襲撃
第十八話 襲撃
「――――さて、此度の事態について何か弁明はおありか?葵の若君」
「……弁明も何も、こちらの言い分も聞かず犯人扱いとは、そちらこそどういうつもりだ。こちらは陛下より信任された将軍への不敬罪で、貴殿を処罰しても良いんだぞ」
先ほどの父・戰毅への侮辱、忘れたとは言わせぬ。
「物的証拠が上がっているというのに、あくまで白を切られるか」
「はっ!物的証拠だと?そんなものいくらでも作れるだろう」
「……異民族を殺し、偽の書状を持たせるなど誰にでもできる」
もちろん貴殿にもな————戰華は鋭い眼を伯黎に向ける。
「少しは敵意を収めてくれないか若君。我々は敵同士ではない。協力し合うために、話し合いの場を設けているのだ」
よく言う。
先ほど散々こちらを悪者として晒上げた癖に。
「しかし協力関係を築くとはいえ、こちらとて疑いがある者を旗頭にはできぬ」
「加えて葵将軍は御不在。どうだ若君、ひとまず玄武城の兵力を玄家の指揮下に置きたいのだが」
城主がいない間に城を乗っ取ると言っているも同じだった。
「ふざけるな。そんなこと承諾できようはずがない」
「――――若君、父上の潔白を証明したいのなら相応の態度を示されよ」
伯黎は不気味なほど静かに語り掛ける。
「北陵の民は怯えている。いつ異民族が街を、人を、そして己と家族を害そうとしてくるか。加えて今朝の出来事で思ったはずだ。この玄武城にこそ、異民族が潜んでいるのではないか、とな」
第三者に指揮を任せ、民の心情の緩和を図れと伯黎は続ける。
「なに、俺が指揮権を持つのは一瞬のことだ。なにせ今だ当主として正式に認められていないものでな」
伯黎は肩を竦めると、季翠をチラリと見る。
「皇太子殿下がお越しになれば、殿下の御采配を仰げば良いだろう」
「…………」
皇子がすぐに来るのなら、不本意だが一時的に玄伯黎の言いなりになるのも致し方ないのかもしれない。
しかし……。
「……なあ、戰華殿。貴殿が葵将軍に義理立てするのはなぜだ?」
「何……」
「貴殿の不遇な立場は俺も聞いている」
伯黎は御座から立ち上がると、室の中を歩く。
「葵将軍のような賢君の嫡子という立場は、さぞ重圧極まりないものだろう。なにせ指針や目標となる人物が出来過ぎた人物であればあるほど、跡を継ぐ者はそれに相応しくあらねばならないからだ」
「血が繋がっていてもそうなのだ。まして養子では重圧はそれ以上だろう」
「将軍は民政の為なら非情な判断も厭わない御方だ。義息子だとて、貴殿を重用してくれるとは限らない」
言外に廃嫡されると、伯黎は言っているのだ。
戰華は思わず笑った。
「――――貴殿のそのよく聞こえる耳に当然入っているはずではないか。葵家の息子は、父親とは似ても似つかぬ不出来な息子だと」
この男に言われずとも、自分が一番よく分かっている。
「俺は将軍とは違う。貴殿の気持ちを少しは分かっているつもりだ、同じ偉大な父を持つからな」
伯黎は親しみやすい笑みを浮かべる。
「戰華殿、我らは言わば同士だ」
「俺は玄家の当主の地位のみには甘んじらぬ。玄武将軍を拝命し、ゆくゆくは中央においても力をつけるつもりだ」
やはり将軍の地位が狙いか。
「貴殿が俺の傘下に加わってくれるというのなら、俺は貴殿を尊重し、重用すると約束しよう」
玄伯黎の言葉には不思議な力がある。
聞く者の耳を惹きつけるというのか。
己の見せ方を分かっているのだろう。
だが————。
(玄伯黎、お前は思い違いをしている)
俺があの人に義理立てしているのではない。
あの人が、俺に義理立てしているのだ。
父がどういう経緯で自分を拾ったかは知らない。
だが、拾った以上親としてあり続けようとしているのだ。
そんなあの人の義理を、こんなかたちで自分が裏切ることはない。
「悪いが、地位も名誉も興味はない」
城主の座を見下ろす位置に立つ玄伯黎を、挑むように見上げはっきり言い放った。
暫く無言で視線を交わし合う。
「残念だ」
伯黎はおどけたように肩を竦め、両腕を広げる。
くるりと戰華に背を向けると。
「――――なら、ここで死んでもらおう」
「‼」
直後、凄まじい爆発音が城内に響き渡る。
「若‼敵襲です‼」
「異民族が城門を破壊し、城内にっ…………‼」
報告しに走って来た兵が斬り捨てられると同時に、室にいた玄家の私兵が一斉に抜刀し、玄武城の兵たちに斬りかかっていく。
玄伯黎もまた戰華の息の根を止めようと、白刃を閃かせた。
「玄伯黎‼貴様……‼」
刃を受け止めながら、戰華は大声で季翠に叫んだ。
「義母上と玉翡を連れて逃げろ‼」
視界の端に、季翠と四狛が室から離脱する姿が見えた。
(小翡さえ無事なら、親父殿も……)




