第十五話 北の長
第十五話 北の長
一方北の果て、国境付近にて。
玄伯黎を玄武城に招き入れたその頃。
「――――やはりお主か」
「御無沙汰しております――――」
玄武将軍・葵戰毅と、その副官である玖狼はとある人物に謁見していた。
天幕に用意された御座に座して待つ二人の間を通り、一人の老人……というには屈強すぎる男が上座にどかりと座る。
男は北方異民族――――と大影の民が呼ぶ者たちの長であった。
齢はもう七十を優に超えていると聞くが、歴戦の猛者足る風格は何ら損なわれていない偉丈夫だ。
「北方異民族」と一言に言っているが、実際はあくまで総称で、内情はいくつもの一族が存在している。
二十年前、戰毅は先の玄当主と共に、この長と協力関係を築いた。
当時、北の地で奴隷狩りをしていたのは長の一族ではなく他の異民族の一族であった。
それを共に退け、その後数いた氏族を一つにまとめ上げたのがこの長である。
その意味では異民族の王とも言える存在かもしれない。
「お主が来ると女共が騒ぐ」
「……」
ニヤリと笑って揶揄う長に、戰毅は怜悧な美貌をピクリともさせない。
「相変わらず愛想のない男よのお。これでは嫁も苦労する」
「――文でご連絡した件についてですが」
雑談は不要とばかりに、戰毅は本題に入る。
「分かっておる」
「……儂の数いる息子の一人も噛んでいるらしい」
長が皮肉気に、大きな傷が走る唇の端を歪める。
調べが早いことだ。
早馬を走らせ、事前に報せを送ったかいはあったらしい。
「”北の亀”の息子、なかなか口が上手いらしい。愚息め、まんまと口車に乗せられおって」
長はもうかなりの老齢だ。
彼の息子は数多くいるが、その中の一人が後継者争いで抜きん出ようと玄伯黎と手を組んだのだと。
伯黎はその息子に通行証と、偽装した戰毅の書状を与えた。
それを持ち、北陵で奴隷狩りをするようにと指示を出したのだという。
代わりに食糧の援助と、長の座へ就くための後押しをすると――。
道理で市場の食料供給に影響が出るはずだ。
また、捕らえた奴隷は好きにしても良いと言ったのだそうだ。
密通、密輸に加えて、民を売る所業。
断じて許してはならない行為だ。
「儂の監督不行き届きよ。すまぬな……」
「そのような」
御座の上で深く頭を下げる長を手で制す。
戰毅はこの長のこういう潔さに信用を置いている。
油断のならぬ相手ではあるが、協力関係を結ぶに足る人物である。
こういう人物だからこそ、今回起こった不可侵条約の一方的な反故にも何か裏があるのではないかと、馳せ参じたのだ。
「……子とは、親の思うようには考えぬものです」
――社交辞令とも、慰めともつかぬ言葉を吐いたのは、己も思うところがあるからか。
(……らしくないことを)
「儂も出向こう。此度の事態の収拾、助力は惜しまぬ」
眼光強くこちらを見やる長に、戰毅は深く礼を示した。




