第二話 帝都までの道のり
第二話 帝都までの道のり
まだ二十二歳の若き青年武官・四狛は馬車の上で気まずい雰囲気に一人耐えていた。
彼のすぐ横には、彼が仕える大影帝国の皇女殿下が静かに座っていた。
先ほどから二人の間には沈黙が続いている。
「「……」」
気まずいことこの上ない。
(随分とまあ、大人しい姫だよな。あんだけコケにされたってのに、言い返しもしねぇ)
先の大将軍との謁見だけでも、この姫が西で大切にされてこなかったというのは十分伺えた。
大将軍の彼女に対する態度はもちろんだが、れっきとした現皇帝の第二皇女が育ち故郷を離れるというのに、邸からの見送りも年老いたばあや一人しかいなかったくらいだ。
同じ皇女の第一皇女が南を離れる時は、街道に人が溢れるほど見送りの民が溢れていたと聞くのに…………。
おまけに荷物も馬車一台分で、護衛すらいない。
正確には白虎城から数人つけられていたが、先ほど西牙の門まで来ると帰ってしまった。
なので、現在は四狛一人だ。
(こんな姫についてても、出世は望めないだろうな……。どうせなら、絶世の美女って名高い第一皇女の護衛になりたかった)
とはいえ、末席とはいえ一国の姫の護衛武官に任命されたのだ。
十分な出世と言えるだろう。
「……これからどこに行くのですか」
ふいに今まで黙っていた季翠が口を開く。
思わずビクリとしてしまう。
よもや不敬なことを考えているのが伝わったのか。
「え?え、ああ……このまま帝都に向かいますよ。て言っても、馬を寝ずに飛ばしても二週間はかかるので、途中で町を経由しながらですが」
どもりながらそう答える四狛の様子に怪訝な目を向けるわけでもなく、季翠は淡々と頷くだけだった。
「そうですか」
「帝都に着いてからは、まずは後宮でお待ちいただくことになるかと。御存じだとは思いますが、今は陛下が都にいらっしゃらないですからね。皇女の今後は、兄君である皇子殿下よりお話があると思いますよ」
「そうですか」
(「そうですか」しか言えねえのかよ!)
伯虎雄がこの少女に苛立つ理由が何となく分かった。
(あーあ。俺、これからこの姫とやっていけるのかね……)
前方に今夜宿泊する町が見えながらも、四狛はこれからの道のりに不安を覚えた。