第九話 玄家へ
第九話 玄家へ
北の大貴族・玄家。
元は北の地方有力者に起源を発するが、先の玄当主が当時の影国の皇太子――後の緑龍帝――と誼を結び、北の統治に尽力したことで国内有数の名門へと成長した。
玄家に行く前日、季翠は四狛から玄家の内情についての報告を聞いていた。
「先の玄当主の子は、認知されている子で全員で十八人。その内男児が五人、女児が十三人、一番末の息子はまだ三つかそこらだそうです」
最初に聞いていた十人以上どころの話ではない。
認知されていない隠し子を含めれば一体何人いることやら。
「帝都での話では次期当主の跡目争いで揉めているとの話でしたが、実のところ長男の勢力の一強状態のようです」
玄家長男・玄 伯黎。
母親は北陵の地方有力者の娘とのことで身分こそ高くはないが、武術と求心力に長け、家内で絶大な影響力を持っているそうだ。
ちなみに先日街で遭遇した三男の叔黎の母親は正妻、思黎の母親は妾だそうだ。
しかしながらその正妻はすでに何年も前に儚くなっているそうで、本人も当主になる気は更々ないとのこと。
「次男は?」
「次男の仲黎は、元来病弱で内気な性格で、家督争いの候補には端から入っていないと周囲からは見られているようです」
四男、五男に至っては幼児。
「次の当主は玄伯黎……」
「順当にいけばそうなりますが、聞けば伯黎は随分と野心家のようで、きな臭い噂もある人物のようです」
「きな臭い?」
「あくまで噂ですが、玄武将軍の地位を狙っているだとか、皇女との婚姻で玄家の地位向上を狙っているとか……」
聞き捨てならない言葉が聞こえた。
「皇女?」
玄伯黎の年齢は二十代半ば、年齢の釣り合う皇女など大影には一人しかいない。
「…………」
つまり場合によっては、碧麗の夫になるかもしれない人物――――。
季翠は正直なところ、玄家の当主が誰になろうとどうでもいい。
玄家内でほぼ内定しているのならそれに合わせればいいと思っている。
そもそも葵戰華にも言われたが、名ばかりの皇女である自分に決定権があるとは端から思っていない。
季翠に求められているのは、皇族により承認されたという事実だけだ。
だが……。
(姉上の夫になるかもしれない人……)
玄伯黎という男を、見定める必要がある。
――――その頃の玄家。
回廊で言い争う男女……というより、娘の方が一方的に青年に声を荒げている。
「このままあの男が当主になれば、皆どんな目に遭わされるか分かったものじゃないわ‼」
「考えすぎだよ。兄上だって、無闇に身内に手を出すわけがない」
「貴方は考えが甘いのよ‼」
「君は悲劇的に考えすぎだ……。当主なんて、なりたい人間がなればいいさ」
「仲黎‼」
同じ邸の一番奥の室。
「第二皇女・季翠、か……」
最近帝都に戻された皇家の末姫。
一体どんな情けない顔をした小娘なのだろう。
「精々俺の役に立ってもらわねば。皇太子も、皇女も、邪魔者は排除するのみだ」




