第十四話 嫌疑
第十四話 嫌疑
城門の外に押しかける、怒りに包まれた大勢の民。
北陵の街の入り口で発見された、北方異民族の衣装を纏った首から上が無い死体。
通行証と、玄武将軍の印が入った書状。
「一体何の騒ぎだ‼これは‼」
「わっ若様っ!」
兵たちの間が割れて、戰華が現れる。
しかしその傍に父親の姿はない。
「若君!……葵将軍は……」
季翠の問いに苦々しい顔を返してくる。
「……親父は今城にいない」
何てことだ。
この非常時に城主が不在だと。
「――――久しいな、葵の若君」
よく通る声が辺りに響き、声の主が悠々とこちらに向かってくる。
玄家の私兵と思われる武人たちが守るように周囲を囲んでいる。
「玄伯黎……」
「息災そうで何よりだ」
相対する二人の公子。
片や眼光鋭く強張った顔をした者と、片や悠然と余裕の笑みを浮かべている者。
「……今、我が家の家長は不在だ。話なら俺が伺おう」
「――今朝のことだ。街の入り口で死体が発見されたそうだ」
「珍しい話ではない。北陵は帝国の四大都市の一つだが、その分流民や旅商人、乞食や浮浪児もそこらにいる。いかに葵将軍が手厚い統治をしようと、手が回らぬのは当然のこと」
「…………」
「しかしその死体は常と違ったそうだ。よくある餓死者ではない。――――そう、何でも北方異民族の衣装を纏っていて、首から上が無かった」
「……っ勿体ぶらずにさっさと言ったらどうだ‼」
「その死体は何と通行証と、玄武将軍の印が入った書状を持っていたのだそうだ」
「⁉」
戰毅が衝撃で目を見開く。
「…………貴様、まさか親父が蛮族に与えたと言いたいのか」
「……まさか!」
玄伯黎は大仰に両腕を広げる。
「俺は将軍の清廉潔白さを存じ上げている。しかしそれを知り、現にここにいる民衆はどう思ったのだろうな?」
戰華は押しかけた民衆を見渡す。
疑い、失望、怒り、悲哀、逃避の目。
一目瞭然だった。
「……親父は――葵戰毅はそのようなことはしない……っ!息子である……この俺が、保証しよう」
「息子である、か」
誰かが言った。
「――――本当の息子ではないくせに」
「…………っっっっ‼」
戰華は息を飲んだ。
その一言を皮切りに、民衆から口々に声が上がる。
「養子の言葉に信頼性はあるのか?」
「葵公子はどこの生まれとも分からぬ身だ」
「加えてこんな騒ぎが起こっているというのに、肝心の葵将軍は姿を現さない。将軍は責任を放棄するおつもりなのではないか?」
玄伯黎がぼそりと呟く。
「――――……やはり”祖国を捨てた男”は信用ならぬということか」
視界の端に刃が煌く。
悲鳴が上がる。
「葵の若君っ!」
「貴様‼言うに事欠いて親父を侮辱するかっ‼」
瞳のギリギリまで届いた切っ先に怯むどころか、玄伯黎は芝居がかった風に声高らかに民衆に向かって声を上げる。
「皆見たか!協力しようと手を差し出した者に刃を向けるとは、なんと野蛮なことだ!」
「所詮葵家は余所者。この地を誠に思っているのは、誠に導くべきは、偉大なる皇帝陛下より信任された玄家の者に他ならぬのではないか⁉」
伯黎は口が上手かった。
先ほどまでの喧騒が静まり、周囲の者は皆彼の言動に目を奪われていた。
季翠もその一人だったが、慌てて我に返り戰華の腕を引く。
「若君っ戰華殿!剣をお収めくださいっ」
「民衆がいます。ここで刃を交えるおつもりですかっ」
声を押し殺して諭す季翠に、戰華は歯ぎしりする。
「我が偉大なる父、黎公はその昔志を立て、緑龍陛下と共にこの北の地から異民族を一掃し、帝国の基礎を築いた」
「しかしその基礎がいまや脅かされようとしている――」
「我はここに告げる!必ずや蛮族の魔の手を退け、この地に平穏をもたらすことを――――!」
玄伯黎が拳を高く掲げると共に、歓声が上がる。
「――さあ、共に北の地のために力を合わせようではないか、葵の若君?」
再度こちらに手を差し出した伯黎を、戰華には受け入れるしか選択肢がなかった。




