第六話 北の若様
第六話 北の若様
「葵将軍のご子息って、どんな方なのかしら。お父様があんなに素敵な方なのだもの、きっと同じように素敵な殿方に違いないわ」
蒼鈴は朝からこんな感じに浮かれていた。
本日、今回の旅の目的の一つである、葵戰毅の息子と皇太弟の第七子――つまり蒼鈴のことである――の顔合わせ、まあお見合いが予定されていた。
しかし蒼鈴はふわふわとしていたが、季翠や蒼鈴の従者である英起は先ほどから時間を気にしていた。
というのも、見合いの予定時間より大幅に遅れているのだ。
今、蒼鈴に気づかれないように四狛が確認に行っている。
しばらくはらはらしながら蒼鈴の話に付き合っていたが、ようやく向こうから人影が近づいてきた。
やって来た蒼鈴の見合い相手――葵家の公子は父親である玄武将軍とは似ておらず、神経質そうに吊り上がった細い眉と切れ長の目、男性らしい薄い唇の整った顔立ちではあるが、抜身の刃のような鋭さと神経質そうな印象を見る者に与えた。
彼の後ろに疲れたような顔の四狛もいる。
季翠は何だが嫌な予感がした。
青年は見合いの場に着くと、開口一番。
「親父は」
「殿は今執務を……」
立ち合っていた兵の答えに、ハッと青年は鼻で笑う。
「義母上の見舞いにも来ない、俺の縁談の場にも来ない、城主というのはよほど忙しいんだな」
嫌味たらしい言い方である。
確か歳は二十一と聞いている。
己の感情を隠すというのを知らない、若く激しい性質が伺えた。
基本的には物腰の柔らかい方であった父親とは大違いである。
「貴殿たちか……」
ようやく青年は見合い相手の一行に目を向けた。
彼は季翠たちを見てそれだけしか言わなかったが、その目は如実に義母が倒れた原因として良い感情を抱いてはいなかった。
「お初にお目にかかる、皇女殿方。葵 戰華だ」
「お初にお目にかかります、葵の若君。帝国第二皇女・季翠と申します。そしてこちらが――「結構だ」」
乱暴に従姉の紹介を遮られ、さすがの季翠もぴくりと眉を跳ね上げてしまう。
「……結構とは?」
「どうせこの縁談は成立しない。ならば紹介も必要ないということだ」
あんまりな言い方だ。
後ろで蒼鈴が動揺しているのを感じ、季翠は一言物申さなければと前に出る。
「……葵の若君」
「あまりにも横暴では。我々はこの縁談を目的の一つに、わざわざ帝都から参っているのです。それに貴殿は家長ではない、縁談の是非を回答する立場ではないのでは?」
季翠の言に、しかし戰華は言い放つ。
「自分の縁談を自分で断って何が悪い」
「相手は皇女でもない皇太弟の、しかも妾腹の女。加えてついこの間帝都に戻ったばかりの未熟な皇女が仲人だ。皇宮側としても、この縁談にそれほど重きを置いていない証拠ではないのか?」
「それは……」
未熟。
確かにそのとおりだ。
季翠は何も言い返せず、押し黙ってしまう。
ここぞとばかりに戰華は言い募る。
「この際だ。はっきり言わせてもらう」
「皇族女との婚姻などまっぴら御免だ!」
「わたくしだってごめんよ!!」
戰華の宣言に、それまで黙っていた蒼鈴が我慢の限界を迎えた。
「黙って聞いていれば、貴方は何様のつもりなの⁉わたくしだけのことならともかく、季翠ちゃんまで侮辱して……っ」
「あ、従姉上」
「何だ、ずっと黙っているから口がきけないのかと思った」
「喋れるわよ!」
戰華の煽りにより、蒼鈴の怒りに更なる油が注がれる。
今にも戰華をひっぱたきそうな蒼鈴を何とか抑え、季翠たちは室に下がることにした。
それを戰華は憮然とした顔で腕を組み見ているだけだった。
「なんっなのよ!あの失礼な男!」
「あ、従姉上、どうかお怒りをお鎮めください」
「だって季翠ちゃん!」
「もう嫌。期待して損したわ……。お父上はあんなに素敵な方なのに、息子の方はあんなに無礼な男だなんて。あんな男とまともに結婚生活なんてできる訳ないわ……」
「従姉上……」
「ごめんなさい、季翠ちゃん……」
力なく項垂れる蒼鈴に、季翠は何も言うことができなかった。
次回予告
第二章 北の大地編
第七話「歪な家族」




