第十一話 奴隷狩り
第十一話 奴隷狩り
(兄上はいつこちらに来られるのか)
帝都を出て以来、鶯俊からの連絡がない。
まだ帝都にいるのか、それとももうこちらに向かってきているのか。
「!姫様、お待ちを」
考え事をしていた季翠を四狛が呼び止める。
馬を止めると、彼は下馬して地面を確認している。
「血跡です」
「!」
季翠も馬から下りて確認する。
車輪の跡と、蹄の跡もある。
かなり時間が経過しているようだが。
「この先の村から続いているようです」
*
「ひでぇ……」
「まさか俺たちの村が……」
季翠たちは跡を辿り集落に辿り着いた。
村は酷いありさまであった。
家屋の戸が壊され、家畜も殺されているものがいる。
人を引きずったのか、地面の跡がそこら中に残っていた。
集落の広場らしきところに、村の住人たちが集まっている。
見たところ皆男ばかりだ。
襲われたのは女子どもか。
「失礼します。どうされたのですか」
「!……なにもんだ、あんたら」
突然現れた余所者に、男たちが一気に殺気立つ。
「怪しい者じゃねえ。旅の途中に血の跡が道にあったもんで気になってな」
「血のあと……」
四狛の言葉に男たちの顔から血の気が引く。
「うぅ……どうしてこんなことに」
一番若い青年が頭を抱えて地面に蹲る。
「……差し支えなければ、事情をお聞かせ願えませんか」
村の仕切り役と思われる壮年の男が話すことには、昨晩彼らの村が襲撃を受け、女子どもが一人残らず攫われたのだという。
その時、男たちは村全体で携わっている商いの為に軒並み出払っており、彼らが仕事を終えて今日の昼頃村に戻ると、今のこのありさまであったそうだ。
……蹲って泣き叫ぶ青年には、婚姻したばかりの妻がいたのだという。
「……異民族の奴らの仕業に違いねぇ……」
「あいつら玄伯黎に通行証をもらったに違いないんだっ。前に襲われた商団の生き残りに聞いたことがあるから間違いない‼」
男の一人が声高に叫ぶ。
彼らの中で、犯人は異民族と玄伯黎と決めつけられているようだ。
「……通行証を発行できるのは玄当主だけではない。葵将軍も可能なはずですが」
季翠がそう言うと、男たちがいきり立つ。
「何を言うんだ‼葵様がそんなことをなさるはずがない!」
「そうだ!あんたは余所者のようだから、あの御方がどれだけ素晴らしい御方か知らないんだろう」
「将軍様は確かに元は大影の人間じゃねえ。だが、中央の役人どもよりもよっぽど俺たち北の民を慮ってくださっている」
「二十年前もお若かった将軍様が事件を解決してくださったんだからな!」
「今だって異民族どもに奪われて不足してる食糧を、玄武城から俺たち民衆の手に届くように市場に出してくださっている」
皆口々に葵戰毅の素晴らしさを語る。
葵戰毅の民衆からの支持は相当なもののようだ。
(最初の日に見た穀物は、市場への補填だったのか)
それよりも気になるのは……。
「二十年前?」
季翠の疑問に、最も年長と思われる老人が口を開く。
「二十年前、今と同じように異民族による奴隷狩りが北の地で頻発していた時期があった。それを当時、先の玄当主に討伐隊の長に任命された葵将軍が、事態を治めてくださったのだ」
葵戰毅は北に侵入していた異民族をすべて捕らえ、その身柄を元に異民族の長と交渉し、当面の不可侵の盟約を交わしたのだという。
その功績により葵戰毅は北での地位を確立し、玄武将軍への道を確固としたものにしたのだという。
しかしその盟約が今まさに破られている。
それはやはり……。
「黎公が生きてらっしゃったらなぁ……」
「黎公はいい方だった。女癖は悪かったが」
「息子は駄目だ。玄伯黎では北の地を治めるなどできようはずがない」
黎公とは先の玄当主のことか。
先の玄家当主の死。
彼の逝去もまた一因となっているのだろう。
――――その頃の玄武城の一室。
「……」
葵戰毅は、寝込み続けている妻の傍で静かにその寝顔を見ていた。
「……殿、そろそろご出立です」
「……ええ、今行きます」




