第七話 歪な家族
第七話 歪な家族
最悪の雰囲気の中滞在している室に戻ると、蒼鈴は少し休むと言い残し自分の室に下がってしまった。
残された三人は、何となく共有の室の卓に揃って腰掛けた。
英起は蒼鈴の室の方を心配気にチラチラと見ていたが、しばらくするとやめ項垂れる。
季翠は戰華を呼びに行ってくれた四狛に話を聞くことにした。
「……実を言うと、説得してあの場に来てもらうのにも偉い苦労したんですよ」
四狛はげんなりとした顔を全面に出す。
「御付きの兵も結構説得してくれてたみたいなんですけど、それも無視ですよ無視。俺が来てもずっと不機嫌な顔で」
どうやらかなり苦労したようだ。
「何にせよ、会わない限りは縁談の是非も決められないと言ったらようやく動いてくれました」
「……随分と難しい御方のようですね」
「難しいと言うか、頑固と言うか……まあ単純で簡単な方ではないですね」
季翠は思わず大きく溜息をついてしまう。
「しかし何であそこまで頑なに……」
「劣等感でしょう」
そう憮然と話し出したのは英起だ。
「葵公子は、葵将軍の本当の息子ではないのです。養い子だと聞きました」
彼もまた、大切な主である自分の姫を侮辱されて憤っている。
英起が言うには、もともと葵戰毅は大影の人間ではないらしい。
「葵将軍は、元は亡国・陽の出身なのです。何でも、陽が大影に敗れ降伏した際の生き残りだそうで」
「随分と詳しいんだな」
四狛が呆れとも感嘆とも言える口調で零す。
「我が姫様の輿入れ先です。内情を把握していて当然でしょう」
もちろん姫様にはお伝えしておりませんでしたが……と、英起は少し罰が悪そうに言葉を濁した。
「夫人とご息女も似てなかったな。しかもまあ、随分と若い奥方で……」
「姫君も、公子と同じく葵将軍の本当の娘ではありません。夫人の連れ子という話ですが、どこまで本当なのか……」
確かに。
姉妹ほどの年齢差で、なおかつ容姿もお世辞にも似ているとは言えなかった。
幼くして子を産む娘は皆無ではないし、父親似だと言われればそれまでだが違和感は拭えない。
しかし、もしそうなら家族全員血の繋がりがほぼないと言っていいということになる。
何とも……。
「歪な家族ですね」
季翠の心情を四狛が代弁する。
それに対して、英起は少し皮肉気に返す。
「家族……というより、実質は同居関係に近いようですよ。聞けば、葵夫人……夫人と呼んで正しいのか分かりませんが、将軍と夫人は今だ正式な婚姻関係を結ばれていないとか」
「そいつは……何でまた」
「さあ、所謂内縁関係と言うのでしょうか。とはいえ将軍からは正室として遇されていますからね、城の人間たちも夫人として扱っているようです」
養い子という負い目、また義母に対する父のそういう曖昧な態度が、息子である公子からは反感を買っており、葵家の父と息子の関係は良くないそうだ。
英起は続けた。
「何にせよ、我々は公子の八つ当たりを受けたのですよ」
季翠は従姉の室の扉に目を向けた。
室は静けさを保ったままだった。
次回予告
婚約者との最悪の対面からふさぎ込む蒼鈴を元気づけようと、季翠たちは北陵の街へと出かける。そして、そこでとある兄妹に出会うことに……。
第二章 北の大地編
第八話「玄家の兄妹」




